静寂な苛立ち(6)
適当に髪を乾かし、ボーッとテレビの画面を見ていた。
「…リナ、ドライヤー貸して。」
ユウが私の肩を軽く叩いて、現実に少し戻る。
ドライヤーの風が私の髪にあたる。
「ちゃんと乾かさないとダメだよ。」
そう言って、私の髪を優しく乾かし始めた。
不意に耳や首に当たるユウの指がくすぐったく感じて、安心させられた。
「…ありがとうね。」
ドライヤーの風で聞こえるかどうかの声でさえ、ユウは優しく拾い、”どういたしまして“と心地よく伝えてくれた。
私の髪を乾かしたあとユウは自分の髪を素早く乾かし、
「そろそろ寝よう、明日も仕事だから。」
と、ベッドに移動する。
私はノロノロと重い身体をベッドに沈めた。
まだ、薄い夏用の掛け布団に向き合ってくるまる。
部屋にはぼんやりオレンジ色の照明が残る。
私の身体を包むように、ユウはいつものように背中をゆっくり同じリズムでさする。
子供を寝かしつけるように、ゆっくり。
「…ちゃんといるから、寝ていいよ。」
なかなか寝付けないのを察して、ユウは優しく話しかけた。
「…ありがとう。」
私はそう言って、少しだけ身体を近づけてユウの心臓の音を聞く。背中のリズムと心臓のリズムがシンクロしている。
何時からかこうやって添い寝をしてくれて、ユウは私に寄り添ってくれた。
私はかなりずるい人間だと思う。
ユウの気持ちと優しさを搾取して、ギリギリの気持ちを立て直す。
ユウに気がつかれないように目だけを閉じて、ただ心臓のリズムと少しずつ動きがずれてきている背中のリズム、心地よい体温を愛おしく思う。
しばらくして力なくユウの手が背中からこぼれ落ち、頭上から静かに寝息が聞こえた。
ユウに感謝しながら、いつも罪悪感を持っている。
この関係に依存しながら、何年過ぎたのだろう。
仕事や距離的に無理ではない限り、必ずこうして側にいようとしてくれている。
彼にとっては、どんなにかめんどくさい関係なんだろう。
早く解放してあげないとダメだと思いながら、今はずるさを肯定しながら普通を保つ。
与えてもらえる努力などしていないのに、優しさを求めてしまっている。
溝内よりも少し上が締め付けられた。
おそらく罪悪感と少しの愛情。
私は少しの愛情を確かめるため、更に近づき彼の背中に腕を回す。
「いつもごめんね。」
小さく伝える。
静かな彼の寝息が聞こえるのが、少しずつ遠退く。
私の意識も少しずつ薄らいでいる。