第八話
もともとだいぶ地上に近づいてきていた響と空也だったが、ちゃんと地上に出るまで雪のスライム討伐の衝撃から抜け出せずしゃべることはなかった。
「今日はここで解散にしよか、考えたいこともあるやろし」
空也が地上に出たと同時にそう言って、二人はそれぞれ帰路に付いた。
別れた後も響は心ここにあらずの状態で、時々危なっかしい状況になるも雪が響に気づかせるように動き、なんとか家につくことができた。
家についてすぐに雪と一緒に湯あみを行い、軽く食事を済ませてから自室に入ろうと扉を開けた時に一緒に雪も部屋に入ってきた。
湯あみを終えるまでは一緒にいたが、その後はどこか別の場所に行っていた。
部屋に入るなりすぐに布団の上に横になった響の胸の上で雪が丸くなって休み始めた。
「あれは夢じゃないよな…」
小さな声でつぶやく響に返事をする者はいない。
響はこれまで勉強であっても運動であっても自慢できるほどではなくても、そこまで苦労することはなくそつなくこなしてきた。
そのためここまで驚いた経験がなく、容量を超えたことで一種の現実逃避の状態になっていた。
考えても埒が明かず、考えるのをあきらめて雪をなでるとさらさらとした感触を感じ、心が少しずつ落ち着いていく。
撫で続けるのもひと段落した時に、響は今日のことを一旦置いておいて、今後のことを考えることにした。
「今日のことが夢じゃないなら、今後ダンジョンに行くときに雪をどうしようか」
今日のことから雪はダンジョンのことになると余計に勘が良くなると考えられる。
飼い主としては当然、危険のあるダンジョンに毎回連れて行くなど考えたくもないが、内緒にしていこうとしてもどこからか察知して着いてきそうである。
「時折ダンジョンに連れて行かないと、勝手に行きそうだしなあ」
雪をダンジョンに連れて行くきっかけになった出来事を響は思い出す。
「空也といっしょに行ける時にはつれていくか、空也も乗り気だったし」
なんだかんだ気を使ってくれる空也であれば、ある程度安心して連れて行くことができる。当人としても連れて行くことに賛成の様子なのも救いといえる。
「また行けるならダンジョンに行くか?」
丸くなっている雪に向かって小さな声で聞いてみる。
「にゃ」
雪の返事は小さな声であったがはらむ好奇心の隠せていなかった。
「はぁぁ……」とため息を隠さずにこぼし、優しさと厳しさを織り交ぜるようにしっかりとした声で響は雪に言った。
「わかった、ちゃんとダンジョンに行く機会を作るから、一人では絶対に行かないでくれよ」
返事はなかったが雪がばつの悪そうな様子でもぞもぞと動いた。
この様子を見た響は少し安心して目を閉じ、意識を手放した。