第15話 夏の授業、新たな試練「スク水」
――ジメジメした6月が過ぎ、季節は7月へ。
梅雨も明けかけ、空気は一気に夏らしくなっていた。
ほんとに月日が流れるのって早いなぁ……
気づけば制服も夏服に衣替え。
白いシャツに薄手のスカート、校舎の中にも蝉の声が聞こえはじめていた。
7月といえば色々とイベントが盛んだ。
「明日は水泳だーー!!!」
教室に響く、桐谷さんの元気な声。
スポーツ少女らしく、テンションは最高潮だ。
「うわぁ……体育の更衣室はなんとかやってるけど、水泳となると……」
そう、水泳。
つまり、女子用の水着を着るのだ。
いや、正直興味はあるよ? 元は男子だし……
水着に着替えるってことは皆脱ぐってことだよな?
その中に、堂々と紛れ込めるのはもう楽園だよ?
……しかし。
真桜さんには俺の事情を知られている。
だからこそ、グヘヘしてる所とか
変な目で見られたくないし、誤解もされたくない。
「またもや目のやり場に困るなぁ……」
そんなふうに頭を抱えていたら、いつもの声が飛んできた。
「ゆかっち! 明日の準備は大丈夫!?」
真桜さんだ。
この人、なぜか俺の心の中を読んでるみたいにタイミングが完璧だ。エスパーかな?
「え、えっと……私、見学とか……」
「えぇ〜? プール楽しいのに! 冷たくて気持ちいいよ〜!」
「そ、それに……水着の着方とか、わからないし……」
「あ〜、なるほどね! それなら――」
ーーーー
「お、お邪魔……します……」
「いえいえ〜♪ そういえば、ゆかっちが私の部屋に来るの、初めてだね!」
……しまった。
思わず変な言い訳をしてしまったせいで、
なぜか水着の着方を教えてもらう流れに。
俺は今、真桜さんの部屋に招かれている。
部屋の広さは翔と同じくらいだけど違うジャンルの
おしゃれで、まるで有名インフルエンサーの投稿みたいな空間。
白を基調にした家具、観葉植物、アロマの香りがふんわりと漂っている。
「うへぇ……すごいな……女子の部屋って……」
「ふふ、でしょ? 前までは友達呼んでよく遊んでたんだけど、最近みんな忙しくてさ〜」
「そうなんだ……」
真桜さんはクローゼットを開け、勢いよく袋を取り出した。
「はいっ! ゆかっちの分! スクール水着!」
「……うわ、本当にスク水……」
見慣れたというか、中学生の男子の“見ていた側”の光景。
懐かしいな…男女授業一緒のころは俺もチラ見してたっけ。
(中学のとき、あれだけ気になってたスク水……まさか自分が着る立場になるとは……)
真桜さんがにこにこと笑っている。
「というかさ、もしかして水着に着替える時、みんなスッポンポンだと思ってる?」
「え? ちがうの?」
「ふふっ……まだまだ男子思考だねぇ〜」
「うっ……」
真桜さんは得意げに笑いながら、再びクローゼットから何かを取り出した。
「じゃーん!ラップタオル!今はだいたいみんなこういうの使ってるんだよ〜」
広げられたのは、懐かしい体をぐるっと覆えるタオル。
小学校のプール以来、久しく見ていなかった代物だ。
「これをこうして、体に巻いて……中で着替えるの!」
「へぇ……そうやってやるのか」
「じゃあ実際にやってみせるね!」
そう言って真桜さんはラップタオルをくるりと体に巻き、
中でゴソゴソと何かをしている。
肩や腕が少し動くたび、タオルがふわりと揺れる。
(中で何が起こってるんだ?着替えてるんだよな!?)
「ほいっ!」
パサッ、とタオルを外すと――
そこに立っていたのはスクール水着姿の真桜さん。
「どーお? イケてる?」
「っ……!!!」
目の前に広がる光景に、言葉が出ない。
健康的な肌、引き締まったナイスバディ
それでいてどこか柔らかさと妖艶を感じさせるライン。
(いや、これは……やばい……すごい……スク水なのに!!)
「…………」
「お、ゆかっち。もしかして、私の身体に興味津々〜?」
「っ……!!い、いや!でも、その……実際すごいスタイルだし……」
「ははっ、正直でよろしい!」
真桜さんは胸を張って笑う。
「女子同士でもね、着替えとか水着姿とか、普通に見るよ? 私なんて結構見られてるし。
まぁ〜スタイルいいし、美人だしね!」
「……あはは……すごい自信だなぁ……」
「それじゃ、今度はゆかっちの番だね」
「うっ……が、頑張ってみる……」
俺はラップタオルを手に取り、身体にぐるりと巻く。
中で服を脱ぐと、タオル一枚の状態に。
(おぉぉ……!これ、想像以上にスースーする……!)
心臓がドクドク鳴るのを抑えながら、スクール水着を手に取る。
(えっと……股のところから通して……肩の紐を……これで合ってるか……?)
