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第32話 体育祭マジック爆発中

ダンスパフォーマンスは、各グループとも無事に終了した。

残る競技は、いよいよリレーのみ。

翔は静かに腰を落とし、どこか沈んだ表情をしている。

一方で剛は、そんなことは気にも留めず、のんきに周囲を眺めていた。


「………………」


「どうした? 緊張してるのか?」


「……いや、大丈夫だ」

(チアユニフォームの裕香の写真……撮り損ねた……最悪だ……

もう終わりだ……)


「そうか」


そんな会話の最中、横から一気に賑やかな声が響いてきた。


「よ、良かったら……俺と付き合ってください……!」


男女混合のグループに囲まれ、

覚悟を決めた様子の男子と、

顔を真っ赤にして言葉を受け止める女子。


「よ……よろこんで!」


「よっしゃー!!」


「やるじゃねぇか!!」


「おめでとう!」



体育祭での告白は、決して珍しくない。

今日もまた、ひと組のめでたいカップルが誕生した。


それを眺めながら、剛が感心したように言う。


「おー、盛り上がってんな。体育祭マジックってやつか」


翔はゆっくりとそちらに視線を向ける。


「……体育祭マジック、か……」


裕香とのチアユニフォーム姿のツーショットを逃した翔は、

いまだ心の傷に浸っていた――しかし、その瞬間、

ふと、ある考えが頭をよぎる。



(告白……俺も、もうしていいんじゃないか……?

条件的には悪くないだろ。将来は会社を継げば安泰だし、

裕福に養うことだってできる。容姿だって悪くない……

今まで告白はしたことないが、

関わってきた女子を落とすくらい余裕だった……

いける……俺なら……!)


ムクッ…!


勢いよく立ち上がった。


「体育祭マジック、か……それも、悪くないもんだな」


「お、おう……最近お前、なんか……変わったな」



短い休憩を挟み、

各グループはリレーの準備へと向かっていく。


部活動対抗リレーも無事に終わり、

いよいよ今大会最後の種目チーム対抗リレーが始まろうとしていた。



「ふぅ……」


「悪くなさそうだな、久我くんよ」


「ウォーミングアップを念入りにしてたから、だいぶ調子いいみたい」


「ところで、飯田くんは?」


「さぁな。あいつ、よくふらふらしてるからな」



翔と久我が準備を進めていると、

背後から聞き慣れた声が割って入る。


「ふらふらしてるわけじゃねぇぞ。

こっちは部活動対抗リレーから帰ってきてんだ」


「おーう、お疲れさん」


各グループは男女別で8人編成。

翔たち青組では、


6番手――飯田

7番手――翔

8番手――久我


という順番になっていた。

それぞれが最終調整を終え、

少しずつスタートの時が近づいていく。



ーーーー



場面は変わる。

俺はというと、すでに出場種目をすべて終え、

ユニフォームから着替えも済ませていた。

あとはただ、競技の終了を待つだけだ。


「あ〜……ヤマを越えたあとの休憩って、至福だなぁ……」


身体の力を抜きながら、

校庭の賑わいをぼんやりと眺めていた。


「ヒカ、おつかれ〜!!」


「なはは〜!これからまたチーム対抗なのだ!」


部活動対抗リレーで女子陸上部として爆走し、

見事一着でゴールした桐谷さん。


その直後に、さらにチーム対抗リレーにも出場するというのだから、その体力と気力にはただただ感心する。


「最後の最後まで、大変ね」


「高校生最後だからなぁ!

