第31話 ついにきた体育祭。俺も陽キャになるんだ!
そして……ついにやってきた、体育祭当日。
「これより、第〇〇回 私立白鳳学園体育祭を開催します!」
代表生徒の力強い宣誓とともに、ついに体育祭が始まった。
合同のラジオ体操を終えると、
生徒たちはそれぞれのグループへと分かれていく。
翔、飯田くん、久我さんがいる1組は青組
俺と真桜さん、桐谷さん、白石さんがいる2組は赤組。
そのほか、3組は黄組、4組は緑組。
校庭は、色とりどりのチームカラーに染まっていた。
胸の奥に溜まった不安を吐き出すように、
俺は小さく息をつく。
(どうか……どうか無事に終わりますように……!!)
そう心の中で強く願いながら、
俺はこれから始まる一日を見つめていた。
「うおー! 上がってきたぞ!!」
「ヒカ! いってらっしゃーい!」
まず最初の競技は、100メートル走。
ここは我らが桐谷さんが先陣を切ってくれる。
俺はというと、
目立たないように、ひっそりと応援に回っていた。
(がんばれ……桐谷さん……)
胸の前で小さく拳を握りしめながら、
トラックに立つ彼女の背中を見つめる。
集合場所へと、桐谷さんが向かっていく。
そしてーー
「オン・ユア・マークス……!」
一瞬の静寂。
「セット……」
パァン!!
乾いた号砲と同時に、
女子100メートル走が始まった。
「おりゃあぁああ!」
スタートから一気に前へ飛び出し、
桐谷さんはそのままぶっちぎりの1位。
……そりゃそうだ。
全国レベルの選手が、
その辺の運動部に負けるはずがない。
「ヒカ、お疲れ!」
「すごいわね……やっぱり」
「なははは! 先手必勝!」
タイム順で各組に点数が配点されるルールだ。
おかげで赤組は、序盤から高得点を確保できた
このまま一気に赤組が抜け出す――
そう思ったのだが
3組目
「……セット…!」
パァンッ!
再び号砲が鳴る。
桐谷さんほどではないが、
それでも目を引くスピードで前へ出る選手がいた。
「ふぅ……まぁ、1位で良かった」
ゴール後、そう呟いたのは
女子バスケ部エース、神崎天音。
元々、俺と同じ1組。
少し気が強めで、かなりの負けず嫌い。
スクールカースト上位の体育会系女子だ。
前の俺には冷たい目線を向けてたので正直、俺は少し苦手…
同じ体育系でも、無邪気な桐谷さんとはだいぶ違う。
「翔くん! 1位取ったよ!!」
「おお、やるじゃん。さすがエース」
「男子は翔くんも走るんだよね? 頑張ってね!」
「おう。点、取りに行ってくるわ」
こうして、
赤も青も譲らないまま、
体育祭は一気に熱を帯びていった。
「なは〜……やっぱり天音は速いなぁ」
「でも、桐谷さんはまだ1位だから大丈夫……!」
ひとまず、赤組は女子のおかげでそれなりにリード。
次はいよいよ男子の部だ。
「翔、お前、何組目?」
「1組目」
「お、いいな。目立ってこいよ」
「ぶっちゃけ、勝手にキャーキャー言われる身も面倒なんだけどな」
(……一人以外は、な)
翔は視線を巡らせる。
(赤組、赤組……いた…!)
2組の女子たちを、じっと見つめる翔。
翔がスタートラインに立っただけで、周囲がざわつき始めた。
「えっ!? 神宮寺くん1組目なの!?」
「赤組応援したいけど……! 神宮寺くん頑張れ!」
「絶対、今私のこと見た!!」
……なんてこった。
赤組の女子が、普通に青組へ加勢し始めている。
「あ、兄ぃ、走るんだ」
「翔くん、さっきこっち見てたけど……誰を見てたのかな?」
(白石さんあたりか?今日は化粧やら髪型やらでみんな気合入ってるし……誰を見てたんだろう)
一方、その頃の翔。
(ああああぁ……やっぱり裕香のポニテ、いいな。
髪型、少し変えたか?
