自己肯定感と依存(3)
結局、ヒナコは陸上部に入り、私もマネージャーになった。
流されてもイヤではなかった。
グランドをキレイなフォームで走るヒナコを見ているのは好きだったし、マネージャーとして誰かに必要とされているのは安心出来た。
何よりヒナコと一緒にいるのが好きで大事に思え、本当に高校生活のほとんどに彼女がいた。
2年生で一度クラスを離れたが、3年生でまた同じになった。
ヒナコは理学療法士、私は管理栄養士の資格が取れる同じ大学を目指した。
心のどこかであの事は常にあったけれど、ヒナコのおかげで薄れて行く気がした。
未だに男の人は苦手だが、普段あまりふれ合うこともないので安心出来た。
時々、“彼氏はいないの?”と部活の子やクラスの子に尋ねられる事もあったが、困っているとヒナコが比較的間に入ってくれていた。
高校生の時に部活の大会や合同練習などで他校の男の子に話しかけられたりもしたが、あいさつ程度なら出来るようになっていた。
その日は夏の大会のために他校との合同練習。
私もマネージャーの仕事に慣れ、必要な荷物を確認して部員と移動する。
バスで移動すれば10分程度で練習するグランドに到着する。
女の子が団体で移動すれば、かなり華やかで賑やかになり、少しだけ気後れする。
やはり、どこか不安になる。
私はちゃんと笑顔を作れているのだろうか…
どうしても不自然にしか思えなくて、みんなに見られないように列の最後に下がる。
「荷物重い?持とうか?」
不意にヒナコから声をかけられる。
“大丈夫だよ”と何とか返した。
「高梨さん、持たせてよ。」
と、荷物を取り上げられた。
横を向くと合同練習でいつも声を気さくにかけてくれる顔見知りの男の子が、私の荷物を持ってくれていた。
急な行動に驚いて少し後退りをしてしまった。
「リナ、大丈夫?」
と、ヒナコが背中を支えてくれ、続けて
「佐藤さん、うちのリナにちょっかいかけないでくださいよ。」
と、相手に呆れながら軽く抗議した。
「高梨さんが可愛いから、つい…。」
と、佐藤さんは申し訳なさそうに笑った。
「リナが可愛いのは知ってます。」
と、佐藤さんが持った荷物をヒナコが奪い取る。
“行こう”と私の背中を押し、ヒナコはグランドに向かった。
佐藤さんはこの合同練習に参加している学校の1つで陸上部の副部長をしていた。1学年上でヒナコと同じ800mをしている。
ヒナコは中学から知っていて、800m男子では県内では割りと有名だと言っていた。
私は皆が軽くウォーミングアップしている間にアイシングやテーピングなどの確認、スケジュールに沿って他の学校のマネージャーと打ち合わせや飲み物の準備などでバタバタと動いていた。
いろんなところで種目別の練習が始まる。
タイムの計測や用具の準備などで時間が過ぎた。
ふといつものようにヒナコを探した。
やはりキレイな無駄のないフォームで足を止めてしまう。
その隣で男子の800mの練習が見える。
軽やかにそして美しいフォームで佐藤さんは走っていた。