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第28話 地獄のイベント

9月半ば。


俺は、学生生活の中でも有数の恐ろしく…

しかし逃げられない難問に向き合っていた。


「はい、それじゃ出場競技決めてね〜」


「「「はーい」」」


そう……………体育祭だ。

あの地獄のイベント…強制参加公開処刑

別名「陰キャ晒し上げ会」だ。


うちは学年4クラス。

赤、青、黄、緑に分かれてのチーム対抗戦。


「ヒカはやっぱ短距離?それともリレー?」


「うーん、どっちもいいな〜。

リレーなら真桜も出てほしいかも!」


「いいよー!

うぉ〜、楽しみだ!」


そりゃ楽しいだろうな。

運動神経抜群の桐谷さんと、

何でもこなす真桜さんにとっては。


まぁ、俺は無難に障害物競走か、

人数合わせの綱引きだけでいいだろ

とにかく、ここは目立たずひっそりと行動する、

そうすれば自ずと乗り越えられるだろう



そう思っていた、その時。


「あと、パフォーマンスダンスに参加希望の人は

早めに声あげるように〜」


パフォーマンス。

3年生は各チームでダンスを披露するらしい。

あんなの完全に陽キャ専用種目だ。

俺には一ミリも関係ない。


……はずだった。


「ねぇ、みんな!私たちも出ようよ!」


「おっ、いいぞ真桜!」


「まぁ、真桜が言うなら……」


「…………ん?」


みんな…?いや、聞き間違いかな?

桐谷さんと白石さんに言ったよな?


「え……えっと……真桜さん……?」


「ゆかっちもやろうよ!」


「あはは……それはさすがに……ね」


いや、本当に“さすがに”だ。

これは全力で阻止しなければならない案件だ。


「おーい、ゆかっち!最後の体育祭だぞ? もったいないって!」


「まぁまぁ、みんな。裕香さん、無理しなくていいからね」


真桜さんと桐谷さんがグイグイ来る中、

白石さんだけはやっぱり優しい。


……しかし。


いつものように、真桜さんが俺の耳元に顔を寄せてきた。


「……今回のパフォーマンスね。

女子はチアガールの衣装なんだよ?」


「……?」


「近くで、白石さんのユニフォーム姿、見放題」


「……!?!?」


「い、いや……それでもさすがに……」


「チア姿のレイと、ツーショット撮ってあげるけど?」


「………………」


晒し上げ会に参加か…白石さんとのツーショットか

苦渋の選択そして

俺は…




真桜さんの勢いと、そして自分の煩悩に――負けた。


情けない男?……なのかもしれない。



別のクラスでも同じような葛藤を抱えている人がいた。


【3年1組】


「………………」


翔は、どこか落ち着かない様子で教室を見回していた。

その視線の先には


「はぁ……体育祭……もう、休もうかな……」


露骨にネガティブになっている久我の姿があった。


「おう、翔。お前、今回何に出るんだ?」


「んー……適当にリレーか、100メートルかな。

でも今さら目立ってもだるいしな」


「おいおい、お前が出なきゃ勝てねぇって。頼むぞ」


「俺はいいんだよ……問題は――」


翔は言いかけて、

ちらりと久我の方を見る。


「……あっちだ」


落ち込んだ様子の久我に声をかけた。


「なぁ……久我くん。俺と一緒に、リレーに出ないか?」


「…………え!?」


「おい、翔。人には向き不向きがあるだろ。

久我とやらは、障害物の方がいいんじゃないか?」


「剛、言い方はアレだが……言いたいことはわかる。

でもな、俺は久我くんに“可能性”を感じてるんだ」


「ぼ……僕に、可能性……?

いや、僕は運動の方はてんで駄目で……」


「いや、そんなことはないと思うぞ。

テニスの時も、少し教えたらそれなりに上達してたしな。

単純に、体力が足りてないだけだ」


「う……ありがとう……。だが……」


翔は一歩近づき、久我の耳元で小さく囁いた。


「久我くん……

白石に、かっこいいところ……見せたくないか?」


「……っ!?

い、いや……そんな……!

そ、そういうわけじゃ……」


一瞬、久我の肩がびくりと跳ねた。


「転校して間もないのに会いたいって言ってたのは誰だ?…そりゃ分かるさ。

でもな、安心しろ。俺は味方だ」


「久我くんは、練習次第でいくらでも伸びる。

それだけのセンスがある。それは俺が保証する」



「文化系のイメージの久我くんが

リレーでバチッと一番でゴール…振り向かない女子はいないな

体育祭で活躍して…一緒に、勝とうぜ…?」


翔の言葉に、久我は一度目を伏せ――

やがて、静かに顔を上げた。


「……よし。最善を、尽くそう」


「決まりだな。じゃあ放課後、時間があれば……

うちでトレーニングだ」


(リレーはアンカーを久我にする。

俺と剛で序盤を固めて、1位でバトンを渡せば

久我は、1位でゴールテープを切れる

とっとと白石とくっつけてやる。

……ついでに、自己肯定感も上げさせておこう)


「よろしく頼む……神宮寺くん」


翔の思惑を知らない剛が呆れて言う。


「ま、まぁ……俺は何でもいいけどよ。

とにかく勝てるようにしてくれよ?」


「任せろ、剛」


翔と久我は、それぞれの想い人のためにトレーニングを決意した。

そんなことを知る由もなく、場面は女子たちへ戻る。



ーーーー


俺たちは早速、神宮寺家のトレーニングルームへ向かっていた。


「ああ……チアダンスって……あんなユニフォーム着るのか……

おヘソ丸出し……パンチラ必須の……」


「ゆかっち、大丈夫だって!

