記憶の拘束(4)
髪の毛をタオルで拭きながらリビングに戻る。
「ユウ、お風呂空いたよ。お先に。」
うつ向きながらドライヤーをそのままかける。
「リナ、ドライヤー貸して。」
彼は私の髪を優しく扱う。
まるで優しく頭を撫でるように、髪を乾かす。
「しんどかったら、頼って。」
優しい彼の声がドライヤーの音に混じる。
ただ、早くユウに会いたかっただけなのに。
彼の前では泣きたくないのに…。
「ちゃんと泣いて。1人で泣かないで。」
彼の言葉が合図のように、涙が溢れた。
私は子供のようにしゃくりあげながら、泣き続けた。
彼は人の気持ちに敏感だ。
子供の頃にいろんなまわりの人を見ていたのだろう。
特に人が傷ついているのはわかる。
大事な人なら自分の事のように感じて、自分の不甲斐なさや何か出来ないのかと責めてしまう。
そんな彼を見て、また苦しくなる。
早く終わりを見つけなくては。
私が昔の記憶にとらわれて、これ以上彼を傷つけないように。
「大丈夫。ちゃんといるからね。」
彼は私の手を握りながら、泣き止むまでそばにいた。
私はベッドに潜り込んだ。
少しすると、彼が静かにベッドに入る。
キシッとベッドの音の後に優しい体温が今日は背中にある。
私は彼の顔を確認したくて、身体を動かし向き合った。
「ユウ、いつもありがとう。おやすみ。」
私は目を閉じた。
すぐには寝れず、彼の呼吸を感じる。
少しずつ穏やかになり、彼が眠ったことを確認する。
これからどうなるかはわからない。
すぐに解決するのか、それとも先になるのか。
エイタがどこにいるのかも不安だったし、また同じことが繰り返されるかもしれない。
ただ、会社もある。
外に出ないわけにはいかない。
幸い体の傷は隠せる場所が多く、頬も腫れが軽いため明日にはメイクで隠せる。
何とか明日からの日常を取り繕わなくてはならない。
大事な人が傷つかないように。
あまり眠れず、朝になった。
比較的食欲があってびっくりした。
朝ごはんをしっかり食べよう、そう思った。
「…いい匂いがするね。」
彼は眠そうな顔で洗面所に向かいながら、朝ごはんの確認をする。
「なかなか買い物に行けなくて、玉子と牛乳があったからフレンチトーストにしたよ。」
朝から甘い匂いがする。
なんとなく大丈夫な気がする。
スープを入れていたら、
「コーヒー入れるね。」
と、彼は冷凍庫からコーヒー豆を取り出し、お湯を注ぐ。
コーヒーの良い香りがまた安心する。
いつもと同じ朝が来た。
彼はまた手を合わせてから食事をする。
たわいのない話といつもの朝の情報番組。
「今日、仕事終わったら連絡して。一緒に帰ろう。」
食べ終えた食器を彼はキッチンに運びながら、私に言った。
「リナ、食器洗っとくから準備して。」
私は自分の食器をキッチンに運んで、洗面所に移動する。
歯磨きをして、髪を整える。
私が終わると入れ違いにユウが洗面所に入る。
リビングに行き、メイクをしていく。
コントロールカラーで腫れているところの赤みを隠していく。
1度深呼吸をしてメイクを再開する。
服を着替える頃にはテレビからは占いが始まり、2人で急いで玄関に向かう。




