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第2話 初心者女子、温泉でS系からかい美女に翻弄される

あれからどれくらい時間が経っただろうか。

荒れていた心も少し落ち着き、ようやく冷静さを取り戻していた。


「入院」とはいえ、かなり自由度は高いらしい。

休憩所に漫画喫茶、大浴場までここは病院というよりレジャーランドか?と突っ込みたくなる規模だ。

しかもそれらを好きに使っていいという。


身体も疲れていたので、俺は入浴をしたくなった。

利用時間外に入ってくれと言われてる

人と鉢合わせる心配もないだろう。


浴場の入り口には律儀に「男」「女」の、のれんが掛けられていた。


「……どっちに行けばいいんだ?」


思わず立ち尽くす。

特別に許されているとはいえ、どちらを選んでも微妙にまずい気しかしない。

けれど、万が一遭遇した時に騒ぎが小さく済みそうな方を考えて――「女」の、のれんをくぐることにした。


(大丈夫だ。俺は男……いや、元・男だ。覗き目的なんかじゃない。節度はわきまえてる……はずだ。)


そう自分に言い聞かせながら、浴室へ足を踏み入れる。

人気のない浴場で、俺はひとり静かに湯に身を沈めた。


俺は広い脱衣所で病衣をゆっくりと脱いだ。

布が滑り落ちると同時に、ひやりとした空気が再生したばかりの肌を撫でていく。

その感触は、これまでの自分にはなかったほど繊細で敏感だった。


鏡の前に立つ。

映っているのは紛れもなく、女の身体。


元々色白だった肌はさらにしっとりと光沢を帯び、

かつての角ばった体格は柔らかい丸みを描いている。

膨らんだ胸と、緩やかな曲線を描く腰、そして小ぶりに引き締まったお尻。

男だった頃の象徴は影も形もなく消え去っていた。


「……まさか、初めて見る女の裸が、自分だなんてな。」


思わず苦笑する。けれど、視線は離せなかった。


顔立ちは元から薄めだったせいか、女性化しても違和感は少ない。

むしろ小柄な体型と相まって、153センチほどの小動物めいた可憐さを纏っている。

その胸元は……CからDカップはあるだろう。華奢な体に対しては、やけに存在感があった。


「……いけなくも、ないか。」

冗談めかして呟いた声は、以前より高く、耳に甘く響く。


俺はそのまま浴場の扉を押し開け、ゆっくりと湯に沈む準備を始めた。

熱気が頬を染め、胸の奥まで火照らせていく

まるで新しい自分を受け入れる儀式のように


シャワーを浴び始めて、最初に痛感した変化。


「……髪が邪魔だ!」


長い髪が顔や肩に張り付き、思うように動けない。

女性の入浴手順なんて知るわけもなく、悪戦苦闘しながら泡を立てては流す。

「とりあえず全身を泡まみれにして流せば大丈夫……だろ……」

そう思っていた時だった。


ガラリ。


「おじゃま〜。」


聞き覚えのある声。慌てて振り向いた瞬間言葉を失った。


「ゆーくん、お風呂入ってるの見て、追いかけちゃった!」


そこに立っていたのは真桜。そして……すでにタオルすらまとわず、ありのままの姿。


「え……えぇ!? なんで……!?」


「なんでって、ゆーくん女子のお風呂の入り方知らないでしょ? だから私が教えてあげようかなって。」


「い、いやいや!……でも俺、中身は男だぞ!?そんな神宮寺さんと一緒に入るなんて……!」


「私は全然大丈夫よー。だって今は女子じゃん、ゆーくん。」


「そ、そうだけど……」


青天の霹靂だった。

まさか学園の最高峰美女の、すべての姿を目にしてしまう日が来るなんて。


これは……ご褒美なのか、試練なのか。

心臓が爆音のように鳴り響き、頭の中は真っ白になっていた。


「やっぱり髪、適当にしてる!初心者女子!」


初心者女子多分俺のための単語だろう。

当たり前だ。ついこの間まで男子だったんだから。


「髪……を?」


「そうそう、それ濡らしただけでしょ? せっかく長いんだから。……ほら、ちょっと前向いて座って。」


言われるまま、脱衣椅子に腰を下ろす。

次の瞬間、真桜の指が俺の頭皮を優しくほぐし始めた。


ワシャワシャ……


(……あ、悪くないかも……)


心地よい刺激に、思わず目を細める。


「ちゃんと毛先まで洗わないとダメだよ。……で、次はトリートメントもね。」


その時――。


フニュン……。


「……!!」


背中に柔らかい感触。

敏感になったばかりの皮膚に、あまりに鮮明に伝わってくる。


「し、神宮寺さん……! 胸が……その……!」


「ん? あぁ……別に私は気にしてないけど?」


(俺が気になりすぎるんだよぉぉ!!)