このあとチアダンスあるしな……見てろよ、裕香。
ぶっちぎってやるからな)
「……セット」
パァン!!
――グワッ!!
スタートから、段違いだった。
翔は一気に加速し、
2位以下を大きく引き離してゴール。
ちなみに2位は陸上部
それも全国クラスだ。
「キャー!!」
さすが体育祭。
校庭中の大半の女子が、歓声を上げていた――。
「翔くーん! お疲れ様! 1位おめでとう!!
めちゃくちゃかっこよかったよ!」
神崎が、タオルを手に翔のもとへ駆け寄る。
「すげぇ……あの神崎さんが、完全にベタ惚れじゃん」
「おのれ……神宮寺め……!!」
女子の熱狂と、男子の嫉妬。
その両方が入り混じって、
今日の体育祭は、より一層燃え上がっていく。
翔も、心なしか楽しそうだ。
俺はというと――
目立たないよう、こっそりと拍手を送った。
……だが。
それを、翔は見逃さなかった。
「……!?」
(裕香が……俺に拍手!?敵チームなのに??)
(いいいいよっしゃぁぁ!!やったぞ!!!見たか!!)
「翔くん? どうしたの?」
「ん? ……あ、ああ。ちょっと疲れてな」
そんなこんなで、
体育祭の種目は次々と消化されていった。
200メートル走では
真桜さんが相変わらずの爆速。
障害物競走では
白石さんが落ち着いた動きで、テキパキとこなしていく。
やはりどちらも走るだけで絵になる。
うーん、運動できる人って強い…!
昼休憩を挟み、午後
俺はというと――
綱引きで、後方の端っこを担当していた。
全力で引きはするが、
特に見せ場もなく、無難に終了。
とりあえず、ひっそりと過ごすことには成功した。
そして――
ついに、その時がやってくる
ダンスパフォーマンス。
「あわわわ……あわわ……て、手に人を書いて……!」
「アハハ! 緊張しすぎだって、ゆかっち!楽しんでこ!」
「うー……大丈夫? 似合ってる? 光」
「大丈夫だ! 悩殺ボディだぞ!」
「……そういうの、女子は言わないの……」
更衣室で着替えを済ませる。
男子はストリート風のユニフォーム、
女子はチアユニフォーム。
赤を基調とした衣装に身を包み、
全員の準備が整った。
小道具の準備のため、
多目的ルームに集合する。
体育祭という特別な日
男女ともに、普段より攻めた衣装。
そのせいもあってか、空気は一気にテンション高め。
あちこちで笑い声が上がり、
中には、距離感近めでイチャついているペアもちらほら。
「それじゃ、もうすぐ始まるから!
みんな各自、衣装チェックしてね〜」
声がかかり、
それぞれが最終確認を始める。
俺も鏡の前に立ち、
チアユニフォームの着崩れがないか確認した。
「……おかしく、ないよな。俺……」
大人しめな女子が、
慣れないミニスカートのチア衣装。
髪はポニーテールにまとめられ、
赤いシュシュが揺れている。
メイクも、いつもより少し気合いが入っていて――
客観的に見れば、
「体育祭を全力で楽しんでいる女子」に、
ちゃんと見えている……はずだ。
「大丈夫? 裕香さん」
「あ、白石さん。うん……大丈夫!」
そう答えながらも、
胸の奥では、ドクドクと鼓動が早まっていた。
――もうすぐ、出番だ。
一方
ダンスパフォーマンスに出場しない生徒たちは、
すでに観客席でその時を待っていた。
「久我くん、お疲れさん。隣、いいか?」
「あ、いいよ」
翔が自然に腰を下ろす。
「調子のほうはどうなんだ?」
「それなりに、かな。神宮寺くんは?」
「俺は問題なしだな。
……しかし、えらい早くから席にいるな。楽しみか?」
「別に。特にやることが無かったから、いるだけさ」
「へぇ〜……」
翔は含みのある声を出しながら、前方を見やる。
「あ、2組来たぞ」
「……!?」
久我は思わず前のめりになるが――
まだグラウンドには、誰の姿もない。
「…………!!し、神宮寺くん……!」
「ははは、わかりやすいな。
もうちょっと素直になればいいのにな」
天才男子二人は浮かれつつ年ごろのリアクションを楽しんでいた。
「それでは次に、赤組のダンスパフォーマンスです」
アナウンスが響く。
赤組の生徒たちが、一斉に運動場へと広がっていく。
手前には男子のブレイクダンス班、
後方には女子のチアダンス班の合同パフォーマンスだ。
その様子を見守る観客席に、
遅れて飯田が合流してきた。
「おーっす、2人ともお疲ーー」
「「うおおおお!!」」
思わず声を上げる翔と久我。
久我は一瞬、きょとんとする。
「えっ……神宮寺くん?」
「あ、いや、その……だな」
(いかん!裕香の可愛さに、つい叫んでしまった……!