それに真桜も出るし、楽しみだ!」


「おお!私たちで最後に稼ぐぞ!」


真桜さんと桐谷さん

同い年とは思えないほど、エネルギーが有り余っている。


実際、赤組と青組の得点は僅差。

このリレーで勝敗がほぼ決まる――そんな空気だった。

ぜひとも二人には、思いきり走ってほしいところだ。


「それじゃ、裕香さん。

私たちは観客席に行って応援しよっか」


「うん、そうだね」


そう言って観客席へ向かおうとした、その時――


「あ!兄ぃだ!おーい!」


真桜さんが、向こうで準備をしている翔たちに向かって大きく手を振った。


その声を聞き、翔たち三人がこちらへ向かってきた。


「もうちょい声は抑えてくれよ、恥ずかしいな」


「へへへ!体育祭なんだからいいじゃん」


女子の俺たちと、翔たち男子が合流する。

赤組と青組、敵同士のはずなのに――

なぜかチームの垣根なんて関係なく、

これから始まるリレーを一緒に迎えるような、不思議な空気だった。


「光、やっぱりぶっちぎってたな」


「陸上部だからな!剛もいい走りだったぞ!」


そんなやり取りが続く中――

「久我くん……その……チームは違うけど……頑張ってね……!」


「白石さん……ありがとう。頑張ってくるよ」


……なんというか。

空気が一気に熱を帯びて、少し気まずくなる。


「裕香……」


「ん? 翔、どうしたの?」


「いや……その……」


言葉に詰まる翔。


「翔、俺からもだけどさ……

チームは違うけど、友達として応援してるからな」


「……!……ああ、ありがとう」


どことなく、翔の様子がぎこちない。

いつもと少し違う……

何かあったのかな?

そんな心配を胸の片隅に残したまま、

俺と白石さんは観客席へと向かった。



「おーい、翔。そろそろ行くぞ?」


飯田が声をかけるが――


「……………」


「翔?」


「ん、あ! ああ、そうだな。今行く」


(告る……裕香に……リレーで活躍して……告る……?

……告るって、どうするんだっけ?)


翔は、これまで一度も自分から告白したことがなかった。

それも無理はない。

今まで付き合ってきた相手は、すべて向こうからの告白。

気になった異性を“落とす”ことはあっても、

それはあくまでゲーム感覚だった。

自分の容姿、実績、家柄――

それらがあれば、相手が惹かれるのは当たり前だと思っていた。


だからこそ、

「想いを言葉にして伝える」経験が、決定的に欠けている。



「……とりあえず、今はリレーだ。久我くんにいいとこ見させてやらないとな…」


自分に言い聞かせるように呟き、集合場所へ向かう。


翔、飯田、久我。

そして真桜と桐谷。

赤組と青組、

体育祭最後の種目。

最後の戦いが始まる。


俺は観客席から、その様子を見守っていた。


「おお……すごい緊張感……」


さっきまであれほど賑わっていた会場が、

嘘のように静まり返っている。

聞こえるのは、風の音と生徒の息遣いだけだ。


俺と白石さんは、

ダンスパフォーマンスで使ったボンボンを手に、

リレーの開始を待っていた。


「最初は女子からか……

真桜さん……桐谷さん……がんばれ……!」


パァン!!


号砲と同時に、レースが始まる。


序盤は完全な接戦。


しかし――


真桜さんが、ぐんぐんと前へ出る

力強いフォーム、迷いのない走り。


一気に順位を押し上げ、そのままバトンはアンカーへ。

アンカーは、もちろん桐谷さん。


そして


「うおー! 一着だ!!」


桐谷さんが、ゴールテープを華麗にくぐり抜けた。


「「やったー!!」」


思わず、白石さんと同時に声を上げる。


「白石さん、これ……赤組、勝てるかな?」


「多分……いけるんじゃないかな?」


点差は、赤組がリード。

流れは完全にこちらだ。



――次は、男子の番。

会場の空気が、再び張り詰めていく。


「……頑張れ……久我くん……」


ぼそっと呟かれたその声を、

俺はかすかに――いや、確かに聞いてしまった。

体育祭の高揚感のせい、

そう思おうとしても、胸の奥がちくりと痛む。


……でも、それはお互い様だ。

かくいう俺も、敵チームであるはずの翔に、

心の中でそっと友達として「頑張れ」と念を送っていたのだから。


パァンッ!