頭では理性を叫びながら、心臓は破裂しそうに暴れていた。


こちらの感情など一切気にせず、手際よく髪を洗っていく真桜。

いや、今日一日で情報量がパンクしてるのに、ここでさらに上乗せしてくるのか……!?


「さ、洗い流して~……はい、ヘアキャップ。」


そう言って髪をまとめてくれる。

「髪はね、お湯に浸けちゃダメなんだよ。痛むから。」


「そ、そうなんだ……」


「で、次は身体、洗おっか。」


「か、身体!? さすがにそれは自分で……」


「女の子の肌ってね、結構弱いんだよ。優しく洗わないと。任せて。」


ふわふわのスポンジが泡をまとい、俺の身体に触れる。

全身が白い泡で包まれていく。


「………そりゃ」


ふにぃ。


「……っ! え、ちょ……!」


泡だらけになった俺の胸を、真桜の手が無造作に揉みしだいた。

柔らかい感触に泡の滑りが加わり、妙に生々しい。


「結構おっきくなってんね。……私よりはちょっと小さいか。」


「そ、そんなこと比べなくていいからっ!」


はた目には最高の百合展開だろう。

だが俺には楽しむ余裕なんて一欠片もなかった。


真桜の手はそのまま泡を滑らせ、腹部から太ももへ、そしてお尻へ。


(くっ……くすぐったい……!!)


敏感になった身体に、触れるたび電流のような感覚が走る。

心臓の音が、浴場全体に響いているんじゃないかと思うほどだった。


「うわぁ、ゆーくん……ここもぷにぷにで、すっかり女の子になっちゃってるのかな?」


腹部から、さらに奥――太ももの間に手が近づいてくる。


「っ……!ん、それは……!」


ソフトタッチで敏感な部分を撫でられ、思わず声が漏れそうになる。

これは……危ない。とてつもなく危ない。


「神宮寺さん……っ! ちょっと、それは流石に……!」


「へへっ。なんにもなかったね。……うちの薬も大したもんだわ。」


ニヤニヤと笑う真桜。


「……あの、神宮寺さん?なんか……明るすぎないか?」


「だってもう、なっちゃったんだから仕方ないっしょ。切り替え切り替え!」


「えぇ……」

(このノリ……ついていけねぇ……)


結局、俺は真桜のペースに巻き込まれるまま、シャワーで泡を流し落とした。


「よし、それじゃ――ゆーくん、浴槽行こ!ここのお湯マジ気持ちいいんだから!」


「え、ま、待っ……!」


強引に手を取られ、そのまま浴槽へと引きずり込まれる俺だった。


チャプン……

温泉に身を沈めると、全身を包む心地よい熱。

修学旅行や特別なイベント以外で温泉に入るなんて、記憶になかった。


「……気持ちいいな、ここ。」


「でしょ! 社員イチオシの泉質なんだから!」


けれど、問題は距離。

真桜がすぐ隣肌が密着するほど近い。

俺は気まずくなって、思わず逆方向へ顔を向けた。


「なんでー? ゆーくん、別に私は気にしてないのに。」


「いや……だって……俺は、やっぱり男だから……」


「ふーん。もしかしてさ、ゆーくん、女の子の裸見るの初めて?」


「……!!えっと……そりゃ、そうだけど……」


「へぇ〜、そうなんだ。ふふっ。」


ニヤけた表情でちょっかいをかけてくる。

この子……もしかしてSっ気あるんじゃないか?


温泉の熱と、隣の美少女の存在。

本来なら興奮でどうにかなってる状況だろう。

……だが今の俺には、反応すべきソレがない。

悲しいような、安心のような、複雑な気分だった。


「ね、ゆーくんは逆に大丈夫なの?」


「へ? あ、えっと……俺が選んだことだし……仕方ないかなって……」


「そっか。これから色々大変だと思うけど、私がちゃんと教えるからね!」


「……あ、ありがとございます……」


***


湯から上がり、脱衣所へ。

真桜さんはドライヤーを手に取り、俺の髪を丁寧に乾かしてくれた。

頭皮を指でマッサージされるような感覚に、思わず力が抜ける。

(なんで頭皮を触られるってこんなに気持ちいいんだろうな…)