バレてないよな? 俺……バレてないよな!?)
「……ま、まぁ。気になる人がいるってことだね」
(うわ……白石さん……
本当にチアユニフォーム着てる……。
素敵だ……これは……素敵すぎる……)
「……お前ら、楽しそうだな」
そして、場面は2組へ。
俺は緊張の絶頂に達していた。
「う……うぉぉぉ……」
こんな大勢の前でパフォーマンスなんて、人生で初めてだ。
観客席には生徒、先生、保護者までいて、
視線が一斉にこちらへ向けられているのが分かる。
身体がこわばり、指先が震える。
心臓の音がやけに大きく聞こえて
(やっぱり……無理かも……)
弱気が一気に押し寄せてきて、
俺は情けなくブルブルしながら、真桜さんの方へ視線を向けた。
――グッ。
あの時と同じ、力強いグッドサイン。
……やっぱり、真桜さんは優しい。
それだけで、胸の奥が少し軽くなった。
(大丈夫だ……それで十分だ)
そして――
音楽が、流れ出す。
そこから先は、正直よく覚えていない。
ただ、がむしゃらに身体を動かしていた気がする。
けれど――
練習は、確かに積み重ねてきた。
考えなくても、身体が自然に動く。
次の振り付けが、無意識に出てくる。
(……ああ、これが――)
“身体が覚えてる”って、こういうことなんだ。
俺は、不安よりもリズムに身を任せながら、
ステージの中へと踏み込んでいった。
男子のテクニカルなブレイクダンス。
女子のシンプルで可愛らしいチアダンス。
一見ちぐはぐな組み合わせ
けれど、それが逆に目を引いたのか、
観客の反応は思った以上に良かった。
そして……
――無事、ダンスパフォーマンスは終了。
最後に全員で一礼し、
そのまま舞台を後にして控えスペースへと戻る。
「終わったー!! お疲れさま!!」
「楽しかったー!!」
あちこちから弾んだ声が上がる。
……やりきった。
ちゃんと、無事に。
「あああ……良かった……ノーミスでやれた……!!」
「みんなお疲れー! ゆかっちも良かったよ!」
「なはは! 楽しかったな!」
「楽しかったけど……やっぱり注目すごくて、ちょっと恥ずかしかったわ……」
友達も、参加したクラスメイトも、
みんな同じようにやり切った顔をしていた。
初めてのダンス。
不安と緊張でいっぱいだった。
でも――
終わってみると、分かる。
(……楽しい)
怖かったけど、逃げなかった。
ちゃんとやり切った。
楽しかった。
しばらくは、あちこちで写真タイム。
友達と、恋人と、そして――
ちょっと気になる相手と。
それぞれが、それぞれの青春を切り取っていた。
「……みんな、いいなぁ」
そんなことをぼんやり思っていると、
「ゆかっち! 写真撮ろ!」
「あ、真桜さん……! うん!」
声をかけられ、
俺たちは4人で並んで写真を撮ることになった。
シャッターが切られるたび、
恥ずかしさと、少しの嬉しさが入り混じる。
すると――
「ついでに! レイ、ゆかっちにお疲れさまハグしてあげて!」
「えっ……!? な、なんで!?」
真桜さんの、唐突すぎる無茶振り。
「いいからいいから!」
「う、うーん……それじゃ……お疲れさま……」
戸惑いながらも、
白石さんが一歩近づいて――
ギュッ……
「……!?!?」
優しく抱きしめられる。
