自己肯定感と依存(1)
ユウはまだ寝息をたてていた。
あの時からあまり深く長く眠ることが出来ないが、ユウが時々添い寝をするようになって、少しは安心して眠れる日が増えた。
私は彼を起こさないように腕をゆっくり外し、ベッドから抜け出す。
リビングに向かい窓の外を眺める。
昨日と変わらず、まだ外は白く静かな状態だった。
手早く卵を混ぜシュレッドチーズを加える。
フライパンにバターを落とし、バターの優しい香りで少しだけ気分が上がる。
ジューッと卵をフライパンに流し込む音に反応したかのように、ユウが寝ぼけながらリビングに入ってきた。
「何か手伝う?」
と言ってくれたので、コーヒーを入れて欲しいと伝えた。
ユウは冷凍庫に入っているコーヒー豆を取り出し、手早くフィルターをセットする。
手慣れた行動に思わず笑顔になる。
「…どうした?なんか良いことあった?」
と、ユウは淹れたてのコーヒーを手渡してくれた。
続けて、
「それ、俺のもある?」
と朝ごはんの有無を確認した。
”あるよ。“と短く答えて、冷蔵庫から鍋を取り出し、昨日のミネストローネを温めた。
料理を一通りテーブルに運び、また床に座り2人でご飯を食べる。
いつものように手を合わせて、小さく“いただきます。”と言ってユウは食べ始める。
終始笑顔で美味しいと頬張りながら、時々、私を気にかける。
食べ終えると“準備しな”と、ユウは食べ終えた食器をまとめてキッチンに持って行く。
私がメイクを一通り終え服を着替えると、ユウは食器を洗い終え床に座りながらテレビを見ていた。
クローゼットの中にしまってある何枚か起きっぱなしの服のなかから、まだ暑いからと淡いブルーのシャツに着替えている。
「…それ、やっぱり似合うね。」
と、ユウの背中に向かって伝える。
“だよね“と得意そうに私に笑顔を向けた。
私に手を伸ばして引っ張ってと明るく笑う。
ユウはやはり詳しく尋ねてはこない。
付かず離れずの心の距離を保ってくれている。
きちんと私が整理出来るまで、努めて明るく優しく寄り添ってくれる。
私はその居心地の良さにいつも甘えた。
「そろそろ会社に行こ。」
と、ユウに伝えて彼の手をしっかり握って引っ張る。
「…今日も来る感じ?」
ユウは私の目を見て優しく聞いた。
「出来ればよろしく。」
と、少し俯いて返事をした。
“当分来る感じにするね”と優しく伝え私の荷物を持ち、私が靴を履くのを待って荷物を渡してくれた。
玄関を出るとすっかり外は人が行き交っていて、朝が動き始めていた。
並んでバス停に向かった。
行き交う人に挨拶はない。
それが心地よいと思った。