第24話 人生初めての青春…なんか思ったより違う!リッチ! 後編
女子三人が華麗にビーチボールで遊んでる。
それを俺はパラソルの下、ベンチで眺めていた。
「あぁ……絵になるなぁ……」
スマホを構えてシャッターを切る。
事前に「いっぱい写真撮ろうね!」と頼まれていたから、ちゃんと役目を果たす。
「どこ切り取っても……絵画みたいだ……」
そんな呟きの後ろから、
「堪能してるようだな、裕香」
振り向くと翔が隣へ腰掛けた。
「あ、翔……飯田くんは?」
「トイレに行ってる。どうだ?海、楽しめてるか?」
「楽しい……楽しいけど……
なんか……リッチすぎて現実感がないというか……」
「まぁ確かに普通ではないな。
でもどうせ遊ぶなら、安全に、最大限楽しめた方がいいだろ」
「……でも、みんな当たり前みたいに馴染んでたな……
白石さんも、桐谷さんも、飯田くんも……俺だけ…疎外感…」
「……!?いやいやいや、言わせてもらうぞ?」
「俺、男の頃のお前も何度も誘ったからな?
海も、プールも、花火も、旅行も
全部!全部断ったのはお前だ!!」
「え……そうだっけ……?」
「そうだっけじゃねぇよ!」
たしかに……
突然誘われて、気持ちが追いつかなくて……
面倒くさくて……全部、逃げてた気がする。
「ゆかっち〜!!こっち来て入ろうよ〜!」
真桜さんが手を振って呼んでいる。
「あ、はーい!」
「よし、俺も行くか」
「兄ぃも来るんだ〜?それじゃ男女でビーチバレーしよっ!」
「お、いいね。剛やるか?」
「ああ、任せろ」
いつの間にか飯田くんも合流していた。
気づけば男女チーム戦が決定!!
4対2だけど、いいのかこれ。
「おっしゃ〜!負けないぞ女子チーム!」
「頑張ろうね!」
桐谷さんと真桜さんがハイタッチ。
白石さんも微笑んで輪に加わる。
(ひぃぃ……俺…球技苦手なのに……)
ーーーー
結果……
サーブは変な方向に飛ぶわ、
レシーブは空振るわ、
ブロックは顔面にヒットするわ……
でも。
みんな笑ってて、
いちいちフォローしてくれて、
全くイヤな空気にならなかった。
バレー終了後。
「お疲れ様。大丈夫?」
白石さんが涼しげな顔で、冷えたジェラートを差し出してくれた。
「あ…ありがとうございますっ」
「どうかな?海、楽しめてる?」
「あ…はいっ!すっごく楽しい……です!」
白石さんはほっとしたように胸をなでおろす。
「良かった…裕香さん、あまり外で遊ぶことなかったって聞いたから。無理してないかなって心配でね」
「はは…お気遣い、助かります…」
少しずつ。
前川裕香として、人と繋がれている気がする。
ビーチの風が髪を揺らし、
俺はそっと息を吐いた。
(俺……今、ちゃんと青春してる……)
二の腕が、ほんの少し触れ合う距離。
ジェラートの冷たさとは裏腹に、頬が熱い。
隣に座るのはオレンジのビキニがとても似合う白石さん。
健康的な色気なのに、優しさと包容力があって……
同い年とは思えないほど眩しい。
(白石さん……の彼氏だったら……毎日こんな景色が見える
あ〜…恋人になりたいなぁ)
目に焼きつけようと横目で見ていたら――
「……?どうしたの?」
「!? な、なんでもないよっ!」
バレてた。めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも…じわじわと変な感情が込み上げてくる。
そう思った瞬間――
ブォォォォン!!!
