プロローグ
プロローグ
参考書を開いたが、勉強がまったく手につかなかった。きっと放課後に起きた、あの出来事が原因なのかもしれない。
緑愛梛は自室で溜め息をつきながら、椅子の背もたれに体を預けた。
帰宅してから30分程経ったが、参考書は同じ頁でシャープペンの芯も出ていない。愛梛は、姿勢を戻して机の引き出しを開けると、スマートフォンを取り出した。
メッセージアプリと開くと、操作し送信相手を探した。“赤佐くん”と表示された画面をタップしてから慣れた手つきでフリック入力し、最後に雪だるまの絵文字をつけてメッセージを送信した。
『話したいことがあるから、21時すぎたら電話くれる?』
数分後、既読がついた。返事は『わかりました』とだけ。絵文字がついていない寂しげな文だと思ったが、先輩と後輩のやり取りなんてこんなものなのかなと思いながら、彼女は頬を緩ませた。
数時間が経ち、夕食とお風呂を済ませて自室に戻ると、あと5分ほどで21時になろうとしていた。愛梛はスマートフォンを持って、ベッドに腰を下ろした。
21時ちょうど、彼女のスマートフォンが着信を告げた。通話ボタンを押して耳に当てた。
「こんばんは」電話口から聞こえる赤佐の声は、耳に響くくらい低かった。
「こんばんは、ごめんね夜分遅くに。ちょっと話したいことがあって」
「大丈夫ですよ。何かあったんですか?」
「ちょっと訊きたいことがあって。赤佐くん、芽生ちゃんって知ってる?」
「めいちゃん?」
「あっ、ごめん」愛梛は慌てて訂正した。「陰平芽生っていう子」
「……知ってますよ」
「赤佐くんから見てどういう人?」
「どう……ですか」赤佐は唸った。「違うクラスなので、数回しか話したことないですけど、明るい雰囲気で人当たりも良くて、感じのいい人だと思います」
「そう……」愛梛はベッドに横になりながら、あの出来事を思い出していた。
今日の放課後、愛梛は生徒会室で黒い綴込表紙でとじられた生徒会日誌を読んでいた。
生徒会長である愛梛が日誌を書いていた。主な内容は、行われた行事の実行委員会で決定されたものをまとめる議事録であったが、彼女はちょっとした遊び心でメモを付け加えていた。
具体的にいえば、書記の子が月に1回発行する生徒会新聞を熱心に作ってくれた、会計の子が張り切って生徒総会の資料をまとめてくれた、など他の役員がどのように活躍していたのかを愛梛目線で書いたメモだ。
懐かしさを覚えながら読み終えた頃、木の引き戸を数回ノックする音が聞こえてきた。愛梛は音のする方に視線を移すと、女子生徒が曇った表情を浮かべて立ち尽くしていた。
長く綺麗な黒髪を後ろに1本でまとめられていて、目鼻立ちがはっきりしている。身長は他の女子生徒と比べて少し高い。上履きの色ですぐ赤佐と同じ2年生だと分かった。
制服の胸ポケット付近に付けている名札には、蔭平と書かれていた。下の名前も知りたかったので尋ねると、女子生徒は蔭平芽生です、と名乗った。
愛梛は近くにあった椅子に座るよう勧めた。芽生と向い合わせで座った愛梛は、彼女から話を訊いたのだった。
その内容は、愛梛にとってかなり心苦しいものだった。帰宅してからも彼女の話が頭から離れなかったのだ。
「陰平さんに何かあったんですか?」
赤佐の声で我に返った。
「赤佐くん」愛梛はベッドから起き上がった。「頼みたいことがあるんだけどいい?」
「はい……何でもいってください」
「ありがとう」愛梛は笑みを浮かべた。「芽生ちゃんのことを頼みたいの。詳しいことは本人から訊いてみて」
「わかりました」
「それじゃあ、お願い。明日から推薦入試の面接の練習とかで忙しくなるから、中々会えないと思う。だから、寂しくなったとき用にメッセージを書いておいたから、その時になったら読んで」
「さっ、寂しくなんてなりませんよ」赤佐の声に動揺の色が見えた。「ここは俺に任せて、会長は推薦入試に集中してください」
「わかった、ありがとう」
本日、11月30日(水)、生徒会日誌に書かれた内容は、以下の通り。
『いつ、月原くんに渡されたのか?』
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これは芽生ちゃんからの話で私が疑問に思ったこと。赤佐くんには必要ないかな(笑)
ps.芽生ちゃんには赤佐くんがついてるから大丈夫!って伝えておいたから。お願いね。