再び号砲と同時に、男子のレースが始まる。



うちのクラスは、運動部がそこそこ揃っている。

序盤は赤組が踏ん張るものの――

青組が、じわじわと距離を詰め、

そして一気にリードを広げていく。


「うし、巻き返すぞ」


グワッ――!

サッカー部エース、飯田くんが猛烈な勢いで追い上げてきた。


「あわわわわ!! 飯田くん、速い!!」


そして、それだけじゃない。

次に待っていたのは――翔。


「ほい、翔。あとは頼む」


「任せろ」


ゴッ――!!

……速い。いや、速すぎる。

陸上部ですら目を見張るほどのスピードで、

翔は一気に加速した。


「「「きゃーー!! 神宮寺くん!!」」」


いつもの、黄色い歓声。

……おいおい、赤組の君たち。

なんで敵を応援してるんだよ。


その声援に後押しされるように、

翔は先頭の赤組をあっさりと抜き去り、1位へ。

そのまま、さらに差を広げていく。


「……やっぱり……すごいな……翔は」


赤組がピンチだというのに、

俺は思わず、その背中に見惚れてしまっていた。



そして、青組が真っ先にバトンをアンカーへとつないだ。


「行け……久我くん……!」


「……ありがとう!」


ダッ!!


テニスのときの運動音痴ぶりからは、まるで想像もつかないほどの綺麗な走り。

一歩一歩に、積み重ねてきた努力の結果が滲み出ている。


「久我さん……」


そういえば、ずっと翔と一緒にトレーニングしていたんだっけ努力できる人って、やっぱりすごい。


「久我くん!!」


隣から、ひときわ強い応援の声が聞こえる。


そして――


「うぉぉぉ!!」


久我さんが、見事ゴールテープを切った。

勝ったのは、青組だった。


「やったぁ!!」

白石さんは、心から嬉しそうに声を上げる。

……俺は、思わずその横顔を見てしまった。


「あ、いや……つい、ね……個人的に…ね。

赤組、残念だったね」


「ま、まぁ……私も久我さんが頑張ってるの見てたし……

なんとなく、応援したくなる気持ち……わかるよ」


俺は、その気持ちを否定できなかった。

久我さんの努力も、

白石さんの視線も、

なんとなく知っていたから。

だから、その場は深く踏み込まず、静かにやり過ごした。



―――――



「それでは、結果発表を行います!」


「1位……青組!」

「2位……赤組!」

「3位……緑組!」

「4位……黄組!」


「あちゃ〜、負けちゃったなぁ……」


「なは〜……ちょっとショック」


「でも、リレーは二人とも本当にすごかったよ。ねぇ、裕香さん?」


「う、うん! 真桜さんと桐谷さんがいたからこその2位だよ……!1位は……仕方ないよ。翔と飯田くんがいるし」


「でもさ、楽しかったよ! みんな、ありがとね!」


真桜さんは、いつだって元気だ。

そうだ、体育祭。

色々と大変だったし、

複雑な感情もあったけど――

無事に終えられて、本当に良かった。

……楽しかったな。

これで俺も、

少しは――陽キャに、なれたかな……?



閉会式も終わり、

生徒たちはそれぞれ片付けや帰宅の準備へと散っていく。


「……し、神宮寺先輩……その……」


翔は、いつものように女子の輪に囲まれていた。

震える声で前に出てきたのは、後輩の女子生徒。


「わ、わたしと……付き合って下さい!!!」


「キャー!!言った!!」


周囲は一気に騒然となる。

体育祭の高揚感が、その場の空気をさらに煽っていた。

だが――

翔の返答は、静かで、迷いのないものだった。


「あー……ごめんね。

気持ちは嬉しいけど、断らせてもらうよ」


「……そう、ですか……。

……ありがとうございました……」


後輩の少女は涙をこらえながら頭を下げ、

友人たちに支えられてその場を離れていった。

翔は、何事もなかったかのようにその背を見送る。


(……これで三回目か…すげぇよな。告白する側ってさ……)

