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第12話 女子としての遊びの前に、女子の学びがしたい俺 


明日、みんなと買い物。

デパートに行くなんて、それだけでもドキドキするのに、

「友達」と外出するなんて……人生で初めてだ。



ーーーー



「………ってことで、お前が服を買いに行くための服を俺が選べと?」


翔が呆れたように言う。


「そ、そうだな。すまん。この姿で私服で外出するのは初めてで……お前なら彼女いたことあるし、センスいい服をチョイスしてくれるかなと」


「なるほどな。まぁ、任せとけ」


俺は翔を部屋に招き入れ、2人でクローゼットの前に並んだ。


ドアを開けると、整然と並んだハンガーには真桜さんがくれた可愛らしい服たちがぎっしり。

淡いピンクのブラウス、白のニット、フレアスカート、ショートパンツ……見てるだけで目が回りそうだ。


「真桜さんが大体の服をくれたんだが……何を着ればいいんだ?というか女子ってなんであんなに服を買うんだ?」


「それはな、俺たち男より服を楽しむ文化があるんだよ。

 気分や場所に合わせて変えるのが女子のセンスってやつだ。

 あと単純に、試着とかコーディネートや、眺めてても楽しい……らしい」


「う、うーむ……今のところ全然わからんな」


翔はクローゼットの中をしばらく眺めてから、

一着の白シャツと紺色のスキニージーンズを引き出した。


「まずは…これだな。白シャツと紺スキニー」


「おう、とりあえず着てみるよ」


翔が言うなら間違いない、そう思って、

俺は今着ていたシャツとズボンを脱いだ。


ズルッ、ガサッ……


「……なぁ、裕香」


「ん?」


「俺、前にも言ったよな。男子の前で、こういうのはやめとけって」


「こういうのって?」


「今、お前……下着姿、俺に見せてんぞ?」


「……あ…」


ようやく、自分の格好に気づく。

シャツを脱ぎ、下着のまま立っている自分。

女子として、男子の前でこれは……確かに駄目だ。


「とりあえず、俺は寝室に行ってる。着替え終わったら呼んでくれ」


「……う、うん」


翔がリビングを出ていく。

少しの沈黙が残る。


なんというか……ちょっとだけ寂しい。

別に翔に下着姿をみられてもそんな恥ずかしとか…

そういう仲ではないが。

けど、なんでだろう。

距離を取られるのが、少し胸の奥に刺さった。


俺は女子として扱われる、それはどういうことなのかな?

頭に浮かぶのはこの前のトイレの出来事。

あのときの翔の腕、肩越しの体温、近すぎた距離。

頼れる翔の顔、抱きついた時の腰の筋肉…


「……いやいや、何考えてるんだ俺」


ドクン、ドクン。

心臓が速い。変に意識してしまったか?


「う……俺、どうしちゃったんだろ」


ーーーー


翔は寝室で腕を組みながら考えていた。


(あえて、少し遅めに止めた。予想通りそのまま着替えだしたな。これで下着姿を見つつ、女子としての意識も高まる。完璧だ)


(しかし…ミントグリーンの下着…可愛かったな。

幼気な見たとシンプルな下着…裕香が彼女だったらいつも見れるんだろうか)


「翔、着替えたぞ」


「おーう」


リビングに戻る翔。


そこにいたのは、

さっきまでの抜けた表情とは違う――

頬を少し赤らめ、照れくさそうに立つひとりの女の子。


白シャツと紺スキニー

鏡の前で少し不安そうに微笑む姿は、

まぎれもなく“女子高生・前川裕香”だった。


翔は思わず、心の中でつぶやく。


(照れてる……やっぱり、可愛いな。あぁ…ハグしたい)


「ど、どうかな?」


白シャツにスキニー姿の俺を見て、翔は腕を組んでうなずいた。


「悪くないな。けど、あの三人の中に混ざるなら、もう少し工夫が必要だな」


「え〜?俺はこれで十分だと思うんだけど…」


翔は再び、クローゼットの中を探り始めた。

無言でハンガーを滑らせ、何着かの服を手に取っては戻し……そして、一着で手を止めた。


「お、これなんかいいんじゃないか?」


差し出されたのは、柔らかな白のワンピース。

袖は半袖より少し長めで、スカートは膝下まであるロング丈。

シンプルだけど清楚で、上品さがある。


「わ、ワンピース……?」


「そう。丈も控えめだし、上品に見える。お前の雰囲気にも合うと思う」


「そ、そうか……」

鏡の前でそっと服を広げてみる。

確かに可愛いけど、どう着るのか全然分からない。


「翔、これって……どうやって着るんだ?」


「え? あ、いや……その……」

(こいつ…!さっき言ったこと忘れてるのか?でもまた下着姿…いやいや!これ以上は流石に危ない!!ここは紳士を演じる…!)


