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第36話 俺がしんどい中、知らない所で知らない大事な話してるそうです

翔の下校を、慎重に尾行する神崎。

周囲をきょろきょろと確認しながら、物陰に身を潜め、距離を保って後を追っていた。


(ダメだって、わかってる……)


それでも、気になって仕方がなかった。

一定の距離を保ちつつ、じわじわと、しかし確実に翔の後をつける。

神宮寺製薬の場所も、そこから少し離れた場所に翔の自宅があることも知っている。


いつものルート――そのはずだった。


「……一人?それとも……今日だけ……?」


塀の陰から、こっそりと様子をうかがう。

いつもなら直進するはずの道。

――しかし。


「……っ!」


翔は、そこで曲がった。


「そっち……神宮寺製薬から、離れる方向……?」


心臓が、どくん、と強く鳴る。


(後から……誰かと合流するの……?)


呼吸が浅くなる。


「ふぅ……ふぅ……落ち着け、私……」


自分に言い聞かせるように息を整え、そのまま尾行を続ける。

同じ角を曲がり――


「……あれ?翔くんは……?」


視界に、翔の姿がない。

慌てて周囲を見渡すが、どこにもいない。


「……そんな……」 


胸の奥が、すっと冷えていく。

――その瞬間。

追い詰めるように、背後から声がかかった。


「君。翔くんと同じ高校の生徒だね?

彼を尾行していたようだが……本人から連絡が入った。目的は何だ?」


振り返る。

そこに立っていたのは、長身の男。

目立たない服装だが――一目でわかる。


(……護衛……)


翔の、尾行対策。


(うそ……本当に、いたの……?)

(いや……なんで、気づかなかった……!?)


「あ……わ、私は……その……たまたま……」


「たまたま?普段とは違うルートまで追いかけておいて?」


「……っ」


言葉が、出なかった。

言い訳も、弁明も、すべて喉の奥で絡まって消える。

神崎天音は、その場に立ち尽くすしかなかった。


「……す、すいません!」


神崎は反射的に全力で走り出した。

――しかし。


ガシッ!


腕を掴まれ、勢いよく引き止められる。

「駄目だ。事情を聞かせてもらう。

同じ高校の生徒なら、わかるだろう? 彼がどんな立場にいる人間か。 そして君が、神宮寺製薬に悪影響を及ぼす存在ではないことを、 君自身が証明できるかな?」


「……っ!」


「いや……っ! 触らないで! 離して!!」


思わず声を荒げる神崎。

だが、護衛の手は緩まない。


「落ち着け。抵抗しても駄目だ」


そのとき――


「……神崎……だったのか……?」


聞き覚えのある声。

神崎の思考が、一気に真っ白になった。

――今、一番会いたくて。 そして、一番会いたくなかった人。

ゆっくりと視線を上げる。


「あ……やだ…………翔……くん……」


夜の空気が、さらに冷たく感じられた。

その一言で、空気が重く沈んだ。


「……ごめん……違うの……」


もう、何を言っても無駄だとわかっていた。

言い訳も、取り繕う言葉も浮かばない。

それでも、口をついて出たのは――謝罪だけだった。


「すみません。この子は……信頼できる友達です。

離してあげてください」


「……了解しました、翔くん。 くれぐれも、お気をつけください」


護衛はそう言い残し、神崎の腕から手を離す。


「……はい。ありがとうございます」


その場には、言葉を失った神崎と、 静かに息を整える翔だけが残った。


ーーーー



「……座ってくれ。紅茶でいいか?」


差し出された言葉に、神崎は小さく頷いた。


コクリ。


翔は彼女を、自室へと案内する。


(……翔くんの部屋…広い…オシャレ…)


「……それで、

どうして……後をつけるような真似をしたんだ?」


問いは責める口調ではなかった。

だからこそ、その一言が胸に重くのしかかる。


「……それは……どうしても、気になって……気になって……仕方なくて」


絞り出すような声だった。


「気になって……一体、何が気になったんだ?」


翔は圧をかけることも、責めることもせず、

ただ確認するように、静かに問いかける。


その“優しさ”が、神崎には余計につらかった。


(なんで……こんなことに……)

(最悪……もうやだ……消えたい…死にたい!…)


