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サイモン・ド・ディルッチの独白

「サイモン様、陛下から登城命令が出ております」



三大公爵家および王城内襲撃事件から数日。


アマレッタの行方不明は各地に報された。

その報告を受けた王家はそうとう焦っているようで、慌てて捜索兵を出していると聞く。



サイモンは、執務椅子に座り、紅茶を飲んでいたが、執事からの声掛けでそちらを見た。


アマレッタが不在になったことで、今、セミュエル国は文字通り存亡の危機に襲われている。


もし、アマレッタが死ねば、その時点で次の継承者に能力は引き継がれる。バートリー公爵家の誰かが、稀人となるだけだ。

だけど、バートリー公爵家の誰も神秘を受け継いでいない。つまりそれは、アマレッタは現在生きていることを示している。


椅子の上で膝を組んでいた彼は、不意に後ろの窓を振り返った。


もうじき、定めの日だ。

セミュエル国は冬の季節にならなければならない。

冬を司る稀人は、王家のセドリック。


逆算すれば、春まではあと半年。


半年の間に、王家はアマレッタを見つけだすか、次代の【春を司る稀人】を誕生させなければならない。むろん、次代が現れる、ということはすなわちアマレッタの死を意味しているわけで。


サイモンは、ため息を吐いた。



「僕らを呼んでどうするつもりだ?あの無能め……」



──サイモンは、ずっと、反感を覚えていた。


王家に。

そして、バートリー公爵家に。


物心ついた時から、アマレッタとは面識があった。

三大公爵家の面々は、繋がりが深く、幼い頃から引き合わされるためだ。


だけど、サイモンが彼女と会った時。

既に、アマレッタには婚約者がいた。

セドリックだ。



当時、サイモンには兄がいた。

自慢の兄だった。

強く、優しく、優秀な兄だった。


兄は、考古学に興味があった。

セミュエル国の成り立ちから、セミュエル国のみに存在する稀人。自身が夏を司る稀人だったからか、彼はそれに強い興味を抱いたようだった。



気がついた時には、もう全てが手遅れだった。



兄は、ある古い文献を見つけ、整合性を確認するために他国での留学を希望した。


もちろん、彼は夏を司る稀人。

セミュエル国のために、長く国を不在にできない。

それもあって短期の留学を希望したのだが、それは却下された。


王家によって。



【セミュエル存亡に関わる稀人を、国外に出すことは許されない】



それが、諸侯会議を経て出された王家の回答だった。

社交界は、国は、彼が国を出ること自体を許さなかった。

万が一、彼がセミュエルに帰ることがなければ、国には夏が訪れなくなるためだ。


それを恐れて、議会は、王は、彼の留学を否認した。


王家との間にどういったやり取りがあったかはわからない。

だけど、いつも温厚なサイモンの父は、自身の息子が死んだ日、いつになく怒りを見せた。



『ばかな、ここまでするのか……!』



と。

それは、サイモンが偶然聞いてしまったものだった。

執務室で、書類を手に声を荒らげていた父。


翌日、父公爵の目は赤く充血していた。



王家とサイモンの兄の間に、何かしらの確執があったのだろう。


そして──兄が死に、サイモンが、次の夏を司る稀人となった時、彼は父から教えられた。


サイモンの兄が見つけた古い文献。

そこに書いてあった真偽不明の古い出来事。

そして、その真偽を明らかにするために、サイモンの兄は留学を希望していたこと。




ピィ、と遠くで鳥が鳴いた。

それで、サイモンは執事の言葉に返答していないことを思い出す。


「了解した、と返してくれ。……登城の用意を」


「かしこまりました」



執事は恭しく頭を下げ、退室した。

それを見てから、またサイモンは窓の外に視線を向ける。


自身と同じ色を持つ、銀の髪の少女。

春を司る稀人の特徴である、泡沫を思わせる桃の瞳を持つ彼女。


稀人は、それぞれ特徴的な瞳を持っている。それが、稀人の証明にもなる。



春は、桃色。

夏は、青色。

秋は、赤色。

冬は、紫色。



それぞれ、煌めきを帯びた──唯一の瞳を持つ。

サイモンも、兄が死ぬまでは暗い青、紺青色の瞳をしていたが、神秘を継承してからは瞳の色が変わった。

今の彼は、夏の夜の蛍を思わせるような──青緑色だ。



(僕はね、アマレッタ)



胸の内で、決して届くことのない告白をする。



(僕はずっと、きみが好きだったんだよ)



だけど、既に彼女には婚約者がいた。


稀人でもない自分が言い寄るなど、出来るはずもなかった。


そして、稀人になると、今度は稀人としての立場を理解するようになった。


稀人は、王国にいなくてはならない存在だ。

だけど実際は、見えない首輪をかけられているだけ。


それが、稀人だ。


それでもアマレッタは、稀人として、公爵令嬢として、務めを果たそうとしていた。


それを台無しにするようなことは、邪魔することは、彼には出来なかった。

サイモンが彼女に言い寄ればそれは醜聞となり、彼女の瑕疵に繋がる。



(……詭弁だ。あの時の僕は、何も出来なかった)



彼女を守り通すだけの力もなければ、知識もなかった。


だけど、だからこそ。

必ず──時間がかかっても、必ず。

彼女を呪縛から解放する、と。

そう決めていた。


亡き兄のためにも、王家には必ず復讐をすると、決めていた。


復讐をする。それを決めた時のことを思い出し、彼はきつく拳を握った。


(例え、刺し違えになったとしても──僕は)


また、遠くで鳥が鳴く。

それで、彼は思考を切りかえた。



「アマレッタがいない今、王家はどう出るか……」



サイモンの呟きは、誰に聞かれることなく空に解けて消えた。

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