突然、海の方から爆音が響いた。
「えっ!?な、なんの音!?」
音の方へと向くと、海の上を
翔が水上バイクを操って爆走していた。
「おい!!順番に乗せてやるから来い!!」
「おおーー!流石兄ぃ!!待ってましたー!」
「翔くーん!私も私も乗りたーい!!」
「光!ちょい待て!!まずは俺だろ!!」
三人が急にテンションMAXになって駆けていく。
俺はというと――
「ひぇ……高校生ってああいうの乗れるのかな…?」
「確か16歳以上なら免許取れるはず。ここは貸切だし問題ないよ!さ、行こ裕香さん!」
白石さんが手首を軽く引いてくれる。
「うぇーーーい!!ひゃっほーー!!」
翔の運転する水上バイクが波を切り裂く。
後ろに乗った飯田くんは完全にハイテンション
陽キャ男子二人が揃うと最強なんだなと。
その次は真桜さん、桐谷さん、白石さんと順番に。
「すごっ!!楽しい!!」
翔の背中にしがみついて、
無邪気に楽しむ白石さん。
「……お似合い……」
思わず小さく呟いてしまう。
白石さんの笑顔。
さっきジェラートを一緒に食べたときより
ずっと楽しそうで……
(あれを素直に引き出せるの、翔だけかもしれない……)
胸の奥が少しズキっとした。
そして――
「裕香、次はお前だな」
「っ……う、うん」
ライフジャケットを締めて
水上バイクに跨る。
目の前には翔の広い背中。
「しっかり捕まってろ。振り落とされるからな」
「え……あ、うん!」
ぎゅっ
躊躇なく両腕で翔の胴を抱きしめる。
発進…しない?
翔が一瞬フリーズした気がしたが…
ブォオンッ!!!
「うわっっ!?」
海面すれすれを加速しながら突っ走る。
風が耳を裂き、潮飛沫が頬に刺さる。
「くっ……!うぅぅぅ!!」
ぎゅううう!!!
目を閉じる。
風が顔を叩き、身体が浮き上がりそうで…!!!
怖い!怖い!!死ぬ!ごめんなさい!!
なぜか頭の中で色んなものに謝っていた。
そんな俺を背中越しに感じながら、
翔は速度を緩めていく。
「裕香……見てみろよ」
「ん……? ……うわぁ……」
恐る恐る目を開けると——
目の前には、海だけ。
陸が遠い。
さっきまでいた砂浜の人達は豆粒サイズ。
眼下の海は、底まで見えそうなくらい澄んでいて。
太陽の光が差し込み、きらきら宝石みたいだった。
「すげぇ……」
自然と声が漏れていた。
「だろ?こういう景色、簡単に見られるもんじゃない…これが夏休みってやつだ」
「これが夏休みなのかよくわからいけど……
海って……楽しいんだな」
「これからもっと楽しい場所にも行く予定だ。ほら、戻るぞ」
ブォンッ!
帰りの道のり。
風を切りながらも、さっきほど怖くない。
(……あ、これちょっとクセになる……)
背中に手を添えたまま、
翔の筋肉の動きまで感じてしまって。
「……………」
(っっっしゃあぁぁ!!裕香が……俺に……自分から抱きついてきたぁぁ!!
…まぁライフジャケット越しだけど…
それでも海最高!!!夏最高!!!今すぐ告白したい!!!)
浜に戻ると、
真桜さんたちが待っていた。
「ゆかっち、おつ〜!どうだった!?」
「あ、あはは……なんか……
グワッてなって……すごかった……」
まだ足がガクガク震えている。
でも、その震えは恐怖よりも興奮の名残。
初めての海。
初めてのスリル。
初めての夏の思い出。
時間は午後四時。
さすがに体力も尽きて、そろそろ終わりかな…と思っていたその時。
「あ〜疲れたぁ…!でも最高だった!」
「だなぁ!つまり……?」
「ええ、むしろ ここからが本番よ」
「……へ?」
終わりムードのはずの三人の女子が、
なぜかワクワクし出す。
「真桜!今日はここ予約してくれてありがとな!」
「予約したの兄ぃだけどね〜!でもここ、めっちゃ腕いいらしいの!」
(え?なに?話が読めない…)
三人が息を揃えて——
「「「オイルトリートメント!!!!」」」
「え〜、楽しみすぎる…♡」
「早く行こう行こう〜!!」
「えっと…皆さん、その…どこに…?」
「どこって、ホテルのスパだけど?もしかして…
ゆかっち オイル知らない の?」
「オイル……?」
「「「!!?ウソでしょっ!!」」」
「いやいや!それはもったいなさすぎるって!」
「うんうん!!うわぁ…!!私のミスだぁ!!
ちゃんと教えておくべきだった!」
「この真っ白で綺麗な肌が…日焼けで乾燥してしまう前に…救わねば…!」
空気が一気に変な感じなる…。
こ、怖い……
さっきから何の話なのかさっぱりなんだが…!?
