第4話 転校初日→女子に囲まれる→自分で興奮する←今ここ
挨拶も終え、次の授業の準備へ。
転校といっても、それは“前川裕香”としての話。
“前野裕貴”としてここで二年間過ごしていたのだから、授業の勝手はわかっている。そこまで難しいことはない。
「ゆかっち〜!こっちこっち!」
「あ、う、うん……」
真桜が手を大きく振って呼んでくれる。
コミュ障の俺にとっては、本当にありがたい存在だ。
「紹介するね! 桐谷 光のヒカと、白石 麗華のレイちゃん! ――ほんでこっちは“ゆかっち”! 会社の従業員の娘で、私と兄ぃの友達!」
「おー!ゆかっち!よろしくね!」
「へぇ……真桜の友達って大変そうね。よろしく!」
「よ、よよ、よろしくお願いします……」
……友達を紹介してくれるのは本当に助かる。
けど、初めての友達としてはあまりにもレベルが高すぎやしないか?
桐谷 光――ややショートの髪に健康的なスポーツマン体型。
陸上部で全国大会に出場した実績を持ち、一躍学校中で有名になった存在。ちなみに顔は濃いめの綺麗な感じ
白石 麗華――茶髪のロングをポニーテールにまとめ、しなやかなで肉付きのいい体型。顔は年上のお姉さんをイメージした優しい美人。
生徒会の書記を務める才女で、さらにピアノの全国コンクールで賞をとったとか……。
……いやいやいや。この三人のスペック……。
本当に友達として成立するのか?
内心、すでに場違い感で押しつぶされそうになっていた。
「ゆかっちは小柄で可愛いんだよ〜!」
そう言いながら、真桜が後ろから抱きつき、そのまま軽々と持ち上げる。
「わ、わわっ……!ちょ、ちょっと真桜さん!?」
「おー、軽々持ち上げたな〜。私も持ち上げてみていい?」
「裕香さん困ってるでしょ。もう……まったく……」
悲しい現実がひとつ判明する。
三人とも身長は160センチ前後。
……つまり、元男の俺が一番背が低いということになる。
「確かにリスみたいで可愛いな〜。ほら、お菓子あげるぞ!」
まるで小動物を見るような扱いだった。
そんなドタバタを経て、なんとか友達の輪に混ざることができた。
だが俺にとって、思わぬ好機でもあった。
白石麗華。
実は男だった頃から、彼女のことが気になっていた。
当時、ボールペンを落とした時、優しい笑顔で拾って呼び止めてくれた。
地味で目立たない俺にまで分け隔てなく接してくれるなんて……と、その優しさに触れ、つい目で追ってしまったこともある。
好きなんて言葉を使うのはあまりにも失礼だが、憧れに近い感情を抱いていた。
「裕香さん、遠慮せず頼ってね」
「は、はいっ……!」
(うわぁ……白石さんと喋れた……! 嬉しい……!)
「ゆかっち、私の時と反応違う〜。なんか悔しいんだけど!」
「ヒカは距離感が近いからだろうな。」
茶化しながらもフォローを入れる。
……いや、真桜さんも十分近いですから。
授業は一週間ほどブランクがあったものの、そこまで大きな問題はなかった。
「ふぅ……このまま何事もなく終わってくれ……」
心の中でそう願っていた時――。
「裕香さん、疲れた?」
ふと後ろを振り向くと……。
し、し、白石さん!?
「えぇっ!? あ、あわわわ……!」
「え?どうしたの?」
憧れの人が、まさか話しかけてくれるなんて。
衝撃が大きすぎて、頭が真っ白になった。
「え、えと……だ、大丈夫です!」
「同い年なんだし、タメ口でいいよ。ふふっ……裕香さんって面白いね。」
笑った……!?
白石さんが、俺に向かって笑ってくれた……!?
(なんだ今日は……幸せすぎるだろ……!)
「裕香さんは、趣味とかあるの?」
対面すると、自然と距離が近づく。
白石さんの柔らかい香りが、ほんのりと伝わってきた。
「あ……おれ……じゃなくて、私は……」
(ゲ、ゲームなんて言ったら、つまんないって思われそうだ……どうしよう……!)
言葉に詰まっていると、横から真桜さんがひょこっと顔を出した。
「ゆかっちは兄ぃとめちゃくちゃ仲良いんだよ〜!ゲームとか、いっつも一緒に遊んでたの!」
「……!?」
「へぇ、翔くんと?いいなぁ、ゲーム。私はずっと勉強とピアノのレッスンで忙しくて、あんまりできなかったから……やってみたいな。」
「それじゃ、また四人で遊ぼうよ!」
……真桜さん、ナイスフォロー!
というか、俺と白石さんの会話、まさか丸聞こえだったのか……!?地獄耳にもほどがある……!
「つ〜かまえた!」
「うひぃっ!?」
またしても後ろから抱きつかれる。今度は…
「なるほど〜、これは確かに抱き心地いいなぁ。……飼ってみたいわ、ほんとに笑」
桐谷さんだった。女子とはいえ、陸上で鍛えられた体は筋肉質。
その腕にがっちりと抱き込まれると、抵抗もむなしく頭まで撫でられてしまう。
「わ、わわわ……!」
「せっかく話してたのに……」
白石が少し呟く。
そこへチャイムが鳴る直前、真桜さんが明るい声で割って入った。
「ていうか、次の授業のあと、お昼はみんなでご飯食べよ!」
「オッケー!」
「……はいはい、了解。」
(お……俺も入ってるのか!?)
