明鏡止水(1)
エイタが死んで今日がお通夜だった。
叔父さんと叔母さんは父や母にエイタの不名誉な現実がなかったようにしたいため、私に葬儀に出るように言ったらしい。
父は一応、田舎で親戚が参列しない場合、後から何か言われてまた、事件の事が蒸し返されるのを心配した。
もちろん、自分たちの事ではなく私のためだと理解はしていた。
ただ、そうであっても構わないし、父や母には迷惑をかけると謝りの連絡を入れた。
「ヒナコがご飯一緒にどうかって言ってたんだけど、ユウにも連絡があった?」
私がキッチンに立って夕ごはんの準備をしていたら、ユウが急いで帰ってきた。
「連絡あったよ。なんか仕事復帰してより楽しそう。研修?学会?なんかそんな感じでこっちに来るからって。」
彼は手を洗ってから、キッチンにいる私の横に立つ。
手伝えることを私に聞き、冷蔵庫から野菜を出す。
「僕は大丈夫だよ。久しぶりにヒナコさんに会いたいしね。」
彼は野菜を洗いながら私の顔を覗き込む。
「私もヒナコに会うの楽しみ。」
私はひき肉や野菜を炒めながら呟いた。
「ドライカレー?美味しそう。玉ねぎスライスしてトマト切っとくね。」
私が何も言わないから、何も聞かない。
出来るだけ普通を頑張ってくれている。
スパイスの匂いが広がり、少し食欲がわく。
白いご飯の上にドライカレーと温玉。
トマトのマリネ。
こんな時だからちゃんとご飯を食べる。
ご飯を食べて、少しだけ話をして、寝る準備をする。
2人で布団にくるまって、ようやく安心する。
「ユウ、エイタが死んだんだって。」
私は少しだけ彼に身体を寄せて、胸に顔を埋めた。
「自殺したって。」
私がそう言い終わると、ゆっくり背中をさすられる。
本当にいろんな事を緩和させるように、ゆっくり、ゆっくり、優しく動く手。
「今さら、なんなんだろうね。」
本当に気持ちの持って行き場がない。
喜びはない。
怒りとも違う。
悲しみは彼の死にはない。
誰よりも願っていたのだから。
強い疲労はある。
「ゆっくり寝よう。大丈夫、そばにいるし、明日もちゃんと聞くよ。」
少しだけ彼は腕に力を込める。
彼は何も言わない。
でも、私の気持ちを理解しようとしている。
自分でも気持ちがついていっていないのに。
ただ本当に疲れていた。
今までさんざん振り回され、苦しめられた。
何度も何度も願って、やっといなくなった。
もっと嬉しくなると思っていた。
解放されると信じていた。
実際、何も変わらなかった。
虐げられた現実もいまだに苦しんでる気持ちも、本当に変わらなかった。
私の気持ちはどこに行けばいいのだろうか。