髪が乾くと、真桜は当然のようにボトルを取り出す。

「はい、これ。温泉上がりはちゃんと保湿しないとダメだよ。」


「保湿……?」


「そう。お湯に長く浸かると、肌の水分が逆に飛んじゃうの。女の子はお風呂上がりにボディクリームとか乳液を塗るんだよ。乾燥したらすぐカサカサになるからね。」


「へぇ……そうなのか……」


腕にクリームを伸ばされると、滑らかな感触が残る。

確かに、さっきまで湯気で潤っていたはずの肌が、急に空気を吸い込んで乾き出している気がした。


「はい、できあがり! これで“初心者女子”でも肌スベスベ維持できるから!」


(初心者女子…いつになった昇級できるのか…)


顔が熱いのは、温泉のせいだけじゃなかった。


女子としての“洗礼”を浴びたあと、病衣に着替えようとロッカーを開ける。

だが中に入っていたのはパジャマと、女性用の下着だった。


「な……なんで?」


「あ、それね。私がチョイスしたやつ。かわいいっしょ?」


「え……これを着ろってこと……かな?」


「うん、そだよー。」


即答だった。

……いや、即答すぎるだろ。


パンティー……いや、パンツはまだ分かる。だが、ブラジャーってどうやって着けるんだ?

こんなの同人誌やエロ漫画でしか見たことなかったのに……まさか実物を手にする日が来るとは。


恐る恐る下着を手に取る。

指先に伝わる布の柔らかさがやけにリアルで、背筋がゾクッとした。


「あはは!やっぱりゆーくん、下着見るのも初めてなんだ?」


「……っ!」


この子……完全に俺の反応を楽しんでやがる。


「じゃあ――付け方、教えてあげるね。」


にこっと笑う真桜。

同い年のはずなのに、その余裕のある仕草と声色はまるで大人の女性。

……立派なお姉さんに見えてきた。




現れたのは

ミントグリーンのフリル付き下着を身につけた少女。

どこからどう見ても、下着姿の“女子”だった。


鏡の中の子は色白で、黒いセミロングの髪。やや小柄な体型に、赤く染まった頬。

内股で恥ずかしそうに視線を逸らすその姿は、まるで別人のよう。


「うぅ……これって、女装……だよな……」


「女装というか、正装だよ。」


真桜に即座に突っ込まれる。

慌ててパジャマに着替えると、シンプルなデザインに少しだけホッとした。


「これが女子の日常だよ。わかった?」


「あ……えっと……なんとなく。」


「わかんなくなったらまた言ってね!お風呂のゆーくん、うぶで可愛かったよ?笑」


「……っ!!」


恥ずかしさに耐えきれず、俺はそそくさと浴場を後にした。

身体も心も、もう限界だった。


***


病室へ戻る廊下の途中、翔と鉢合わせる。


「お、裕貴か。風呂に入ったんだな。」

(……風呂上がりのパジャマ姿も可愛いな。微妙にボディラインが見えるのもいい……)


「あ……そう、だな。」


「今日だけでも相当疲れただろう。欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれ。」


「……ありがと。」


ヨタヨタと病室へ戻ろうとする俺を見送りながら、翔は眉をひそめた。

「かなり疲れてるようだな。……にしては、どこか表情が違うような。」


その時、前から真桜が現れる。


「あ、兄ぃだ。お風呂、入るの?」


「ん、まぁ……そろそろ行こうと思ってた。」


「さっきゆーくんと入ってきたんだ〜。色々教えてあげたよ?」


「――っ!?な、何だと!?一緒に!?」


「??そうだよ?だって兄ぃ、“色々教えてやれ”って言ったじゃん。」


「そ、そりゃ言ったが……まさかそこまで……!」


「別に今は女子同士だし問題ないっしょ。それにね

ゆーくん、すっごく新鮮な反応してて可愛かったな〜。じゃ、私戻るから!」


軽い足取りで去っていく真桜。


翔は近くのベンチに深く腰を下ろし、顔を覆った。


「………………先を越された…裕貴の裸……まさか妹に……」


秀才な思考を巡らせ、出した結論は。


「……だが、風呂の中での二人をイメージすると……それはそれで絵になったな。あり、か……?」


「……真桜の顔立ちが整ってたから、俺は耐えられたんだろうな。……うん。まぁ、いいとしよう。」


翔は自分になんとか正当化させ落ち着きを取り戻したのであった。




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