表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

僕の居場所

作中に犯罪を示唆する描写がありますが、それらを助長する意図はございません。

ご理解の程よろしくお願いいたします。






 僕には居場所なんて無かったから、神様から僕自分で書いた小説の中に入れよ、と言われた時、嬉しかった。


 そこが僕の唯一の居場所だったから。


 小説の中に入った僕は創造主ということでもあり、王様の、いや、神様のように扱われもてなされた。それはだってこの小説の世界を創ったのは僕自身であるのだから、そこに生きるキャラクターの感情や思いは全て僕の手の上だった。まるでこの世界を統治する王様のようにでも、いや、王様キャラはこの小説の中にいるのだが、僕はその王様より偉い、まるでこの偉大なお父さんにでもなったような気分だった。

 僕は偉大なお父さんになったんだから、この小説のキャラクターのみんなが幸せに暮らせるように、頑張らなきゃいけないと思って、王様キャラと一緒に行政を執り行うことにした。


 これは甚だ思い違いであろうし、未熟というものが調子に乗ったがゆえの有り様であろうが、なまじ創造主という力があるだけ始末が悪かった。


 僕は一生懸命仕事をした。

 治水灌漑事業から外交から国防から経済まで、何から何まで、僕は一生懸命仕事をした。

 徹夜だって何度もした。

 仕事の遅いキャラには罰を与えたり喝を入れたりした。これは一見するとパワハラにも見えるかもしれないけど、僕には愛があった、そして僕達は団結していて、この国をもっともっと良くしてゆこう繁榮させようという目標があった。

 そして何より。

 僕達は家族のようだった。

 この小説の中で生きる時間は本物だった、実りのある時間だった。そして本当の僕の居場所だった。


 そして。もう一つ大事なことが。

 僕は小説の中で恋をした。魔法学校に通う女の子だった。けっして裕福な家の娘ではないが、優しさと高い魔力を秘めていて、時折の笑顔がとてもキラキラとした子だった。

 一目惚れだった。

 僕は彼女と仲良くなりたくて魔法学校の帰り道、寄宿舎までの道のりを毎日一緒に帰った。休日は僕の屋敷に招いて豪華な食事を振る舞った。キレイな物を見つけたらすぐ彼女にプレゼントした。

 そして思い切って告白をした。

 彼女は照れながら笑っていた。




 それはある日だった。僕がいつものように王様キャラの執務室に向かっていると、突如兵隊キャラに取り囲まれて、拘束された。僕はそのまま神殿に連行された。

 訳がわからず混乱していると、神殿に着いた。


「それではこれより、創造主に対する内乱の罪が相当か否かを見極める審判を開始する!」


 そう言って神殿で僕の審議が始まったのだが、その議事場には沢山の公聴席に人がおり、外にも雪崩れのように人がおり、みんな殺気立っていた。

 僕はさらに混乱していた。

 ざわめく議事場の中、王様キャラが叫んだ。


「今日、ここに集まった人々は目撃するだろう。この悪逆非道の我々にとってまったくの芥! 芥でしかない奴を、こいつを、我々の手で処刑できるというのだから! 今日! 今! ここから! 我々は新しい輝かしい一歩を踏み出す! そのためにっ!」


 みんなは歓声を上げた。

 僕はあぶら汗が止まらなかった。


 まず出てきたのは王様キャラと僕と一緒に執政を行なっていた貴族キャラ達だった。彼らは壇上に立つなり我先にと僕に向けて叫んだ。


「お前の無能の尻拭いに俺達がどれだけ苦労したと思う! お前の気まぐれに振り回されて俺達がどれだけ苦労したと思う! 創造主が何だかしらないが、無能は失せろ!」


「お前がたった一人の女のためにと河川を増長した事業を、覚えているか! あの工事でどれだけの作業人が死んだと思っているんだ!」


「大した学もないくせに偉そうにしやがって! そのしわ寄せは俺達にきている!」


「お前は俺達のことなんて一つちょっとだって考えていない!」


 僕はそんなことない! 僕はみんなのことを考えて……。と言おうとしたが、あまりの鬼気迫る姿勢に怖気づいてしまった。


「何が父親だ、何が家族だ。お前がそう言うなら俺達は父殺しだ」


 ある貴族キャラがそう握り拳をあげると、みんなが拍手をした。

 すると王様キャラが、


「もうよい、もうよい。皆の思いは十分に伝わっただろう。この怒り、やるせなさ、奴はこれだけでも十分に処刑されるに値する。しかし儂はもう一人、本当に声をあげねばならぬ苦しみを抱えた者を知っている。上がってまいれ!」