胸がどきどきしっぱなしのまま、次の授業に突入することになった。
お昼休み。
教室の机をくっつけて、四人でランチタイムが始まった。
真桜は家政婦に作ってもらった弁当、
白石は両親が用意してくれたもの、
桐谷は購買のパン。
そして俺は――。
パカッ、と弁当箱を開く。
「ゆかっち、美味しそ〜……って、あれ?社宅で一人ってことは、もしかして自分で作ってきた?」
「え、う……うん。そうだね。」
「えー!すげぇ!自炊女子ってほんとにいたんだ!」
「本当だ、普通に美味しそう!」
「え、ええ……ありがとう……です。」
皮肉な話だ。
両親がまともにご飯を作ってくれなかったから、ずっと自分で作ってきただけ。
でも、そんな料理で褒めてもらえるなんて……。
やっぱり聖人の周りには聖人が集まるもんなんだな。
「ね、ゆかっち!今度お泊りしていいかな?私もゆかっちの料理食べたい!」
「へ?」
「いいね〜歓迎会だ!……まぁ、私達がされてる気もするけど笑」
「歓迎会の意味わかってる?まったく、二人とも。」
「というわけで、ゆかっち!また行くからね!」
「は……はい……待ってます……」
初日から畳みかけるような情報量に、頭が完全にパンクしていた。
***
放課後。
「ってことがあってさ……」
「まぁ、それは大変だったな。」
俺は翔と一緒に下校していた。
真桜たち三人はそれぞれ部活やら用事があるらしく、残ったのは俺と翔だけ。
……逆に予定がない翔が意外だった。
「俺……やっていけるかな。女子として。」
「初日なんてそんなもんさ。前例もないんだから手探りで当然だろ。俺も協力するから、頑張れ。」
(やった……!やったぞ!今日の午後の予定は全部キャンセルしてやった。初下校、ゲットだ……!)
「翔……ありがとう。やっぱりお前といると一番ほっとするよ。」
「俺もだよ。」
(……めちゃくちゃドキドキしてるけどな。)
会社の前で翔と別れる。
「また元気に来いよ!」
「お疲れさん!」
そして俺は用意された社宅へ帰り、制服のままベッドへごろんと倒れ込む。
「真桜さんの友達……みんないい人だったな。……スキンシップ強いけど。」
「それに……憧れの白石さんと話せた。……奇跡だな。」
白石さん……距離近かったなぁ。
それに、いい香りがして……。
「白石さん……笑ってくれたな。白石さんだけじゃない……人生で一番、女子と話せた日かもしれない。」
思い返すと、胸が急にドキドキしてきた。
抱きしめられ、頭を撫でられ、可愛いと言われて……。
その実感が、なぜか今になってじわじわと込み上げてくる。
「“可愛い”……なんて、初めて言われたな。」
むくっと立ち上がり、姿見の前に立つ。
「これが……可愛い、か。」
3人の美女に囲まれていたときは、どうしても芋っぽく見えた。
けど、一人で映る自分は――思ったより悪くない。
思い切って顎に手を添え、内股で立ってみる。
「……っ!」
鏡に映るのは、裏アカで見かけるあざとい女子そのものだった。
(危ない女子みたいだ……)
言葉にできないざわめきが、胸の奥で膨らんでいった。
そこでふと、スカートを折り、シャツのボタンを少し開けてみる。
「うわぁ……これ、は……」
鏡の中に現れたのは、清楚な雰囲気から一変した、かなり刺激強めの女子高生。
もともと落ち着いた印象だったからこそ、そのギャップは強烈だった。
「俺……めちゃくちゃエロいな……」
思わず口からこぼれる。
視線の先にいるのは紛れもなく自分なのに、ネットでしか見たことのない魅力がそこにあった。
セクシーなポーズを試していく。
女の子座り、体育座り、そして……思い切って開脚。
「っ!」
脳裏に一気に熱が走り、思春期男子の頭が反応する。
……でも、そこにいるのは“女の自分”。
現実感と非現実感がせめぎ合い、胸がざわざわと震えていた
好奇心というのは、高まれば高まるほど――危ない方向へと進んでいく。
気づけば俺は、そのままシャツとスカートを脱ぎ捨てていた。
鏡の前に立つ自分は、シンプルな白色の下着姿。
けれども、上品なフリルと前にかわいいリボンがあしらわれているせいか、不思議と制服姿のときよりも“おしとやかさ”が増して見える。
「改めて……俺、ほんとに女になったんだな……」
小さく呟いた声は、自分でも驚くほど震えていた。
何かの要因で、頭の中のスイッチが入ってしまったのだろう。
胸の奥がざわつき、頭は妙にムラムラしていた。
気づけば俺は、鏡の前で色っぽい表情をつくり、誘惑するようなポーズをとっていた。
「……ん……すご……」
自分自身に興奮するなんて、普通じゃ考えられない体験だ。
入れ替わりものとかなら罪悪感があるのかもしれない。
でも――これは紛れもなく俺自身の身体。
問題はない……はずだ。
キュン……。
下腹部の奥に、妙な快感が走る。
「ゴクリ……これって、女の身体の……反応……?」
鏡に映る自分の姿と、未知の感覚に、鼓動はどんどん早まっていった。
俺はその日、一人で初めての快感を味わった。




