第六話
雪を抱えた響がダンジョンに到着するとすでに空也は近くについて武器の確認を行っていた。
「早いな、もうついていたのか」
「ちょい楽しみだったんよ、ダンジョンに猫連れていくなんて初めてやん」
前と比べて装備の量が控えめで動きやすい格好をした空也が見るからに落ち着きがない様子で返事を返した。
今日の空也の武器は細剣と槌矛という構成であり、普段は必ず遠距離武器を持ってくる空也にしては珍しく二本とも近接武器で構成されていた。
「珍しいな今日の武器構成、なんかあったのか」
「いやぁ、猫ちゃん連れてくるなら響は弓以外ありえないやろ?どうせ猫ちゃんにつきっきりになるから」
相変わらず察しがいいな…
今回響が持ってきた武器は空也の読み通りの弓だけであり思考が読まれたようで何とも言い難い気持ちになるも、気を使って前線を貼ってくれる友人に若干の感謝の心が残るため、小突きつつ感謝をこぼす響。
「基本的に戦闘は任せたから、あんま援護は期待しないでくれ」
「へいへい」
最終確認を終えてダンジョンに二人はダンジョンに入り始める。
雪の初めて出会ったモンスターはいつものごとくスライムだった。しかし初めて出会うモンスターには期待と不安が入り混じるのは人間も猫も同じなようで、雪の体は若干震えつつも目は輝いていた。
「にゃ、にゃ!」
まだ暴れるような様子はないがこの調子であれば途中でモンスターに向けて飛び出していきそうで心配になりつつも、しっかりと雪を抱えて空也の先頭を眺める。
「やけに興奮しとるなぁ、活発な子なんか?」
戦闘を終えた空也がメイスで肩をたたきながら聞いてきた。
「そんなことないぞ、雪がこんなになってるのは俺も初めて見た」
雪は買い始めた時からゆったりした動きで走り回ることすら見たことがなく、時折いなくなったとしてもほとんど汚れていなかったため、外でも動き回っている様子は想像もつかなかった。
「そんならダンジョンにそれほど興味があったんやろねぇ、猫ってのもようわからんなぁ」
空也ののんきなセリフを聞き流しつつ響は自分の経験値を確認すると、しっかりと経験値が入っていた。
「俺に経験値が入っているってことは雪にも入っている可能性が高い、レベルがあるとして上がるまではどのくらいなんだろうか」
「おぉい、先行くからなぁ」
空也の声で現実に帰ってきた響は返事だけ返して雪と後を追いかける。
順調に進む二人であったが猫を抱える響は基本的に戦闘に参加せず見ていただけであり、時折弓を使って援護する程度であった。
そんな中雪は新しいモンスターと遭遇するたびに興奮した様子で鳴き、見慣れたスライムに関しては突撃しようとする勢いで響の腕の中で暴れていた。
「この中で探索に一番向いてるのは雪ちゃんだったのかもなぁ」
隠すことなくへらへらした様子で軽口をたたく空也の言葉に対して響は気が少し重そうな声で言い返す。
「怯えないのは大事だけど、戦いたがるほど死に急ぐようなものだろう」
「心配性にもほどがあるんじゃないかぁ?」
自分の猫のことが心配になるのは当然であるとわかっているため、これ以上言ってくることはなかったが、雪の意向でダンジョンに連れてきたため一貫して観戦に徹するのも少しかわいそうに感じる響きでもあった。