静寂な苛立ち(5)
ユウは私に着替えるように促し、キッチンに向かい冷蔵庫に食材をわけながら入れていく。
ユルい部屋着に着替え髪を束ねて手を洗ってリビングに戻ると、ユウは少し弾んだように
「これ、楽しみだね。」
と、ビール缶を両手に持って話しかけた。
私は頷きながらユウの隣に立ち、手早くニンジンやほうれん草などを切り、もやしと一緒にボールに入れ、ラップをしてレンジにかけた。
餃子は冷凍のものだから、フライパンに並べ焼いていく。レンジの終了音がなったので餃子はユウに任せて、ボールをレンジから取り出し味付けをしていく。
胡麻油の良い香りがした。
ナムルを器に移し、次は簡単に卵スープを作る。
餃子のお皿をユウに手渡し、卵スープを器に2つ入れてテーブルに運ぶ。
小さなお皿に酢やラー油を合わせながら、ユウはウンウンと満足そうに運んできた。
「…冷えてないから、限定のヤツじゃなくていい?」
冷蔵庫から冷えてるビールを2つ取り出し、テーブルのところで床に座って待っているユウに手渡す。
あとの楽しみだねと笑顔で座りようにユウは私を促し、ビールを開けた。
「お疲れ、リナ。」
と、優しく缶を合わせて、ユウはひとくちビールを飲んだ。
軽く手を合わせて小さく”いただきます“と呟き、餃子を美味しそうに頬張る。“…うまっ”と私に向かって、大きく笑った。
少しだけユウの存在に救われる。
私の事情を少しだけ以前に伝えている。
その時ユウは、
「全部無理してしゃべらなくていいよ…」
と、うまく呼吸が出来ない私を優しく包むようにして、
背中を指すってくれた。
長い時間ゆっくり私が落ち着くまで、付き合ってくれた。
大学の時のバイトからの知り合いで、彼は私より2つ年下。お互い仕事もわりと近くで、時々、こうして食事をしたり、映画を観たり、たわいのない話をしたりしている。
「やっぱり、次はこれでしょ。リナも飲む?」
と、キッチンからユウが声をかける。
再び私の隣に座り込み、ビールを開けた。
ひとしきり食べ終わると、ユウは何にも言わず空いた食器をキッチンに運ぶ。
私も立ち上がったら、
「大丈夫…。」
と、肩をつかみ私を座らせた。
手早く片付けをしながら、
「寝る準備しときな。」
と、手を止めず笑う。
その言葉で私は席を立ち、寝る準備を始める。
顔を洗い、シャワーを浴びてリビングに戻る頃には、ユウは3本目のビールを飲んでいた。
「お先に。」
と、髪をタオルで拭きながら隣に座る。
少し飲む?と私の顔を覗きながら、ビールの缶を近づけて笑う。
「…ユウもお風呂どうぞ。」
と、缶を押し返し伝える。
ユウは残りをひとくちで飲み干し、キッチンに向かい缶を手早く洗うと、
「入ってくるね。しっかり髪、乾かしてよ。」
と、リビングを出た。
少しだけ静かになった空間でドライヤーで髪を乾かした。ドライヤーの風の音が遠くに聞こえるような感覚になる。
長い1日だった。
不意にまた溝内辺りが重くなる。
ほんの少し前までの心地よさが消されるように、どんどん不安が押し寄せた。
他の雑音を入れたくてテレビをつけた。