(きっと、勇気を振り絞って言ったんだろうな……)


そして、ふと浮かぶ一人の顔。


(……よし、言うぞ……裕香に)


翔はスマホを取り出し、短いメッセージを送った。


【悪い。ちょっと倉庫裏に来てくれ。すぐ終わる】



―――――



俺はそのメッセージを受け取り、倉庫裏へ向かっていた。

歩いている途中、


「おおお!!おめでとう!!」


なんて声が聞こえてくる。


「告白フィーバーかよ……くそ、爆発すればいいのに……」


そんな陰キャ全開の独り言をこぼしつつ、

俺は翔の待つ場所へ向かった。

倉庫裏には、翔が一人で立っていた。


「裕香……」


「あ、翔!おつかれ!

リレー、やっぱりすごかったな。かっこよかったよ」


「ああ……」


一瞬、沈黙。


「裕香……実はな――」


翔は言いかけて、言葉を止めた。



(……言えないなんでだ……?)


胸の奥が、ぞわりと冷える。


(怖い……?この俺が?恋愛無敗の俺が……?

告白って……どうするんだ……?

何て言えばいい……?

クソ……クソクソクソ……!!)


今まで、

告白される側だった。

選ぶ側だった。

断ることに、慣れすぎていた。

自分の言葉で「失うかもしれない」立場になるのが、

こんなにも――怖いなんて。




「翔?どうしたんだ?」


「…………写真」


「……ん?」


「なかなかさ、ツーショット撮れなかっただろ」


必死に、平静を装う。


「ほら、俺ってモテるし

裕香は友達だけど、周りから見たら変な噂も立つしな」


「だから……こうして、こっそり撮ろうと思って」


「……な、なんだよ!そんなことか!」


俺は肩の力を抜いた。


「びっくりしたじゃないか」


スマホのインカメで、二人並んで写真を撮る。

翔の表情は、どこか寂しそうだった。


「あとで送るからな」


「……おう。それより裕香。

チアユニフォーム、似合ってたぞ」


「!!?!や、やめろよ!!

俺の事情知っててそれ言うの、残酷すぎるだろ!!」


「ははは!仕方ないだろ。本当のこと言ってるだけだ」


「うう……罰ゲームかよ……」


「まぁ、真桜のわがままに付き合ってやってるんだろ?

ありがとな」


「そ、そういう時もあるけど」


「最後の体育祭だ。お前、楽しそうにしてたしさ。

いい思い出になったんじゃないか?」

(……今は、このツーショットでいい)

(いつか……いつか、必ずちゃんと、告白する)


「そうだな……色々あったけど、楽しかったよ。

陽キャの気分、ちょっと味わえたかな」


「なんだそれ」


倉庫裏で交わす、

翔との冗談混じりの雑談。

やっぱり、この距離感が一番落ち着く。

今日は、頑張って良かった。

そう、心から思えた。



……だが、そんな楽しそうな俺たちの時間に、

新たな変化が静かに忍び寄っていた。


「翔くん……どこにいるの?

もう、せっかくの体育祭なのに……」


校舎周辺を歩き回りながら、

必死に翔の姿を探す女子がいた。

女子バスケ部キャプテンにしてエース

神崎天音。

強気で負けず嫌い、

その彼女が、ふと足を止める。


倉庫裏、ほんの出来心で、ちらりと中を覗いた、その瞬間

そこには、

探していた翔と、

親しげに談笑する一人の女子の姿があった。

距離は近く、

空気は柔らかく、

まるで二人だけの世界のようで――

神崎の表情が、凍りつく。


「…………は?…誰、あいつ?」


胸の奥で、

得体の知れない感情が渦を巻く。


(私が探してる間に……?)

(なんで、あんな距離で……?)


この裕香を巡る恋模様は、

まだ始まったばかり。

静かな火種は、

やがて大きな波乱を呼ぶ予感をはらみながら、

確かにそこに生まれていた。

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