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静寂な苛立ち(2)

いつの間にか少しだけ眠りに落ちた。

スマホを開くとまだ4時半過ぎで、外もまだ暗かった。

少し前はこの時間帯も少しずつ薄明かり白なくなっていたはずなのに、暗く静寂な窓の外をぼんやり見ていた。


ふとスマホには何件か連絡があったが、目を通す気にはなれなかった。


寝れないついでにご飯でも作ろうと冷蔵庫を開けた。

玉ねぎとラップに包まれた使いかけの人参、じゃがいもが少しだけ芽がはえてきているが問題はない。

それらを細かく切り揃えベーコンと炒めたら、部屋に少し匂いが広がり、お腹が空いていることに気がついた。


昨日は結局ビールを仕事から帰宅して1缶だけ口にしただけだった。


トマト缶を入れ、クツクツと煮込んだ。

鍋の泡にあわせてローリエが動くのを眺めていたら、LINEが再び入ったので、ようやく確認することにした。


大半は両親からで、最初こそは葬儀だけでも帰って来れないのかと言うものだったが、さっきのLINEでは両親が折れ、叔父と叔母には出席出来ない旨を伝えてくれたとのことだった。

妹からもどうするか連絡があったが、


“帰らない”


とだけ連絡した。


火を止め、出勤準備のため顔を洗いに洗面所にむかう。


寝不足からか、かなりくすんで顔色が悪かった。

瞼がかなり重く、ひどく浮腫んでいる。


手早く顔を洗って、ローションを肌に染み込ませる。

調子が良くないせいか、なかなか染み込まない。


「…イヤだな…」


それでも日常はあるし、わたしの日常を守るために出勤準備をする。


消化出来るわけはないけれど、動く理由を紐付ける。


先ほど作ったスープを飲みながら、外を眺めるとかなり白く微かに光がこぼれていた。

モヤのかかったほの白い、まだ動きの遅い朝の風景が私はすきだ。落ち着く。

あまり雑音がなく、人の気配もない時間が、頭の鈍さを整えてくれる気がする。


いつも通りにきちんとこなせば良いだけの事。


気がつかない、スルースキルは小さい頃から自分を守るために身に付けてきた。


服を着替え、メイクをし、髪を整え、今日の仕事のタス

クを頭で整理する。

迷う暇がない方がいい。

その方が冷静に動ける。


今はとにかくカラダを動かすことに集中しなくては、すぐに引き戻される。

嫌悪や後悔の気持ちが纏わりついて、動けなくなる前に足を動かして行かなければ、更に身動きが出来なくなる。


あの時こうしていたらなんて、よく聞く話だけれど、正直、そんな選択肢は持ち合わせていないくらい幼かった。

逃げることも戦うことも、誰かに助けを求めることも、思い及ばないほど幼かった。


ただ、過ぎるのを我慢して待つしかなかった。


大人になり見た目は普通に過ごせるように動いた。

実家から遠い高校に入り寮生活をし、更に大学進学で距離をおいた。

就職も帰るつもりはなく、両親には事後報告で決めた。


少しずつ思い返す事もないくらいの仕事量に忙殺されていると、安心した。


根底ではくすぶっていても仕事や友人に助けられた。


普通に仕事をして、週末は友人との食事やとりとめのない会話。

そのいつもの日々が私が理性を保つためには必要だった。


『エイタが死んだよ』


私を引き戻すにはあまる現実。


また、溝内辺りが重い。


テレビでは占いのコーナー。そろそろ家を出なくてはいけない。

半ば強引でも身体を動かして、カバンを持ち玄関に向かった。






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