「百聞は一見にしかず!取り合えず行こっか!」
「わわわ!」
真桜さんに無理やり連れてかれる…助けて、翔……
「いってらー、裕香を宜しく」
「お~い、翔。せっかくだからホテル探索しようぜ」
ーーーー
シャワーで海水と砂を落とし、
軽くタオルで拭いたらそのまま水着姿でOKらしい。
「じゃ、後ほど〜!」
「きゃー楽しみっ!」
「裕香さんも、リラックスしてね?」
「え、あ…は、はい…」
三人は慣れた足取りで
カーテン式の個室へとそれぞれ消えていく。
置き去りにされた俺は
言われるがまま、自分の部屋のカーテンへ。
そっと開けると
病院で見そうな施術台と、
清潔な白衣を纏った綺麗な女性がいた。
「こんにちは。本日担当いたします、田中と申します。
どうぞリラックスしてお過ごしください」
「は、はい…よろしくお願いします…」
緊張で声が震える。
「では、こちらにうつ伏せでお願いします。
お身体にタオルをかけさせていただきますね」
言われるまま、そっとベッドにうつ伏せになる。
背中にふわりと温かいタオルが乗せられた。
(なんか……すごい……高級な…よくわからない匂い……)
施術者が、静かにオイルを温めている。
低く響く機械音が、部屋に溶けていく。
「まずは肩から、ゆっくりほぐしていきますね」
ひんやりした指先。
そして——
とろり。
温かいオイルが背中を伝い、
なめらかに広がっていった。
「ひゃっ……!」
息がふるえて漏れる。
「大丈夫ですか?痒いところがあれば言ってくださいね」
「は、はい……大丈夫です……!」
くすぐったいのに、深いところがほどけていく。
はじめて味わう感覚。
田中さんの指が、
オイルで滑りながら背中を丁寧になぞる。
肩、肩甲骨、腰……
ひとつずつ、溶かすように。
(な、なにこれ……気持ちよすぎる……!?)
真桜さんのセクシーなスキンシップとは違う…
完全にプロの手つき。
「背中、とても白くて綺麗ですね。
柔らかくて羨ましいです」
「あ……ありがとうございます……」
女の子として褒められるのは、
想像以上に嬉しかった
ちゃんと女子できてるんだな……俺…。
「力加減はいかがですか?」
「っ……だ、大丈夫…です……!」
指が深く押し入り、
凝りを見つけては流していく。
「あ……っ……気持ち……いい……」
足へ移る。太もも、ふくらはぎ、足裏。
普段気にもしない場所まで
丁寧に労わられていく。
オイルの優しい音
柑橘とハーブの香り
施術者のあたたかい掌。
全部が心地よい。
時間の感覚が、少し遠のいていった。
「これにて施術を終わらせていただきます。お疲れ様でした」
「……ありがとうございました……」
ベッドからゆっくり身体を起こす。
か、軽い……!
肌は水を弾くみたいにつるんとして、
触れると指に吸い付く。
(すげぇ……これが…女子の楽しみ……?
なんか、再び生まれ変わった気分……!
オイル……最高!!)
頭までぽわんと夢見心地。
気持ちいいだけが残ってた。
ーーーー
休憩ラウンジ。
すでに翔と飯田くんが待っていた。
「お〜女子陣お疲れ。どうだった光?」
「めっっちゃよかったぞ!!最高!!!」
真桜さんも白石さんも、
ふわっふわの幸せ顔。
「ゆかっち〜どうだった♡?」
聞かれた瞬間、
言葉が出てこなくて……
「……へ、へへ……すごかった……」
声がゆるむ。
顔もゆるむ。
「おお、裕香どうした…?
なんかとろけた顔してるぞ」
(……もう一回受けたい……)
「はは、女子は美容、男子は散策か。お互いに堪能したな」
(裕香……すっごい綺麗になってる……表情もなんかとろけて……可愛い……ああ……もっちりと白い肌……そのまま女子力を高めてくれ……)
「それじゃそろそろ帰る準備をするか」
翔の言葉で帰宅の準備を促す。
「あ〜楽しかったなあ。でもこれで高校生最後の海かぁ、寂しいな」
「なは〜……これからみんな忙しくなるしなー。私もそろそろ練習しなくちゃ」
皆、それぞれの夏休みの予定があるのだろう。遊べる日が限られてくると思うと、確かに寂しさが募る。
「ゆかっちの水着姿もこれでしばらくは見れないのか……」
真桜さんが寂しそうに口にした、その時だった。
「えい!しっとりした水着のゆかっちを堪能してやる!」
すると、真桜さんが弾俺に抱きついてきた!?
