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【コミカライズ】アマレッタの第二の人生  作者: ごろごろみかん。
1.春を司る稀人と、冬の王家
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国を出たい

「え…………」


思いがけない言葉を言われて、間の抜けた声が出た。驚く私に、サイモン様は話を続けた。



「今回の襲撃で、今、王都はめちゃくちゃだ。どこも混乱していて、正確な把握ができていない。だから、今がチャンスなんだよ」



「待っ……待ってください。どういうことですか?いえ……そもそも、さっきのはどういう仕掛けなんですか?突然火が消えて……。王城の様子も知りたいです。サイモン様。あなたが何か知っているなら、全て教えてください」



「もちろん。でも、先に聞かせて、アマレッタ。きみは、この国を出たい?家を捨て、国を捨て、自由になりたいというのなら、僕はそれに協力する」



「何を──」



サイモン様とは、夜会やティーパーティーで顔を合わせたら、挨拶をする程度の仲だった。私と彼は三大公爵家の一員だ。幼い頃からの付き合いでもある。

いわゆる、幼馴染、というものだ。

関係は、だいぶ希薄だが。



私は、彼の突然の言葉に面食らったが、すぐにサイモン様は本気だと知った。彼は、真っ直ぐに私を見ている。

本気で、聞いている。



「逃げるなら今しかない。状況の把握が出来ていない、混乱している今なら」



「そ、れは」



私は、自ら髪を切り、貴族であることをやめた。

サイモン様も、私の短い髪を見ている。貴族の娘として有り得ない髪の長さだ。

だからこそ、彼は言っているのだろう。



「……だけど、私には責務があります。私は、春を司る稀人。セミュエルを捨てることは」



「そのセミュエルの王家は、きみを良いようにしている。きみという婚約者がいながら平民の女を愛人にし、都合よくきみを使っている。僕はずっと……ずっと、この状況に思い悩んできた。それは、きみも同じでしょう?」



「…………」



「今、決めて、アマレッタ。この機を逃したら、僕はもうこんなこと、二度と言えない。この混乱にかこつけて、きみを国外に逃がす。僕には、これくらいしかできないけど──僕は、幸せになって欲しいんだ。苦しむきみを、見たくないんだよ。アマレッタ」



「サイモン様……」



彼の眼差しは、真っ直ぐだった。

真摯な瞳に射抜かれて、私は当惑した。


気持ちはもう決まっていた。


セドリック様の本音を知ってから。

私の行く末を知ってから。


ここで、飼い殺しにされるのではなく。

私は、私のために生きたいと。そう思っていた。


でも、最後の理性が。

アマレッタとしての矜恃が。



その選択を押しとどめる。



だって、私はこの歳まで貴族として育てられた。

衣食住に困ることも無く、貴族としての特権を受容して生きてきた。

それを無下にし、自分の楽のためだけに全てを捨てる。恩を仇で返す行いだ。



私が、貴族として生きてきたこの十七年間。

愛はなかったけど、母は、父は、金はかけてくれた。

それは、事実なのだ。



それに私が国を出れば、セミュエルに春は訪れなくなる。

苦しむのは── 無睾の民だ。



沈黙する私に、サイモン様が私を呼んだ。

顔を上げると、やはり彼は私を真っ直ぐに見つめている。



「僕は、幼馴染としてきみの幸せを願っている。貴族がどうの、とかじゃなくて。……個の幸せを……なんでもいい。ちっぽけなものでいいんだ。少なくとも、今のきみよりはずっと。今のきみは……いや、少し前から。きみは、ずっと苦しそうだった。悲しそうだった。きみのこころが、感情(おもい)が、殺されていくのを僕は目の当たりにした」



「サイモン様……」



「何も出来ず、すまなかった。必要以上にきみに接すれば、要らない噂を招く。……言い訳だ。僕は、自分の保身のために、動かなかった」



彼は、なにやら思い詰めたようだった。

彼が、そんなふうに思っているなんて、知らなかった。

白銀のまつ毛が伏せられ、青の瞳が覆い隠される。



「……だから、これは僕の贖罪だ。自己満足なんだよ」



彼は、そう言って、私をまた見つめた。

力強い眼差しだ。



(……そっか。そう……そうなのね)



私は、家族の愛など知らなかった。

家族の愛に触れたこともなかった。

だから、愛がどういうものか、分からなかった。


だけどこれも。

ひとつの、愛の形なのだろう。


それをひとは友愛、と言うのだろう。



(……私は、アマレッタは、ひとりぼっちじゃなかった)



それを、知れただけでも。


そう思った時、私たちの会話を聞いていた私兵が、おずおずと声を上げた。



「お嬢様……アマレッタ様。国を出てください」



「あなた……」



驚いて振り返る。

彼は、交戦時に傷を負ったのか、あちこちに擦り傷を作っていた。彼もまた、サイモン様のように真っ直ぐに私を見ている。



「ずっと、ずっと。お嬢様を見てきました。私たちは、お嬢様の味方です。お嬢様の幸せを、追い求めください」



「私も同じ意見です」



「恐れながら、私も」



私兵たちは、みな同じ意見のようだった。

それに、唖然となる。

サイモン様は、そんな彼らを見て困ったように笑った。




「ああ、ほら……。きみは、愛されてるんだよ、アマレッタ。鳥籠の中で過ごしたきみには実感が湧かないんだろう。時間をかけて、きみの尊厳は、ひととしての意思は、とことん貶められた。……もう、自由になる時だ」



「……私を、外に逃がす手助けをしたと知れたら、サイモン様も危ないのではありませんか?」



私が国の外に出たら、この国に春は訪れなくなる。春が来なければ、ずっと、ずっと冬のまま。


私が国を出ることは、セミュエルそのものを見捨てることを意味しているのだ。


私が尋ねると、彼は首を傾げて笑って見せた。



「うーん。バレたらまずいね。処刑かな。でも、大丈夫だよ。国のことも、心配はいらない。しばらくの間なら、きみ抜きでもなんとかやってみせる。……もともと、きみの境遇を見て見ぬふりしていたんだ。気にすることはない」


「でも」



「アマレッタ。細かいことは良いんだ。今は、きみの気持ちを教えて。きみは、どうしたい?国を出たい?ここを出て、自由になりたい?……答えは、イエスか、ノー。その二択だ」



「──」



ふたつの選択肢を突きつけられた私は、息を呑んだ。

思うことは、たくさんある。

私が、稀人が国を出るなんてとんでもないと思う気持ちもある。許されない、とも思う。



だけど、だけど──。

それら全てを抜きにした時。

自分の気持ちに素直になるのなら。

私の答えなど既に決まっていた。



「……国を、出たい」



ぽつり、言葉を零す。


たった一言だったけど、それで、私の人生は決まったように感じた。


声に出したら、言葉の重みを感じた。

それと同時に──覚悟も、した。


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