記憶の拘束(6)
その日、お風呂から上がり、かさぶたになったふくらはぎの傷痕を見た。
「リナ、髪乾かすね。」
最近は当たり前のように準備をして待っている。
「サルとかのグルーミングみたいだね。」
私は彼に伝えた。
「グルーミングは衛生面での機能もあるけど、縄張りの表現だったり、愛情表現だよ。」
と、私の髪を丁寧に乾かす。
彼は髪を乾かし終えると、パジャマから覗くかさぶたに触れた。
私は少し身体がすくむ。
「やっぱり怖いよね。ごめん。だけど、ケガしたところを見ると、僕も少しだけツラいかな。もちろん、リナの方がもっとしんどいのはわかるから…。だから僕の心配はしないで。」
まだ、不意に触られると私の身体が強張る。
それを自分の痛みのように切ない顔で、彼は伝える。
少し出来た会話の隙間がもどかしくて、お互い言葉を探した。
「まぁ、とりあえずお風呂入ってくるね。」
彼はリビングを出た。
そして、今日も向かい合いながら眠る。
次の日にエイタの弁護士から連絡があった。
前回と同じ感じで被害者の気持ちが置き去られている。
すべての弁護士の方がそうではないと思うが、一方的に示談交渉の話が出た。
今決めれる精神状態ではないので、後日という話で終わった。
今後の事は決めないといけない。
裁判をしたとして、なぜ私にそんなことをしたのかでエイタはなんと言うだろう。
前回の被害届で恨みを持ったというのなら別に構わない。
でも、昔の話が出てきたら私はどうしたらいいのだろうか?
虐待されていたことが話に出たら、私は気持ちが耐えれるのだろうか?
父や母にもそれが知られてしまったら、どうなるのだろうか。
不安しか出てこなかった。
まわりにも知られてしまう可能がある。
何が正解なのか分からなくなる。
数日前はちゃんと前を向けていたのに、また気持ちが揺らぐ。
「お姉ちゃん、お父さんが心配してる。近所でお姉ちゃんがどんなことをされたのか詮索する人がいて、面白おかしく言ってたって。田舎だから暇なんだよって言ったけど、もし、大袈裟な事になったらお姉ちゃんが傷つくって、お母さんも泣いてた。」
数日後、妹から連絡が来た。
「なんか私も心配で、お姉ちゃん、大丈夫?」
妹が珍しく泣きそうな声で話している。
「カナ、やっぱり示談にするよ。早く終わらせたい。お父さんとお母さんにも伝えといて。」
私は電話切った。
田舎では狭いコミニティが全てだ。
少しでも異質ならいろいろ詮索される。
密な分、本当に厄介だ。
心配しているからとかなんでも相談して等、口当たりの良い言葉で尾ひれがつく。
もちろん、本当に心配してくれる人もいる。
普段なにもない分、いろいろ気になるのだろう。
無意識か意識的か分からないが、確実に誰かを蝕む。
人を傷つけることに鈍感な人間はいる。
体を傷つけるのも、心を傷つけるのも同じことなのに。
血が流れたり、骨が折れたりしないと分からないものなんだろうか?
これ以上は父や母、妹も心が持たない。
私も心が折れそうだった。




