罪悪感の始まり(4)
家はいつもとかわりなく時間が過ぎた。
父が大好きな妹はまだテーブルに座り必死に今日の出来事を話していて、父と母はそれを聞きながら食事をしている。
時折、笑い声がしたりしていて、少しいたたまれなくなってきて、
「お風呂に入るね。」
と、リビングを出ていった。
遠くでまた笑い声がしている。
誰にも話してはいけない気がして、忘れるようにしようと思った。
気持ち悪くて、何度も何度も身体を洗った。
イヤな感覚はまだ微かにあるけれど、そもそも何故そんなことをされたのかもわからなかった。
いけないことをされている認識はあるけれど、それをどう説明すれば良いのかわからなかったし、何よりそれを他の人に知られるのはイヤだと思った。
あの時、どうすれば良かったのだろうか。
「お風呂、上がったよ。」
大きな声でリビングに叫んだ。
妹が楽しくアニメの歌を歌っているのがわかった。
ガチャガチャと食器の音がした。おそらく食事を終えて、母が片付けをしているのだと思った。
父と妹がお風呂の準備をして、こちらに向かう前に自分の部屋に戻った。
1人で部屋にこもり気持ちが追い付かず、もて余していた。
明日から祖母の家に行っても大丈夫なのか不安になった。
誰があんな事をしたのだろう。
ふと、あの時の感覚がよみがえり気持ち悪くなる。
捕まれた足に残る感覚や雨上がり特有の部屋の湿度、外からする栗の花の匂い。
上手く説明が出来ない不安や恐怖に襲われる。
途中、母が“桃食べる?”と私に向かって部屋の外から話しかけた。
「もう眠いからいらない。」
私は早く忘れようと電気を消してベッドに寝転んだ。
暗い部屋は恐ろしく思えた。
見えないことの不安から起き上がって、また電気をつけた。
このまま寝てしまおう。
早く忘れよう。
布団の中に丸まったが、なかなか眠れずにいた。
時々眠りに落ちるのだが、不安で目が覚めた。
短い睡眠を繰り返す。
時計を見ると5時前で少しずつ外も明るくなっていた。
カラスの鳴き声がした。
あまり寝ることが出来ず、身体が重い。
それでもいつも通りにしていないと、まわりにヘンに思われてしまうのが怖いと思った。
出来るだけ今まで通りに過ごそう。
祖母の家にも祖母がいる時にいれば良い。
多く集まっていたいとこ達は私が4年生になる頃には、中学生や高校生になり、祖母の家に集まらなくなっていた。
1人でさえいなければ大丈夫だと思った。