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【コミカライズ】アマレッタの第二の人生  作者: ごろごろみかん。
1.春を司る稀人と、冬の王家
6/48

「きみならひとりでも大丈夫だろう?」

(襲撃……!?火の手……!?)



唖然としていると、風の流れに乗って入ってきたのだろう。煙と煤の匂いがした。



(火元が近い……!)



部屋の外からは、怒声や悲鳴が相次いで聞こえてくる。私はそれを見ながら呆然と呟いた。



「どう、して……」



私のちいさな声は、騒動の音によってかき消された。


三大公爵邸、王城への襲撃。

放火による大火事。


私はそれを、【物語】で知っている。

物語の中で、この事件は重要な意味を持つ。この事件をきっかけとして、物語のヒーローであるセドリック様と、エミリアは距離を縮めることとなるからだ。


だけど、おかしい。


おかしすぎる。



(どうして…………どうして!?なんで……!)



動揺のあまり、私は取り乱した。

手から、掴んだ毛束がするりと零れる。

それはパサ、とサロンのカーペットに落ちた。


──この襲撃事件は、後にこう、名付けられることになる。


【王太子妃暗殺未遂事件】と。


三大公爵邸と王城を狙った襲撃。

狙いは、王太子妃であるエミリア(・・・・)



──そう。


この事件は、エミリアが(・・・・・)王太子妃に(・・・・・)なってから(・・・・・)起きるものなのだ。



そして──結果、私は死ぬことになる。



エミリアを狙った、王太子妃暗殺事件。

その主犯は。

首謀者は、バートリー公爵家の長女。



アマレッタ・ル・バートリーだ。



私は、エミリアを殺そうとし、大規模な襲撃事件を企てたとして、処刑されることになる。


それが、【冬の王と、春の愛】の終盤。物語がもっとも盛り上がる場面(シーン)


嫉妬に狂ったアマレッタが、エミリアを殺そうとし、すんでのところで彼女はセドリック様に助けられる。

結果、アマレッタは物語の悪役として退場することになるのだ。



(でも……どうして!?なんで……!?)



私は今回、エミリアの(・・・・・)暗殺(・・)なんて、企ててない!


それなのに、なぜ!!


(……私?)


私が、前世の記憶を取り戻したから。

本来ある通りに物語を(・・・)進めなかったから(・・・・・・・・)

だから、時系列が崩れたの?


これは、物語の世界による強制力?

それとも──。



絶句する私の前で、セドリック様が従僕に向かって鋭く尋ねた。



「王城の様子は!?父上は、エミリアは無事か!?」



「──」



彼の言葉に、私は息を呑む。


(エミリアは……もう、城に住んでるの?)


確か、物語ではもっと後だったはず。

やはり、私の知る内容からはもう、逸脱してきているのだろうか。


(ううん、それより)


まだエミリアが正式に王太子の婚約者と内定したわけでは、ないのに。


(セドリック様はもう、彼女を城に住まわせてるの……)


それも、私になにか言うことなく。

私の知らない間にエミリアは城に住んでいた。


つまり、それって。

実際のところは私の返事なんてどうでもよかったのだ。

だって、セドリック様の中で、エミリアが正妃になることは決まっているのだから。


こんな裏切りって、あるのだろうか。


何もかも、私の一人相撲でしかなかった。

私だけ、セドリック様を、彼をずっと見ていた。


エミリアに向ける(それ)とは違う、確かな絆が私たちにはあると思っていた。

でも、それも私の勘違いだったのだ。



(ここまでされたら……流石にもう、思い残すことも無いなぁ)



心残りも、未練も、微塵もない。

過去の私を愚かに思い、その盲目さに嘆息することはあっても、それに縋ることは二度とない。

最後通牒を渡された気分だ。



(……とりあえず、避難しないと)



今日は風が強い。火もあっという間に燃え広がるはずだ。セドリック様に声をかけて、サロンを出ようとした時。

部屋の外から剣戟の音が聞こえた。


誰かが、交戦している。



「な──もう、そんな近くまで来ているの……!」



剣の音は、そう遠くない。

サロンからそう離れていない場所で、誰かが交戦している。

つまりそれは、邸宅内まで、襲撃者の侵入を許してしまったということで。

公爵邸の守りは万全だったはずだ。

そう簡単に崩せるものでは無い。

それなのに、それをいとも容易く落としたひとがいる。


一体、それは誰……?


咄嗟に扉の外に視線を向けると、剣を手にした男たち──公爵家の私兵だ。

彼らが、サロンに駆け込んできた。



「早くお逃げください!正門はだめです。裏門から……」



彼がそう言った、直後。

どこかで爆発が起きたようで、轟音が響いた。



──ッドオオオオン……!!



まるで、地響きのような衝撃。



「一体、何が……」



衝撃で足元が揺れ、たたらを踏む。



(とにかく、早く逃げないと……!)



王家の直系は、セドリック様しかいない。

王家には、セドリック様以外の子がいないのだ。

襲撃者の目的は分からないが、セドリック様の命を危険に晒すことは、セミュエル国の人間としてできない。

私は、セドリック様に向かって叫んだ。



「セドリック様、逃げましょう!裏口はこちらです、ご案内しま──」



私が、そこまで言った時。

彼は、部屋の扉まで駆けた。



「え──」



驚き、呆然とする私の前で。

扉の前で足を止めると、彼は言った。



「エミリアが心配だ……!アマレッタ、きみならひとりでも大丈夫だろう!?きみは稀人だ。だけどエミリアは、何の力も持たない平民なんだ!」


2024-11-25 修正しました

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― 新着の感想 ―
|アマレッタ・ル・バートリー《わたし》だ。 ルビをふられたかったのだと思いますが、反映されていません。 結果、表記がおかしくなっています。
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