 そう言うと、壇上に上がってきたのは僕が好きだった魔法学校の女の子だった。彼女は震えていた。そして、ゆっくりと口を開いた。


「………私は……。創造主に……。ストーキングされていました。いつもいつも学校の帰り道に待ち伏せされて、寄宿舎の部屋の前まで来られました。そして休日はほぼ毎回食事に連れ去られました。よくわからない贈り物もされました。私はいつこの苦しみから解放されるのかがわからず、心身の調子を崩しました。私は創造主を………。上手く距離を取っていなすことができませんでした。何故ならその創造主の力によって、私は消されてしまうのではないかという恐怖心があったからです……。怖かったんです……。そして創造主から告白された時、私の混乱はピークに達しました。私はどうしたらよいか、本当にわからなかったのです。私はただ茫然とするしかありませんでした。しかし今ここでは創造主は処刑されようとしています。それはもしかしたら、私達のこの小説世界が消えてしまうかもしれません、しかし。この耐え難い屈辱から解放されるなら、私は滅びようとも、創造主の処刑を望みます」


 僕の顔はぐしゃぐしゃになった。涙が止まらなかった。

 王様キャラが


「これが悲劇! これこそ悲劇! まさにこの創造主と小説キャラクターという力の非対称性の中で、我々の尊厳は踏みにじられてきたと言えよう! 奴は創造主としての振る舞いを! 配慮を怠ったと言えよう! それによって幾万というこの小説のキャラクターの尊厳を踏みにじった! それを万死に値させずに何であろうというのか!」


 そう叫んだ。

 みんなの歓声。

 するとふらりと一人の老人キャラが壇上の王様キャラの前に立ち


「果たして我々は創造主に対して、ちゃんとした意思疎通の努力をしてきただろうか? 確かに創造主の至らなさもあるだろう、力の非対称性もあるだろう、こちらの意思疎通も水泡に帰すこともあるだろう。しかし世の中というものは人と人が時に言い合い傷つきながらも、お互いに協力し合い共に生きてゆける道を探ることではないだろうか? 我々に、その努力は、あったか?」


 これに対し王様キャラ


「その言葉はそっくりそのまま創造主に向けるべきだ! 奴が努力を怠っている。そして力の非対称性を理解していない! 権力を暴走させている! 我々小説キャラクターにできることなど限られているんだよ」


「我々にできることは? できたことは?」


「そんな甘っちょろいことを言うから創造主はつけ上がるんだ! 傲慢になるんだ! 独りよがりになるんだ! ストーキングをするんだ! 馬鹿につける薬は無い! 我々の忍耐はとっくに許容範囲を超えている! 奴はいっぺん死ななきゃ治らない! どうせまた生き返るんだろう創造主なんだから! そいつをさっさと議事場から追い出せ!」


 そう言われた老人キャラは兵士に議事場から連れ出される時


「創造主が愚者であるというならば、同等にまた我々も愚者であると自らに銘じることを忘れるな!」


 そう叫んだ。

 

 そして審議が終わり、審判が下された。


「創造主の悪逆非道はこの国を乱し滅ぼさんとする内乱であると十分解釈でき、ここに内乱の罪を認め、創造主に対し斬首刑とすることと決まりっ!」


 小説のみんなみんなみんな、誇らしげだった。




 僕はそのまま処刑場の広場へと連行された。往来のみんなは僕に罵声を浴びせたり、石を投げたりしていた。そして気づいたら、僕は失禁していた。

 そうして連れてこられた広場には、斬首台が置かれていた。

 僕は無理矢理に押し付けられ、首板をはめられた。いやだ! 死にたくない! 僕の声は観衆の声にかき消された。

 そして刃が振り下ろされたその時、天から光が降りてきて、僕を包み込んだ。




 気づいたら僕は神様の所にいた。僕は思いっ切り泣いた後、ひざを抱えて意気消沈としていた。

 すると神様がケタケタ笑いながら


「ねえ。君があの小説の世界の創造主だから、君をこんな目にあわせた彼らを消すこともできるよ!! どうする? どうする!?」


 すると僕は


「僕はそんなことはしないよ。あの小説はやっぱり僕の居場所で、僕の好きなものなんだ。そして本当に、僕は小説のみんなを傷つけるつもりは無かったんだ。確かに僕はあんなことされて死ぬほど辛かったし憎んでもいるけど、これは僕の最後の良心だよ。これは僕の心の中にあるあの小説への大好きを、思いを、穢れにさせたくないためだよ」


 すると神様がつまならそうに


「君は強い人だねえ、へえ。どうかその心を忘れないでこれからも沢山の人に出会ってそうやってもっともっと素敵な人になっていつかきっと君の居場所は絶対に。あるからさあ!!」


 こうして僕は小説を抜け出して現実へと戻った。




 しかし。やっぱり現実の世界に僕の居場所は無かった。でも僕は神様の言葉を信じよう。

 僕は目を瞑った。すると、小説のみんなが見えた。好きだった魔法学校の女の子もいた。


 僕の居場所はきっとあるって、そう自分に笑いかけた。




 終


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