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過去の正体


 6


 廊下に誰もいないことを再度確認し、千歳は生徒会室の引戸を閉め入室した。彼女は正面に対峙する2人を交互に見た。


「ここだったら、訊かれる心配はないから」千歳はいった。


「いきなりなんだよ、こんな所に呼び出して」浅葱が怪訝な顔をした。


「ホントだぜ。せっかくの昼休みが台無しだ」朽葉は腕を組んで偉そうにしている。


「黙って」千歳は2人を睨み付けた。「あなたたちのどちらかが日誌の頁を破らなければ、こんなことになってないんだから」


「日誌?何言ってんだ?」浅葱は、初めて訊いたような態度で首を傾げた。


 朽葉も同様な態度で「頁?」といって、眉間に皺を寄せた。


「えっ?あなたたちじゃないの?」千歳は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。「それじゃ、一体誰が……」


「大事な話があるからって来たのによ……何だよ」朽葉はポケットに手を突っ込みながら、隣に立っていた浅葱を不満そうな表情で見つめた。


「俺がいて残念だと言いたげだな。もしかして、告白されると思ってたのか?」


「何だと?」


 朽葉が嘲笑する浅葱に詰め寄ったところで、「ちょっと、落ち着いて」と千歳が渇を入れた。彼らは驚き、それからお互いに距離を置いた。


 千歳はこれまでの事を理解してもらうために、去年書かれた生徒会日誌の頁が破られた事件と、昨日訊いた山吹の推理を話した。先程の渇が効いたのか、2人とも時々頷きながら最後まで訊いていた。


「去年の社会の授業……」浅葱は宙を見た。「あれって陰平が犯人なんだろ?俺たちは関係ない」といって他の2人に同意を得ようとした。


 だが、朽葉が意味ありげな視線を千歳に向けた。彼女はばつが悪そうな表情を浮かべると、目を逸らした。


「なんだよ、何か隠してることがあるのか?」浅葱は2人を交互に見た。


 関わりたくなかったから今まで黙ってたけど、と朽葉は前置きをしてから「なぁ、浅葱、社会の授業が始まる前、春海に何か頼まれなかったか?」と訊いた。


「ああ、月原をトイレに誘ってくれって言われた」


「俺はノートを渡された。こっちが正しい情報だからって。だから陰平がノートを置いた後、すり替えてきて欲しいって……言ったよな?これはグループのためだって」


 浅葱と朽葉の視線が、千歳に集中した。


「俺……陰平と春海の手伝いまったく出来なかったから、頼まれたときに断る理由ないなって思って引き受けたんだ」浅葱がいった。


「正直、月原に怒鳴っているのを訊いたときはゾッとしたよ。自分で全部仕組んどいて、あんなこと出来るなんて」朽葉の顔は強張っている。


 千歳は鼻で笑いながら、2人を一瞥した。彼女は開き直ったような表情でいった。


「おかげであの八方美人でヘラヘラしたあの子の鼻を折れた。終わったことなんだし、もうどうでもいいでしょ」


 それよりも、と千歳は更に続けた。


「今考えることは、山吹の追及からどう逃れるか。この中に日誌の頁を破いた人物がいないとなると……」


 浅葱と朽葉は、蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。


「あっ、そうだ」千歳は笑みを浮かべた。「ここに来てからわたしが日誌の頁が破かれたって話をした時、2人とも知らないって顔したよね?」


 浅葱は小さな声で「ああ」といい、朽葉は何度か頷いた。


「じゃあ、山吹から訊かれたらこう答えて。“去年の生徒会が陰平芽生の件を調べているなんて知らなかった。知らなかったんだから、破りようがない”ってね。そうすれば、彼の推理は破綻する。つまり、これ以上の追及はないってこと」


 これにて一件落着。後は生徒会日誌の頁を破いた人物を見つければ、すべて丸く治まる。


「いい?今ここで話したことは、絶対に誰にも言わないこと」


 千歳は小悪魔の様な笑みを浮かべ、唇の前に人差し指を当てた。


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