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或る女子生徒の過去


 4


 蔭平芽生の心に影を落とす原因を作った事件は、去年の11月に起きた。当時、2年2組だった芽生はいつものように社会科の授業を受けていた。


 内容は、『地域社会』について。5人1組のグループに分かれ、課題を見つけて調べ物や解決に取り組むというものだった。


 芽生の班は、『学校と地域社会の協力』をテーマにした。早速作業に取り掛かったが、そこへ水を指す人物が現れた。同じ班の月原賢吾という男子生徒だ。


「俺、最後の発表やるから。後はよろしく」


 月原はそういうと、班にいる他の男子生徒たちと談笑し始めた。片方の広角だけを上げて憎たらしく笑う彼の表情に、芽生は憤りを感じていた。


 男子生徒3名、女性生徒2名の班において、男子生徒3名がいきなり戦力外になることは相当な痛手だったが、隣に座っていた女子生徒が、芽生の肩に触れてきた。


「大丈夫、わたしたちで何とかしよう」


 そういったのは、後に生徒会長を務める春海千歳だった。自信に満ちた話し方と、引き込まれるような強い目力は、芽生の心を勇気づけた。


 結局、男子生徒3人抜きで作業に取り掛かった。


『学校と地域社会の協力』についての具体的な作業は、学校でボランティア活動している人や、登下校の安全を守っている人から話を訊くというものだった。


 芽生は他にも母校の小学校へ行き、読み聞かせをしているボランティアの人や、放課後に学習指導している人にも話を訊いた。


 当たり前だと思っていたことが、実は多くの人の支えで成り立っているのだと知ることができた。


 長い時間を要したが、訊いた内容を千歳とまとめた。作業を終えた頃、ようやくやって来たのは、月原と談笑していた男性生徒2名だった。


「悪かった。月原に逆らえなくて」手を合わせて謝ってきたのは、浅葱拓郎(あさぎたくろう)だ。強面で体格は大柄だが、性格は温厚で、悪い人ではないと分かっていた。


「ホント困っちゃうよな、アイツ」笑って誤魔化したのは、朽葉緋梛太(くちばひなた)だった。いつも月原と一緒にいる腰巾着のような存在で、自分というものがなく、強い人物に付くタイプの人間だ。


 芽生と千歳は、2人を許すことした。


 そして、調査した内容を他のクラスメイトに発表する日がやって来た。最初にいった通り、月原が発表する。


 芽生は社会科の授業が始まる前、彼が教室にいないタイミングを図って机の上に内容をまとめたノートを置いた。直接話したくないからだ。


 書いてあることを読み上げるだけでいいように、原稿を書いておいた。ノートの表紙には、『社会科 発表用』と書いておいた。


 不本意だったが、芽生も彼に逆らえなかった。彼に逆らったり、ターゲットにされた生徒は執拗な嫌がらせを受ける。苦しんでいる生徒を何人も見てきた。


 教師に報告してもお咎めなしで、憎たらしい笑みをクラスメイトたちに向けるのだった。


 だが、そんな月原に思いがけない出来事が起きた。


 芽生の班が発表の出番となり、代表して月原が教壇に立った。彼は千歳と一緒にまとめた内容が書かれたノートを広げ、得意気な顔で話しだした。


 月原が話した内容に、芽生は眉をひそめた。調査した内容と違っていたからだ。同じような内容を調査していた他の班からは、ヒソヒソと笑い声が聞こえてきた。


 それを訊いたのか、月原の目に動揺の色が見えた。何度か彼と目があったが、芽生も何故このような事が起きたのかで頭がいっぱいだった。


 質疑応答なく、発表は終わった。当然だ、間違った情報に誰が質問するだろうか。あったとしても、一体誰から情報を得てきたんですか、と嘲笑されて終わるだけだ。


 授業後、春海と発表のことで話していると、月原が大股でやって来てノートを芽生の机の上に叩きつけた。


「これは一体、どういうことだ」


 教室全体に響く大きな声に、他のクラスメイトたちの視線が集中した。


「わたしにも分からないよ」芽生はいった。「このノートにちゃんとまとめたはずなのに」


「じゃあ、何で俺は間違った情報を発表したんだ?」


「そんなの……知らないよ」両方の頬が熱くなるのを感じる。気づけば、芽生は大粒の涙を流していた。


 そんな芽生を見て、千歳が月原を睨み付けた。「最初から何もしてないあなたに責める資格なんてない。芽生とわたしは頑張ってノートにまとめたの。間違ったものだと気づかなかったあなたが悪いのよ」


「何だと」早口でまくし立てられた月原は、更に大きな声を出し、千歳に詰め寄った。「俺は机の上に置いてあったノートの内容を読んだだけだ。間違った内容をよこしたそいつが悪い」


「そこまでだ」担任の男性教師が入ってきて、2人を止めた。他の生徒が連れてきたのだ。



 後日、教室に芽生の居場所が無くなっていた。誰かが『月原の机の上に陰平芽生がノートを置いているのを見た』と彼にいったのだ。


 言い返してくれた千歳からも冷たい目で見られた。庇ったのに、といいたげだ。


 月原からの嫌がらせに芽生の心は限界に達していた。教師にいってもダメならと、当時、生徒会長を務めていた緑愛梛へ会いに生徒会室へと向かった。

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