お腹は露出してないし、みんなスカートの中にインナー履いてるよ!」


「なはは!それが普通だ!ゆかっち発想がたまに男子になるな!」


「で、でも……ボディラインははっきり見えるし……

少し恥ずかしいかも……」


俺たちのクラスは、

男子はブレイブダンス、女子はチアダンスと決まったらしい。

曲も振り付けも、すでに大枠は決まっているようだが、

正直それどころじゃなかった。


今は、迫り来る体育祭と、

そのチアユニフォームの話で頭がいっぱいだった。


「着いたー!さ、振り付けの確認しよ!」


神宮寺家のトレーニングルーム。

会社の施設とは思えないほど、相変わらず設備が整っている。


ガラッ――


本来は貸し切りのはずのトレーニングルーム。

しかし、そこにはすでに先客がいた。


「ふぅ……ふぅ……やっぱ運動は大事だな」


「体力つけときゃ、基本どんなことにも役に立つ。

集中力も上がるしな。

……っと、筋トレが終わったら走り込みだ――って、ん?」


「お!兄ぃ!それに、くーくんだ!どうもいらっしゃい!」


そこには――

なぜか、汗を流しながらトレーニング中の

翔と久我さんの姿があった。


「真桜、それにお前ら……なんでここに来てるんだ?」


思わぬ合流――!!

というか、翔……いつの間に久我さんと家に行く仲になってるんだ?


「ふっふっふ……

私たち、ダンスパフォーマンスに出るのだ!

チアガールとして!」


「「……!!」」


「それの打ち合わせも兼ねて、ここ使うつもりだったんだけどね。兄ぃが先だったみたい」


「……いや……俺たちは、これから外で走り込みだ。

ここ、使っていいぞ。行くぞ、久我くん」


「うん……」


そう言って、二人はトレーニングルームを後にする。

扉が閉まる直前、ふと見えた横顔は――

妙に神妙で、真剣そのものだった。


バタン。


「ありがとう〜!……って、行っちゃったか。なんかすごい熱気だったね」


「なはは!男子は体育祭大好きだからな!」


「桐谷さん、アバウトすぎ……」


軽く笑い合う俺たちの中で、

ひとりだけ言葉を発さない人がいた。


「………………」


「レイ〜?そろそろ始めるよ?」


「あっ!そうね!ごめん!」


白石さんは、少しだけ遅れて笑顔を作り、

私たちの輪に戻ってきた。


……でも、その視線は一瞬だけ、

さっき二人が出ていった扉の方を追っていた。


「ふーん……レイ。あの二人のどっちか、気になるんだ?」


「……!!え、あ、いや……!!」


出た。真桜さんの観察力。

でも、真桜さんがこう言うってことは……

白石さんは、やっぱり――。


……いや、今はやめておこう。

これ以上考えると、胃が痛くなる。


 


「ヒカは剛に言ったの? パフォーマンスダンスやること」


「言ったぞー!

アイツ、無関心装ってソワソワしてた!

わかりやすいヤツめ……可愛い彼氏だな」


「ふふふ……そりゃヒカのチア姿だもの。

楽しみにしてないわけないよね」


「なはは! 年ごろ男子には刺激が強いだろうな!」


「あははは……」


……まぁ、分かる。


 


「レイのチア姿なんてもう……最強じゃん!」


そう言って、真桜さんは白石さんにぎゅっと抱き追い打ちをかけてゆく。


「もう! からかわないでよ!」


「ごめんって!

でも、いいアピールチャンスにはなると思うよ……?」


「そういうのじゃないってば……!」


真桜さんの強烈なからかい。

どうやら、やられているのは俺だけじゃないらしい。


しばらく色恋じみた雑談が続いたあと、

話題は自然とパフォーマンスダンスへと戻っていく。


 


「振り付け自体はそんなに難しくないから、

あとは全体の動きを覚えるのが大事かな!」


「おっ、面白くなってきたぞ!」


「……ええ!頑張って、いいところ見せなきゃね!」


正直…モヤモヤした部分もある…

白石さんのチア姿、絶対可愛いしエロい

でも、せっかく、みんながこんなに張り切ってるんだ。

そろそろ、足を引っ張るのもやめよう。


 


「う……うん……!が、頑張る……!」



ーーーー



一方その頃、外では――

二人が黙々と走り込みを続けていた。


「はぁ……!はぁ……っ……!」


「よし。

今日は、この辺にしておくか」


「……いや。神宮寺くん、もう一本、走らせてくれ」


「おお。なにやら、やる気だな。どうした?」


「……別に。

何事にも、真面目に取り組んでるだけだ」


(白石さんの……チア姿……。

あの白石さんが、チアユニフォームを着るなんて……。

でも、見るだけじゃ駄目だ。

俺も――いいところを見せたい。

やるぞ。僕は、やってやる……!)


「そうか」


(久我くん……分かるぜ。

好きな子のチアユニフォーム姿、だろ?

俺もだ。

裕香が着るなんて聞いたら、そりゃ気合も入る。

一緒に頑張ろうぜ)


体育祭――

それは、単なる学校行事じゃない。


恋も、意地も、期待も。

それぞれが胸に抱えたまま、

全力で向き合う“一大イベント”だった。


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