「……じ、自分で調べてくれ!」


「えぇぇ!? なんでだよ!?」


翔は顔をそむけたまま、寝室のほうへ早足で去っていった。


「おい翔!?おーい!?」


部屋に取り残された俺は、ワンピースを抱えたまま立ち尽くす。


なんとかスマホで「ワンピース 着方」を検索する。

「えっと……後ろのチャックを下げて、腕を通して……くぐるように……?」


慣れない手つきで格闘すること約二十分。


「……着こなせてる、か?」


リビングに出ると、翔がこちらを見て一瞬固まった。


「お、おう……いい感じじゃん」


(うわああぁぁ……!!!!か、可愛い!!!白ワンピの裕香、反則だろ!!!しかも俺の選んだ服を着て……これって、まるで……彼女じゃねぇか!! アガる!!)


「上も下も一体になってるの、なんか変な感じだな。トイレとか、どうするんだ?」


「それはスカートと同じ感じだろ? ワンピースは上下の組み合わせとか気にしなくていいし、緊急時でもサッとおしゃれに見える便利アイテムなんだよ」


「なるほど……! 勉強になるな!」


裕香は鏡の前で、裾を軽くつまみながら回ってみる。

くるりと揺れる白の生地。


「よし、裕香。次はメイクだ」


「……え?」


「出かけるぞ。デパートに」


「え?なんで?」


「ワンピースで実際に歩いて、遊んで、食事してみろ。動きやすさも雰囲気も、実際に試さないとわからないだろ」


「おおっ、なるほど!!」

流石は翔、先の事を予測してくれてる…

賢いだけあって本当に頼りなる。


「ここからそんなに遠くないし、徒歩でもいけるだろ」

(……よし、完璧だ。これで外出する理由ができた。

ふたりきりで街に出る――どう考えても、これはデートだろ)


「少し待ってくれ!すぐメイク終わらせる!」


「じっくりでもいいぞ」


メイクを終え、二人はデパートの前に立っていた。

午後の陽射しが大きなガラスの壁に反射して、街の喧騒をキラキラと照らしている。


「……デパート。これが……デパート……デケェ……」


裕香は見上げたまま、ぽかんと口を開けていた。


「まぁ、デパートっていったら大体こんなもんだよ」


「いいか裕香。お前は今、ワンピースを着た“女子”なんだ。

学校でやってる通り、姿勢、仕草、歩き方……全部意識しろ」


「ああ、わかってる。ガニ股にならない、できるだけおしとやかに……食事は綺麗に」


口ではそう言っても、胸の鼓動は落ち着かない。

休日の人混み、ショーウィンドウに映る自分の姿

そのすべてが、非日常のように感じられた。


皆はきっと何気なく歩いているだけなのだろう。

けれど、俺にとっては、まるでテーマパークだ。


「心配すんな。俺がエスコートしてやる」


翔は軽く笑いながら、一歩先に進む。

「頼りにしてるぞ、翔」


「よし、行くぞ」


自動ドアが音もなく開く。


「……あわわわ……す、すごい……!」


エスカレーターの音、店内アナウンス、行き交う人々の声。

俺はきょろきょろと辺りを見回し、まるで小学生の社会科見学のように目を輝かせていた。


「……やっぱり事前に連れてきて正解だったな」

(あぁ……こいつの“初めて”を、俺が全部見れるのか)



