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俺は、怖さを知らない

「運転できるようになるって言ったら信じる。」


こいつの言葉は本当なのだろうか


「お前みたいな、怪しい奴の言葉なんか信じられるか」


「あまのがわそら、夏に見える天川に、星空の空で、天川空。それが私の名前よ、阿比留君。」


「何で俺の名前なんてしってるんだよ。」


「あら、あなた大学では有名人じゃない。それに私の苗字を聞いてもピンとこない?」


「それりゃ、珍しい苗字だとは思うけど、テレビで見たこともないし、」


「そっか…まあいいわ。私は天川神社の次期当主になる天川空よ。よろしく。」


天川ってあの天川神社のか。日本で一番の分社があることは知っている。俺の地元にもあるし、そこの次期当主になるものがどうして俺なんかに接触してきたんだ。


「色々と考えているみたいね。

 うちの神社って、除霊なんかもやっているのよ。幽霊騒ぎなんて大抵大噓だし、見れる人

 の数に限りがあるしね。ただ、あなたはあんなマンモス校で有名になっちゃったから仕方なく、調査をしてたの。」


「そしたら驚いた。本当に幽霊が見えるのね。ねえどれくらい見えているの?私なんかなんとなく人の見た目くらいよ。まあ声は聞こえるけどね。」


「幽霊って声が聞こえるのかよ。知らなかった。「俺は生きている人のようにみえるし、年齢、性別、服装、表情までわかるけど」


(すごい。天川家でもここまでしっかりと幽霊をみえる人はいない。)