なんとか着終えて、タオルを外す。
バサッ――。
「……だ、大丈夫かな?」
「オッケー!完璧!似合ってるよ!ていうか、可愛いなっ!」
「う、うぅ……なんか罰ゲームみたいで恥ずかしい……」
下着ともレギンスとも違う独特の感触――。
ピタッと肌に張り付き、股からお尻、肩まで、身体のラインがはっきりと浮かび上がる。
腕や太ももは露出していて、そこだけ少しひんやりとした空気が触れる。
その温度差が妙にリアルで、余計に意識してしまう。
何よりも、股の部分に何もないという感覚。
その密着感が、身体に直接「いま自分は女子の水着を着ている」と改めて実感させてくる。
これが、スクール水着。
「じゃあ、罰ゲームかどうか鏡で確かめてみようっか!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!」
腕を引かれ、姿見の前に立たされる。
そこには――
スクール水着姿ギャル風の金髪美人・真桜さんと、
その隣で恥ずかしそうにうつむく小柄な女子・前川裕香の姿が映っていた。
対照的な二人。
一人は眩しいほどの自信と色気をまといピースしており
もう一人は、真っ赤に頬を染めながら指先をいじるような控えめな仕草。なにか危ない遊びをこれからさせられる…そんな感じ
「ほら、ちゃんと着こなしてるよ、2人とも♪」
「へ、はぇ……あわわわ……」
鏡越しに見る自分が、相変わらず自分じゃないみたいだった。
それに隣の真桜さんが近すぎて、
ほんのりと甘い香りと体温が伝わってくる。
(やばい……興奮でどうにかなりそう……!!)
「うりうり〜、ゆかっちなら見てもいいぞ〜♪」
「真桜さん!?」
真桜さんは腰をふりふりさせながら、わざと挑発的なポーズをとる。スク水で曲線的に…なんてセクシーな…
くっ……やめてくれ!そんなことされたら――!
流石に、反応してしまう…!!
久しぶりに思わず反射的に股間を押さえる。
……が、スカッとした感覚。
(……あ、そっか。“アレ”はないんだった……)
ほんの数秒の混乱と現実のギャップに、なんとも言えない感情がこみ上げてくる。
「ふふっ、ムラムラしちゃったか〜?」
「いやっ、そのっ!!だって……俺……!」
「ははっ!冗談だってば〜♪
ごめんごめん、ちょっとからかいすぎたね。
でもね、こういうのも慣れだから。今のうちに他の女子に見慣れておいたほうが、後で動揺しなくて済むんだよ。
それに私くらいの美人に慣れとけば、大体のことは平気になるよ!」
「いや、それは……荒療治っていうか…他に失礼というか…
でも、色々とありがとう、真桜さんおかげで慌てずやれそう」
「どういたしましてっ♪あ、明日のプール、絶対一緒に入ろうね!
せっかくだし、いっぱい思い出作ってさ!」
「……うん、そうだね!」
からかい半分、本気半分。
でもその笑顔に、なぜか心が少し軽くなった気がした。
(やっぱり真桜さん、からかい方はえげつないけど……なんだかんだ、頼りになる)
スクール水着姿のまま、
部屋でまったりと過ごす俺と真桜さん。
奇妙な光景だが、どこか穏やかで
不思議と居心地がよかった。
そんな空気を破るように、
コンコンッ。
「ん?誰か来た?」
ガチャ――。
「入るぞー真桜。お前、俺の部屋に資料忘れ――」
「え?」
「あっ!兄ぃ!?今は入っちゃ――って、あちゃ〜!!」
……まさか。
入ってきたのは翔だった。
「へ……へ……え?し、翔……!?」
「裕香……なんでここに?それに……スク水……?」
ガバッ!!
反射的にその場にあったタオルを掴み、全身を隠す。
顔が熱い。胸が…!。心臓が破裂しそうだ。
「い、いやっ……これはっ……!!」
一方、真桜さんはまるで悪びれず――。
「あーあ!兄ぃの変態!妹と友達の水着姿のぞいて楽しいか!」
「ちょっ、おま……っ!」
バタン!!!
勢いよく扉が閉まる。
その直後――
「連れてきてるならちゃんといえよ!真桜!!」
廊下の向こうから、翔の怒鳴り声が聞こえてきた。
ドクン、ドクン、ドクン……。
タオルにくるまりながら、俺は恥ずかしさで動けなかった。
そんな俺を見て、真桜さんがクスクス笑う。
「大丈夫だよ〜。兄ぃはあれでもモテモテだから、今さら私達の水着見たくらいで発情なんてしないってば」
「う……そ、そうかな……でも……」
「ほらほら、気にしすぎ。ゆかっちは本当にピュアだな〜。
明日は女子ばっかりだし、安心してプール楽しもうよ!」
「安心するような……逆に緊張するような……」
俺はそのまま着替えを済ませ、
真桜さんに礼を言って部屋を出た。
帰り道――
(翔に……スク水姿……見られた……)
下着のときは、ここまで動揺しなかったのに。
今日はなぜか、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような恥ずかしさ。
そして妙な快感…?なんか変な感じなった。
――その頃、翔の部屋。
「ありがとうございます神様……ありがとうございます神様……ありがとうございます!! 神様!!」
「でも……今日の裕香、なんか……すごく“女子”だったな……
自覚しだしたのか……?」
彼は静かに天に祈りを捧げていた。
同じ頃、真桜の部屋では。
「ふふっ、やっぱり兄ぃは入ってきたね〜。仕込みがうまく行った…!私がギリギリまでからかってるとき、ゆかっちは俺っていうくらい男子の反応だったのに…
兄ぃが入ってきた瞬間、あんなに女の子らしい反応するなんて。
本当に面白い子だよ、ゆかっち。観察のしがいがあるな〜♪」
彼女の声は、どこか実験者のように楽しげだった。
それぞれの思惑。
それぞれの感情。
三人の関係は、静かに動き始めていた。




