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【コミカライズ】アマレッタの第二の人生  作者: ごろごろみかん。
2.罪を抱えた国

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僕はあなたが嫌いだ

「……はい。既に、公爵との面会は終わり、夫人もまた、私が王太子妃、ゆくゆくは王妃になるのであれば、バートリー姓を名乗っても構わない、とお言葉を貰っています」



「…………」



相変わらず、あの家はクソなようだった。


汚辱に塗れた肥溜め。

あるいは、メッキで固めた鉄クズ。


サイモンから見たバートリー公爵家とは、昔も今も、そのようなものだった。


糞で、クズで、どうしようもない。


公爵も夫人も、世間体と自分自身が何よりも大事の、人間のクズだ。

自己保身に忙しい彼らは、自分以外の全てがどうでもいい。ある意味、似たもの同士な夫婦なのだった。



「それで──アマレッタ様が行方不明になってから、セドリック様に乞われたのです。『お前が、次の春を司る稀人となれ』と……。そう仰られましても、私にそんな力は無いし……そもそも、当代の稀人が生きている限り、次代は生まれない。それは、彼もご存知のはずなのに」



「つまり、あなたは私に愚痴を言いに来たと?」



「教えを乞いにきたのです。もしあなたが、お兄様がご存命している時に能力を受け継がれたのであれば、それを教えて貰えないかと──」



彼女は、藁にも縋る思いで彼に尋ねているのだろう。セドリックに無理を言われ、悩んでいるのだろうとサイモンは彼女の状況を理解したが。



そんなもの、どうでもよかった。



彼には、何ら関係の無いことだ。

彼女が、セドリックに無理を言われ悩もうと、苦しもうと──彼には、関係がない。



そもそも、さんざん自身の存在が他者を傷つける要因となっておきながら、しかもそれを知っておきながら。

彼女は今まで見て見ぬふり、あるいはそれを容認してきた。

それなのに、いざ自身がその立場になった途端、誰かに助けを求めようとするなど。



──ばからしい。



舐めているとしか思えない。


サイモンは、薄く笑った。

感情は、恐ろしいほどに冷えきっている。



「生憎ですが、私が稀人としての神秘を継承したのは、兄が死んでからです。兄亡き後、私は神秘を継承したのですよ。兄の、思いとともにね」



「そう……ですか」



「それと──エミリアさん。たとえ、あなたが王太子妃、いずれは王妃になろうとも。貴族として、ディルッチ公爵家の人間として、あなたに頭を下げることはあれど──私が、あなたにこころからの敬意を抱くことは決してない」



「な……!」



エミリアは、愕然とした様子で顔を上げた。


目を見開き、信じられないといった様子で、サイモンを見ている。

それから、彼女は気まずそうにまつ毛を伏せた。



「なぜ……ですか。やはり、私の身分が」



エミリアは、苦しむように自身の胸元をきつく握った。それをせせら笑うように、サイモンは薄く笑みを浮かべる。皮肉げな、冷笑だった。



「分かりませんか?あなたは、婚約者のいる男を奪った。……略奪愛の末路など、こんなものでしょう」



エミリアの立場も理由の一端ではあるが、主題ではない。


そもそもの話、彼女が貴族から嫌われるのは、彼女には、王太子の愛だけしかないからだ。規律、しきたりを重んじる貴族社会で王太子はそれを破った。

誰よりそれを守り、貴族の手本とならなければならない王族が、だ。


その反感は、王太子の愛に守られたエミリアにも向く。


いや、そんなことより──。

ただ、サイモンは許せないだけだ。


この女が、薄汚い下心さえ出さなければ。

ほんの少しでも、恥という概念を持っていたのなら。


アマレッタが、あそこまで貶められることもなかっただろうか。

自身が何も出来なかったことを棚にあげて、そんなことを──考えてしまう。



「正直に言います。僕はあなたが嫌いだ。……二度と、私的な理由で僕に声をかけないでくれ」



「──」



サイモンは、それだけ言うと、振り返ることなく、その場を去った。

残されたエミリアは、目を見開き、ぽかんと、口を開ける。



「……どうして」



呟いた声は、誰に聞かれることもなく、空に溶けて、消えた。


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