「え!?……ちょっ!」
「あ〜、すべすべだ!気持ちいい!」
真桜さんのオイルの甘く濃密な香りが鼻をくすぐる。
水着越しのむにっとした胸の弾力が、
肌を通じてダイレクトに伝わり、程よくオイルが馴染んだ肌同士が、滑らかに密着する。
真桜さんの吐息が耳元にかかり、一瞬、全身の力が抜けた。
「ひ……ひぃ……!」
「お、おい!真桜!」
(おいおいおいおい!!?何やってんだ!?俺の目の前で、裕香に密着しやがって!!)
「うおお!真桜ずるいぞ!私も!
」
真桜さんから離された瞬間、今度は桐谷さんに交代される。
「うほぉ〜、これは至福……!剛、ゆかっち飼って私達で育てよう!」
桐谷さんの引き締まった身体のラインが背中に押し付けられる。健康的な熱と、女性特有のカーブを身体全体で感じる。
「やめとけ、困ってんぞ前川が」
「あ……が!?桐谷も!」
「あ〜……もぉ!こんなとこ見られたら恥ずかしいじゃない……」ウズウズ……
「レイ、大丈夫だよ!今日は貸し切りだし。ゆかっちのハグ、心地よかったよ〜……今の内にだよ?」
「……………もう!」
ギュッ。
「へ?ええ?ええ?」
し、白石さんも!?この状況で!!あああああ!!
肌を通じてしっかり伝わってくる白石さんの程よいむっちりボディがむにっと襲う。
ラベンダーのオイルの香りが、優しく心を落ち着かせようとする。三度目の胸の弾力に、裕香の体は戸惑いつつも、正直な反応を示す。
(やばいやばい!でも…正直、めちゃくちゃいい……!)
久しぶりのこのパターン。だが、極度の緊張の中に、少しだけ、この状況を堪能する余裕が生まれていた。
「えへへ……白石さん……」
思わず口元が緩む。
「やっぱり、ゆかっちレイの時だけ反応違う〜!」
「ほほ〜う、お姉さんムーブが距離を近めたか…!」
桐谷さんと真桜さんがニヤニヤしながら指摘する。
そして少し離れた場所では、翔と飯田がいた。
「ははっ!なぁ翔、早くしないと百合になっちまうぞ」
「……………ああ」
そんなこんなで最後のご褒美も存分に堪能して、
そろそろ帰り支度。
楽しかったなぁ…
夏休みって、こうするんだな。
誘ってくれた友達。
一緒に笑ってくれたみんな
そして全部が初めての俺に
ちゃんと寄り添ってくれた。
ああ、もう言える。
俺、今ちゃんと「充実」してる。
みんなは先に更衣室へ向かい、
俺はトイレへ寄ってから遅れて向かう。
「ふぅ…帰ったらまず寝たいなぁ…」
そんなことを独り言しながら歩くと
更衣室の前に翔が立っていた。
「あ、翔!今日はありがとな!ほんっとに楽しかったよ!」
「……ああ」
「海は綺麗だし、サービスは豪華だし、
翔のバイクもめっちゃ楽しかったし!
あと、オイル……あれはすごかった……!」
「……そうか」
「それに……みんなにハグされて、ちょっとドキッとしたけど……
なんか悪くなかったなって……!」
ワクワクと嬉しさを抱えて
翔に報告しようとした、その瞬間。
――ガバッ。
「……へ?」
気づけば、
翔の腕が俺の体を強く引き寄せていた。
「……俺も」
絞り出すような低い声。
翔の胸板が素肌越しに当たる。
水滴の残る体温が
こっちにまで伝わってきて、
呼吸が掬い上げられるみたいに乱れる。
「し、翔……?」
腕の中はあったかくて、逃げられないように
翔の心臓の鼓動まで、俺の胸に響いてくる。
男同士だった頃では
絶対にありえなかった距離…………




