自己肯定感と依存(6)
夏の大会が終わり、夏休みも終わった。
クラスもそろそろ進路の事が話に上がることが多くなった。
ピリピリするときもあったが学祭も秋にあるため、まだ賑やかな雰囲気も混ざっている。
他校との交流もあるので、いつもとは違う浮遊感のある感じがする。
彼氏がいる子も何人かいたが、寮生は基本学校と寮の行き来しかしないため、学祭を楽しみにしている人が多くいた。
「リナのクラス、何するの?」
と、ヒナコは部室で準備しながら聞いた。
「なんかクレープ焼くらしいよ。」
私は答えた。
去年は初めての学祭だし、同じクラスだったから楽しみにしていたけれど、1年生はクラス展示で飲食などは2年生からだった。
ヒナコは夏の大会が終わって部長になり、委員会参加や他校との練習連絡など細かい仕事も増え、私もできる限りフォローに回った。
その為かいつも落ち着いてる彼女に余裕がなく、学祭どころではないようだった。
「時間合わせてまわる?」
私はヒナコに聞いてみた。
「めずらしい!リナから誘って来るとか…絶対、時間作ろう。」
いつも受け身の私が提案したのがよっぽど嬉しかったのか、ヒナコの表情が和らいだ。
私も私が好きな人や大事にしたい人を大切にしたいと、あの日から強く思った。
少しずつ学祭のふわふわ浮いた雰囲気が強くなる頃、部活帰りにたまたま佐藤さん達を見かけた。
佐藤さんは目が合うと、
「今、帰り?」
と、手を振りながら近づいてきた。
佐藤さん達は部活を大会後に引退して、この時間まで予備校にいて今からまた自習室に行くとのことだった。
その前に飲み物を買いにコンビニに行って来たとの事だった。
「佐藤さん、どこ受けるんですか?」
と、ヒナコが聞いた。
「なかなかストレートな質問だなぁ…。」
と笑いながら、教えてくれた。
「私もリナもそこ志望校なんですよ。」
ヒナコは何気なく話す。
時間が気になったのか佐藤さんの友人が“そろそろ戻ろう”と促した。
私は少し会釈して、
「頑張って下さいね。」
と、伝えた。
私たちは急いで寮に向かった。
後ろから佐藤さん達の声が聞こえた。
「…佐藤さん、なかなか諦めてないね。」
ヒナコは神妙な顔で話してくる。
“まぁ、リナは私のものなんだけどね。“と私に絡んできた。
穏やかであればあるほど不安になる。
私はここにいて大丈夫なのか?
みんなと一緒に過ごしても大丈夫なのか?
私の過去がバレてしまったら、どう思われるのだろうか?
汚いと思われるのか?
かわいそうだと同情されるのか?
絶対にヒナコには知られたくなかった。
大事だから今の関係を壊したくなかった。
消したくても、忘れたくても、一生消えないし忘れることが出来ない。