「なあ。除霊ってことは俺に幽霊がついているのか。それなら除霊でも何なりしてくれよ」


「それは無理よ。あなたの場合、呪いだもん。」

「しかもその呪い。特殊だから無理なのよ。」

「じゃあ、車に乗るって話無理じゃないか」

「あるのよ。1つだけ」

「1つだけ」

「ええそうよ。あなたの呪いは強すぎるわ。ただ強い呪いによって悪霊がよってこないの」

「悪霊…?」

「そっか。あなたは幽霊しか見たことないのね。幽霊と悪霊この2つがこの世にいるのよ」

「幽霊は生きているものに何もしてこないけど、悪霊は違う。生きている人を殺すことにより、力をつけるの。てかそれが本能になるのよね。」


俺の頭はついていけない。ただ車を運転したいと思っているだけなのにどうして変な話を聞かなければいけないんだ。


「悪霊を見たことないのよね。わかったわ。ついてきて。悪霊を見ればあなたも信じるはずよ。」


そういうと天川は、携帯を取り出した。季節は10月にもなり、季節外れの心霊スポットで巡りにでもいくのか。

そんなことを考えていると、道路の前方から車がきた。あれは、カイエンだ。

まずい、俺は車に乗って拉致されると思い、逃げようとしたが、天川の手が俺の首根っこをつかんでいた。俺の人生ここまでか。



…と思っていたが運転席から出てきたのは白髪の男性。

「お嬢様。こんなところにいられました。」

「セバスチャン。このあたりで悪霊がいるところはある。うちで対処できない、地縛霊は?」

「もちろんいますが、S区の裏峠に、どうなさいましたか?」

「阿比留君に見せたいのよ。彼、幽霊しか見たことないって」

「幽霊しか見たことない?そんな人間がいられるんですね」

「彼、呪いのせいで悪霊が逃げていくのよ。地縛霊なら逃げずに見られると思うの」

「承知いたしました。車で30分程度になります、どうぞお乗りになってください。」

セバスチャン。神社なのになぜ、外国人が。てか日本人だしな。

「阿比留君。車に乗りなさい。」

超高級車に乗った俺は、中の広さと座り心地に驚いた。このままここで寝れそう…

「阿比留君。車を運転する方法だけど、それが峠の地縛霊よ」

「どういうことだ」

「あなたが見る幽霊に明治、江戸といった古い時代の人はいた?」

「たしかにいないな。珍しくても着物くらいかな」

「そもそも悪霊や幽霊が増えたのはここ80年の話よ。」

「そうなのか」俺は、驚いた。

「そうよ。霊が増えたの一番の原因は・・・」

天川座席を指さした。

「もしかして、車か?」

「阿比留様は物分かりがよろしいですね。」セバスチャンは後部座席に座る俺をバックミラー越しにみた。

「人は自分が死んでいないと思う時、霊になるの。昔の人は、平和な状態が長くないし、戦争もあったからいつ死んでもおかしくないという潜在意識があったのよ。」

「ただ、この80年あまり、霊の数は物凄い勢いで増えてきています。私がまだ小学生のころには霊なんて本当に少なかったですからね。」

セバスチャンは話ながら左折した。セバスチャンの運転はとても丁寧で車の動作は澱みがない。

俺にも同じことができるだろうかと考えていると目の前に人かと思ったら通過した。なんだ幽霊か。

俺には無理なことだな。

「平和になり、車が人々の生活に普及してくると、人は日常的な生活で死ぬことはないと思い、潜在意識に死という考えがなくなったの」

「潜在意識に死があると、人は成仏するの、ただ車の事故はそうじゃない。急に死んでその魂は霊となるの。」

セバスチャンの運転する車は峠に入った。

「ちょっと待ってくれ、そんなことなら、恨まれて殺された人や強盗殺人も急に死んでいるじゃないか」

「殺人による急な霊は、現世に残るわよ。ただ恨まれて殺された人は恨まれる理由を知っているから復讐に来られることは潜在意識のどこかで感じて霊になりにくいの」

「峠の地縛霊は?」

「そうよ。峠を攻めて、運転中に死んだのよ。峠の地縛霊は死んだことに気付いていないの。いや悪霊となり人を殺すことで死んだことを知って、さらに多くの人を殺すことになるわ。せめてのもの救いは、峠の地縛霊だからほかの地域には行かないことね」

「話の半分はなんとなくだがわかった。だが、それと俺の運転できるようになるってのはどう繋がるんだよ。」

「それは簡単よ。峠の悪霊を倒して、その悪霊の車のパーツを奪うの。悪霊は峠を支配している。その力をあなたの車に移すことで、霊自体をあなたの車周辺から追い出せばいいのよ。」

そんなことできるのかよ

「あなた、この峠に入ってから霊をみた?」

天川に言われて初めて気づいた。確かにこの峠に入ってから霊をみていない。

「悪霊の中で地縛霊は特に縄張り意識が強いわ。その力を奪えばあなたは運転できるようになる。」

「どうやって奪うんだよ」

「それは…」

天川が続きを喋ろうとすると、背後から物凄いエンジン音が聞こえた。そこにはみたことのない旧車が後ろから迫ってきていた。運転席には顔の半分がえぐれ、目玉と舌をだした男がいた。

「セバスチャン。逃げて!」

天川が言うと、セバスチャンは峠の下り坂をエンジンをベタ踏みして下り始めた。

俺は、初めて感じる、エンジン音とセバスチャンの息遣い、そして後ろからの不気味な笑い声におかしくなりそうだった。

「霊ならぶつからないし、問題ないじゃないか!」

「悪霊はこちらの世界に干渉できるのよ。今ぶつかれば、この車は大破よ。」

おいおいまじか。幽霊なんてやさしいもんじゃないのかよ

後ろの車との距離は200くらい。俺は、死を覚悟したが、

「セバスチャン!ギリギリまで引き付けてパーキングへ!」

150、100、50、10

ぶつかる瞬間にセバスチャンはハンドルを左にきりパーキングへ入った。左後方がぶつかり、車は茂みの一歩手前で止まった。

俺は、初めて死を感じた。

「はぁ、はぁ、いい!あれを阿比留君が倒すの。レースをして負けて弱ったところを成仏させるの。」

「あいつに勝てるかよ」

「勝ち筋はあるわ。あいつの車は旧車よ。いや峠を死んだ霊はその当時の車に乗っているわ。

時代の進化にあった車には勝てないのよ。」

「あいつを倒せば俺は、車を自由に乗れるんだな」

「ええ。そうよ。悪霊を倒してもあいつが乗っていた車自体は成仏しない。あなたがパーツを奪い、私たちは奴らと車を成仏させる。どう?」

俺は、覚悟を決めた。霊の怖さ、車の怖さを知ったが、運転をしたいという欲には勝てなかった。さっきの一瞬だけ速さと俺自身が一体化したような気持ち良さをもう一度感じたい。

「わかった。俺やるよ。悪霊を退治するよ」

「ありがとう」


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