これまで積み上げてきた自信とプライドが、

音を立てて崩れていくのがわかった。


翔に認められたくて。

横に並んでも、見劣りしない存在でいたくて。

運動も、勉強も、実績も。

誰よりも努力してきたつもりだった。

邪魔する者は実力で蹴落としてきた。


だからこそ――

神崎の目には、

“どこにでもいそうな、ぱっとしない転校生”が、

翔と親しげに笑っている光景が、どうしても許せなかった。


「……ごめん、私……見ちゃったの……体育祭のとき……」


「倉庫裏で……コソコソして……二人で、写真撮ってたの……」


「……」


一瞬の沈黙のあと、翔は小さく息を吐いた。


「……やっぱり、か……」


「え……?…気づいてたの?」


「いや……確信はなかったただ、バレーの授業のとき……

やけに絡んでたから、もしかして、気づかれたかなって……

裕香に聞こうかとも思ったが……」


(……裕香……お互い、名前で…呼び捨て…)


「……そんなところまで見てるなんて……

前川のこと……そんなに気になってるの?」


翔は、少しも迷わず答えた。


「いや。幼馴染なだけだよ」


きっぱりとした声だった。


「変に絡みすぎると、他の女子とトラブルになりかねない

だから……ああいう形で、距離を取ってただけだ」


「…………そう……なんだ……」


神崎は、ほっとしたような、

それでいて胸の奥が空洞になるような、

複雑な表情を浮かべた。


それでも、神崎の疑念は晴れなかった。

自分を含む他の女子に向ける顔と、

あの子、前川裕香に向ける顔。


そして――

体育祭のあの一瞬の、

誰にも見せていないはずの小さなガッツポーズ。


あれは、特別だった。

「幼馴染」という言葉だけで片づけられるものじゃない。

そう、はっきりわかってしまった。


「……つけるような真似して……ごめんね……」


神崎は俯いたまま、か細く呟く。

でも――

奪われたくない。

その想いが、理性を越えてしまった。


「私……翔くんのこと……好き……

翔が……他の女子と親しげにしてるの……我慢できない……」


震える声。

それでも、逃げずに言い切った。


「……うん…知ってるよ」


「……っ!」



「……だったら……答えを……教えてほしい……」


翔は一度、強く目を閉じた。

覚悟を決めるように、深く息を吸ってから、口を開く。


「……ごめん。神崎に応じることは、できない……」


「………………」


ぽろり。

一粒、涙が床に落ちる。


ぽろ……ぽろ……。

白鳳学園でも屈指の実力者。

強気で、誰からも畏怖と敬意で一目置かれてきた“女王”。

その神崎天音が、


今はただ――

か弱い少女のように泣いていた。


「……う……うぅ………やっぱり……追いかけたから……?」

「……それなら……私、ちゃんと反省する……! 悪いことしたのは……わかってるから……!」


必死に取り繕う言葉。

それでも、翔は首を横に振る。


「違うんだ…俺は……俺には……好きな人がいる……」


涙に濡れた目が、大きく見開かれる。 


「……翔くん……が……?」


翔は、迷わず――

静かに、確かに、頷いた。



せめて、せめて

この悪い予感だけは、外れてほしい。

神崎は必死に言葉を選んだ。


「う……うぅ……!……やっぱり……?

でも……違うん、だよね……?」


「………………」


翔は、否定しなかった。

一見すると意味の通らない問い。

だが、この場にいる二人にとっては――

それだけで答えが確定してしまう質問だった。


「……なんで……」 


喉の奥が、ひくりと震える。

なんで――

あんな芋女。

スタイルだって普通、運動もできない、どもる、要領も悪い。

正直、何がいいのかわからない。

――そう叫びたかった。


けれど。

それを口にすれば、翔を傷つける。

それだけは、どうしてもしたくなかった。


「……なんで……か……」


翔は、深く考え込む。


「……幼馴染だから?」

(……翔くん、こんなに深刻な顔……初めて見る……)

(そこまで想える人……なんだ……)




一方、その頃の翔の頭の中。


(なんで、かぁ……)

(言えるかあぁぁ!!

高校二年の文化祭で女装してるとこ見て一目惚れして

男の頃から「なんかいいなぁ〜」って思ってて

ワンチャン志願してくれねぇかなって下心込みで

性別転換の研究進めてたら本当に志願してきて

そこからどんどん可愛くなって女子力も増してきて

距離感も近くなって気づいたらもう好きになりすぎて!!