少しだけ汗でしっとりしていて、
それでも柔らかくて、温かくて…いい匂いと、柔らかいやつが…
頭が一瞬、真っ白になる。
「もらい!」
その瞬間、
すかさずシャッター音。
「ちょ、真桜さん!!」
真桜さんは満足そうにスマホを掲げ、
俺は顔が熱くなるのを必死で誤魔化すしかなかった。
間違いなく、
今日一番ドキッとした瞬間だった。
「なはは! 真桜は、たまによくわからないことするからな!」
「ほんとに変わった子……」
「そ、そうですね……はは」
――でも。
あの時、俺にしてくれた約束
ちゃんと覚えててくれたんだ。
ありがとう……。
そのツーショットは、一生大事にします。
「それじゃ〜、次は――」
なんて言っていると、
「真桜先輩! 写真お願いします!」
「ずるい!! 私も!!」
一気に群がる女子生徒たち。
「おお!? すごい人が集まってきた!?」
それだけじゃない。
男子生徒まで集まり始める。
そりゃそうだ。
あの神宮寺真桜だ。
男女問わず、1枚は欲しくなる。
「なは〜、ありゃしばらく時間かかりそうだな」
「ええ、そうね。私たちは着替えましょっか。行こう、光、裕香さん」
俺たちは更衣室へ向かう。
――その途中。
「白石さん……お疲れさま。とても、良かったよ」
「え……!? ……? く、くく久我くん!?
……ありがとう……でも、恥ずかしい……」
「そ、そんなことないよ! すごく頑張ってたし!」
唐突な久我くんの登場。
白石さんとの距離が、自然と近い。
……ああ。
そりゃ、こうなるよな。
「それじゃ! せっかくだし、2人撮ってやろう!」
「……!? ええ、光! そんな、久我くん困ってるし……!」
「……!? い、いや! 大丈夫! 撮ろう!」
ぎこちなく並んで、ピース。
桐谷さんがスマホを構える。
俺はただ――
その光景を、黙って見ていることしかできなかった
胸の奥に湧く、少しの悔しさ。
でも、それ以上に、
邪魔しちゃいけないと思う気持ち。
複雑な感情が、静かに混ざり合っていた。
そして、もう一人、男が声をかけてきた。
「おーう、楽しんでんな、久我くんよ」
「あ、いや……まぁ、そうだね」
「おお、剛!来てくれたのか!」
「光、お疲れさん。まぁ、良かったんじゃないの?」
「適当に褒めるな!本当はジロジロ見てたくせに!」
桐谷さんの彼氏――飯田くんだ。
彼は堂々とした足取りで近づいて桐谷さんとイチャつきだした。
「そういえば、二人で来たのか?」
「いや、久我と翔の三人で来てたんだが、アイツ途中で消えちまってな」
「神宮寺くんなら……実は――」
ーーーー
「キャー!! 神宮寺先輩も!!」
「うそ!? なんでここに!? 写真! 写真!!」
「マジでイケメンすぎて無理!!」
(通れねぇ!! お前ら邪魔だ!!
クソ……裕香! 裕香はどこなんだ!!)
人の波にもみくちゃにされながら、必死に周囲を見回す。
「あ! 兄ぃ、来てくれたんだ! 私、頑張ったよ!」
「あ、ああ! それはお疲れだったな!!!他の奴らどこに行った!?」
(裕香……裕香とツーショットが……!!あああああ!!!)
真桜と翔が合流したことで、
その場の熱量は一気に跳ね上がり、
会場は完全なパニック状態に陥っていたのだった。




