表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/81

静寂な苛立ち(6)

適当に髪を乾かし、ボーッとテレビの画面を見ていた。


「…リナ、ドライヤー貸して。」

ユウが私の肩を軽く叩いて、現実に少し戻る。

ドライヤーの風が私の髪にあたる。


「ちゃんと乾かさないとダメだよ。」

そう言って、私の髪を優しく乾かし始めた。

不意に耳や首に当たるユウの指がくすぐったく感じて、安心させられた。


「…ありがとうね。」

ドライヤーの風で聞こえるかどうかの声でさえ、ユウは優しく拾い、”どういたしまして“と心地よく伝えてくれた。


私の髪を乾かしたあとユウは自分の髪を素早く乾かし、


「そろそろ寝よう、明日も仕事だから。」

と、ベッドに移動する。

私はノロノロと重い身体をベッドに沈めた。


まだ、薄い夏用の掛け布団に向き合ってくるまる。

部屋にはぼんやりオレンジ色の照明が残る。

私の身体を包むように、ユウはいつものように背中をゆっくり同じリズムでさする。

子供を寝かしつけるように、ゆっくり。


「…ちゃんといるから、寝ていいよ。」

なかなか寝付けないのを察して、ユウは優しく話しかけた。


「…ありがとう。」

私はそう言って、少しだけ身体を近づけてユウの心臓の音を聞く。背中のリズムと心臓のリズムがシンクロしている。


何時からかこうやって添い寝をしてくれて、ユウは私に寄り添ってくれた。


私はかなりずるい人間だと思う。

ユウの気持ちと優しさを搾取して、ギリギリの気持ちを立て直す。


ユウに気がつかれないように目だけを閉じて、ただ心臓のリズムと少しずつ動きがずれてきている背中のリズム、心地よい体温を愛おしく思う。


しばらくして力なくユウの手が背中からこぼれ落ち、頭上から静かに寝息が聞こえた。


ユウに感謝しながら、いつも罪悪感を持っている。

この関係に依存しながら、何年過ぎたのだろう。

仕事や距離的に無理ではない限り、必ずこうして側にいようとしてくれている。

彼にとっては、どんなにかめんどくさい関係なんだろう。


早く解放してあげないとダメだと思いながら、今はずるさを肯定しながら普通を保つ。

与えてもらえる努力などしていないのに、優しさを求めてしまっている。


溝内よりも少し上が締め付けられた。

おそらく罪悪感と少しの愛情。


私は少しの愛情を確かめるため、更に近づき彼の背中に腕を回す。


「いつもごめんね。」

小さく伝える。

静かな彼の寝息が聞こえるのが、少しずつ遠退く。

私の意識も少しずつ薄らいでいる。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