独占欲まで芽生えた!!)


(なんて言える訳ねぇだろ!!いや、もう言っちまうか?

俺、頭イカれてるって思われたほうがいいのか?!)



「……ふぅ……」 


翔は一度、息を吐いた。


「別に……そんな特別な話じゃないさ」


「幼少期から……家柄だの、環境だの……

いろんな人に出会ってきたけどさ」


「どいつもこいつも、

肩書きとか、家の力とか、資産とか……

そういうものばっかり見てた」


「俺自身を見てくれる人は……正直、少なかった」


「……中学の頃の、彼女は……?」

神崎が、震える声で尋ねる。

「……似たようなもんさ俺と付き合ってる“ステータス”が欲しいだけの人ばっかりだった」


「でも、俺の良いところも、悪いところも、

ちゃんと見てくれる人が……いた」


「それが……彼女だった…それだけだよ」


「……そう、なんだ……」



「……ありがとう……教えてくれて……」


「神崎だから教えたんだ。これは……俺からの敬意だ」


(ふぅ……めちゃくちゃ無難で、めちゃくちゃありふれた話だけど…………信じてくれた、っぽいな……助かった……ほんとに……)


「……敬意?私に……?つきまといに対して?」


「ああ。

神崎、お前はなんだかんだで、ちゃんと俺を見てくれてた。

他の女子だったら、追い払って終わりにしてたよ」


「……」


「よくない評判も耳には入ってくる。でもな、俺は知ってる。

みんなが思ってるより、お前がずっと純粋だってことも。

それに……負けず嫌いなところもな」 


「……私のこと……そんなふうに見てくれてたんだ……」


「同じクラスで、体育祭も一緒にやっただろ。優勝もできた。

……楽しかったよ」


「……うん、私も……楽しかった」


重く張りつめていた空気が、少しずつほどけていく。


「ねえ、翔くん……これからも……仲良くしてくれる?」


「もちろんだ。神崎が、それでいいならな」


「……ありがとう、翔くん」


一瞬だけ、神崎の表情が柔らぐ。


「それと……その……だな」


翔は言いづらそうに視線を逸らしながら、続けた。


「……あんまり、圧をかけてやらないでくれるか?

向こうは……結構、臆病な性格なんだ」


「……?圧? 臆病?誰の事いってるの?」


「誰って……そりゃ……」



「……裕香のことだ」


「……ふふ!やっと名前、言ってくれた。

翔くんらしくないね。そんなオドオドして、私しかみた事ない翔くん!」


「なっ……!嵌めたな?」


「ごめんごめん!でもさ、大丈夫だよ」


「あの時は……正直、モヤモヤしてて絡んじゃったけど。

もうしない。それは……約束する」


「……ありがとう、神崎」


「ううん……こちらこそ……ごめんね」


――こうして、

神崎天音は

“引くこと”を選んだ。

だがそれは敗北ではなく、

自分の誇りを守った上での、一歩引いた選択だった。


神崎が部屋を後にし、

静まり返った空間に、翔だけが残された。


「……ついに、言ったな。

“好きな人がいる”なんて……それも、神崎に」




「神崎……泣いてたな」


思いを伝える怖さ。

断られる痛み。

それを真正面から受け止めた彼女の強さ。 


「……俺も、もう後には引けないな

四の五の言ってられねぇ……」


決意は、静かに、しかし確かに固まっていた。



ーーーー



一方、その頃俺はという…


「うぅ……いたた……」


「ゆかっち、大丈夫?」


「うん……大丈夫。

たぶん、ストレスと生理痛が重なっただけ……かな」


「ありゃま、それは大ごとだね」


真桜さんはそう言いながら、

神宮寺製薬の鎮痛薬と水を差し出す。


「ありがとう……なんか、優しさがしみる……」


「明日、学校来れそう?」


「うん……多分、大丈夫」


「おっけー!無理しないでね、ゆかっち!」


そう言って、部屋を後にする。  


「あ〜…最近ついてないなぁ」


「取り敢えず、寝よう!寝て明日の俺に任せよう!」


ぐっすり裕香が寝てる中

想いが伝わらなかった者

決意を決めた者がいた事は彼女は知らない。

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