罪悪感の始まり(3)
家の玄関の前に不揃いのきゅうりや茄子、トマトが新聞紙に包まれて置かれていたので、一旦鍵を開けてタッパーを土間の入り口に置き、野菜が入っている新聞紙を抱えて家に入った。
ご近所さんで作った野菜を配ったりするのは、田舎では当たり前の出来事。
田舎は家に誰もいない場合には鍵をかけるが、誰かいる場合はかけない場合が多かった。
もちろん、夜は施錠はするが昼間は容易に誰でも出入り出来る。
うちは父、母共にとなりの街に仕事に出掛け、まだ幼い妹は家の近くの保育園に通っている。
母が仕事帰りに妹を迎えに行くことが多かった。
私は夕方母と妹が帰る少し前に、祖母の家からおかずを抱えて帰宅する。
ポストの中を確認して、鍵を開けるのが日常だった。
私はいつものように家に入り、タッパーとポストに入っていた何通かの封筒をリビングのテーブルに置いて、もらった野菜を冷蔵庫に片付ける。
ランドセルを自分の部屋に置いて、洗面所に手を洗いに行った。
玄関が開く音と母の”ただいま“と少し疲れた声がした。
手を洗いながら“おかえり”と少しだけ大きな声で玄関の母に分かるように伝える。
母はバタバタと走る妹が転けないように気にしながら、洗面所にいる私の方へ向かっている。
手を洗いながら顔を確認した。
私がいつもと同じなのか、不安だった。
「おばあちゃんちでアジフライわけてもらったよ。」
と、母が声をかける前に蛇口を閉め、手をタオルで拭きながら伝えた。
私は洗面所に母と妹が入る横をすり抜けて、リビングに向かう。
背中から母が、
「ありがとう言った?」
と言ったので、“言ったよ。”と母を見ずに答えた。
矢継ぎ早に“宿題は?”、“明日の準備は?”、“ピアノの練習は?”と、母は確認作業をする。
「宿題と準備はした。ピアノは今から…」
と、言いながらリビングの端にあるピアノの前に座る。
夕方なので迷惑にならない程度の時間だけ練習しようと思った。
発表会の曲の練習をする。
まだまだ納得はいかないものの、ある程度繰り返す。
変わらない日常をしなくては、いつもと同じでいなくては、家族に気づかれないようにしなくてはと思った。
30分ほど練習をして、取り込んだ洗濯物を畳む母を確認しながら、祖母がわけてくれたきんぴらとアジフライを器に移した。
タッパーを洗い、水切りかごに置いた。
冷蔵庫から味噌汁の入ったお鍋を母が取り出し、火をつけて温め直してくれていた。
畳まれた洗濯物の山から私のものを抱え、自分の部屋に持っていく。
妹はお気に入りの録画されたアニメを見てはしゃいでいた。
「二人で先にご飯食べてなさい。」
と、母が私と妹に言った。
私は自分の部屋から出て、妹と一緒にご飯を食べた。
アジフライをうまく食べれない妹は結局、お味噌汁の中にご飯を入れて食べると言った。
母は“行儀が悪い“と言っていたが、なかなか食べない妹に折れていた。
私たちがご飯を食べ終わる頃に父が帰宅した。