服売り場の階へたどり着いた。

広いフロアいっぱいに、カラフルなマネキンや新作ポスターが並び、

香水と柔軟剤の混じった甘い匂いが漂っていた。


「ぶっちゃけ、このエリアで女子はかなりの時間をつぶす……」


「このエリア……って、服のエリアのことか?」


3階フロアには、婦人服、カジュアル、スポーティ、フォーマル

色とりどりのショップがずらりと並び、どの店も賑わっていた。


「かなりって、どれくらいなんだ?」


「1時間から2時間はザラだな。信じられんか?」


「ええっ!? 服なんて買って終わりじゃないのか!?」


「それが“男子の発想”だ。女子ってのは、甘く見ちゃいけねぇ。

今日は実地で学ぶぞ、裕香!」


「ひぃぃ……」


そうして2人は、フロアをぐるぐると歩き回る。

マネキンのコーディネートを眺めたり、値札を覗き込んだり、

「これ似合う?」「今の流行は何だ?」

そんな会話を何十回も繰り返した。


「ブランドってのはな、服の“名前”みたいなもんだ。気に入ったとこを一つ覚えとけ。女子トークで生き残れる」


「な、なるほど……覚える……!」


最初は興味より疲労が勝っていたが、

少しずつおしゃれの世界がわかってくる自分に、

なんだか不思議な楽しさを感じていた。


そして、約1時間後。


「……つ、疲れた………」


「よし、今日の勉強はこのへんで終わりだな。

5階のフードコートで昼飯にしよう、裕香」


「いいな……お腹すいた……」


2人はエスカレーターに乗り込み、

下から吹き上げる冷気とともに、ふわりと甘いパンの匂いが漂ってきた。

休日のデパート人混みのざわめきの中で、

2人の休日が、ゆっくりと次のステージへ進んでいく。


フードコート。

休日の昼時ということもあって、人の波とお盆の音が絶えない。

ズラリと並ぶテーブル。香ばしい匂い。

その一角、翔に連れてこられたのは、店内にゆったりとした席がある

パスタ専門店だった。


「ここ、俺のお気に入りなんだ」


「パスタ……お店で食べていいのか……?」


「おいおい、そこからかよ」


2人で笑いながら、それぞれメニューを選び、

俺は“和風しそ海苔パスタ”を頼んだ。

湯気の立ち上る香ばしいソースに、紫蘇の爽やかな香り

一口食べた瞬間、思わず声が出る。


「ん〜っ!美味い!」


「……良かったな」

(……めちゃくちゃ可愛い。美味しそうに食べる顔、なんか新鮮だな…撮っていいか?…)



食後。


色々として貰って悪いから俺が出そうと思い

会計をしようと財布を出すが、翔が先に声をかける。


「すみません、会計一緒で」


そう言って、迷いなく一万円札を差し出す。


「ええ!?ちょっ……悪いって!」


「お前、一人暮らしで大変だろ?これくらい出すさ」


「いやいやいや!大変だけど……俺、ブラックカード持ってるし、貯金も五百万あるぞ!?」


「ああ、俺も持ってるし、貯金は一千万ある。気にすんな」


「規模が違ぇ……」


思わず肩を落とす。

同じ“稼ぎ”でも、自分は研究費をもらっただけ。

翔はちゃんと自分の力で得た金。

その差が、なんとなく悔しかった。


「なんか……申し訳ない」


「気にすんな。今日のお前はな……か…」


「ん?俺は?……か?」


翔は一瞬、言葉に詰まる。

喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込んで


「か……格好が決まってた!だからご褒美に奢ってやった!」


「おおっ!それはありがとう!」


「感謝しろよ?」


「もちろん!」


2人は笑い合いながら、デパートを後にした。

外は夕暮れ。ショーウィンドウに映る2人の姿が、

まるで“本当のカップル”みたいで少し照れくさい。


帰り道。


「デパート……普通に楽しかったな。

俺が知らないだけで、世の中にはいろんな楽しみ方があるんだな……

明日、みんなと行くのが……楽しみだ」


「翔…頼りになるな…ああ言うのができる男なんだろうな……

アイツの彼女ってすごい幸せなんだろうか…」


裕香はそんな独り言をつぶやきながら、

静かな住宅街を歩いて帰っていった。


一方その頃――翔もまた、帰り道を歩きながら呟く。


「……“可愛い”って言えなかった。言いたかったのに……

クソ……なんでだ?今さら女子に可愛いって言うくらい、簡単なはずなのに……

……裕香にだけは、どうしても言えねぇんだよな……まるで初恋みたいな感覚…」


片方は「女子の勉強」、もう片方は「デート」。

お互い違う気持ちで過ごした1日が、

確かに2人の距離を、少しだけ近づけていた。





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