俺は運転ができない
俺、宮守 阿比留は、晴れて高校を卒業した。クラスの友人と卒業式・2次会を盛大に楽しみ大学生に
夢を膨らませる。
地元を離れて、髪を染めて、人生初めての1人暮らし!
とはならない。なぜなら1人暮らしを始めた俺の部屋には先客がいた。黒髪の女性だ。。。。
俺には人とは違うところがある。それは幽霊がみえることだ。
5歳のころ、公園で遊んでいると急に意識を失い、目が覚めると幽霊がみえるようになっていた。
ただ、この幽霊特に困ったことはない。なぜなら喋らないは触れないはただ、そこにいるだけ。
意識があるのかもわからない。そんなこんなで俺は特段の幽霊を気にしなくなっていた。
「まあ…初めての1人暮らしよりは人がいた方がいいか、それに女性と同棲なんて夢みたいだしな」
大学1年の4月はあっという間に過ぎていった。サークルにバイトを始め、多くの人と知り合った。
大学生はなんと楽しいことか。このまま日常が続くとあの日は思っていた…
夏、俺は仲の良い4人で免許を取りに合宿に行った。この時まで気付かなかった。俺は幽霊がくっきりと見えすぎていることの恐怖に。
そう、俺は幽霊か人かわからないため路上教習が受からなかった。また、幽霊か人かとブツブツ喋ることで怪しい薬に手を出していると友達に思われた。その噂は大学、サークルにも広がり、俺は腫れ物になっていた。
俺の願いはそんなに大きなものだったのだろうか。染めた髪は黒髪にもどり、ゲーセンに入り浸るようになった。ウォンガンミッドナイトというレーシングゲームでは日本トップ5までの腕になるがそれも人生のためにもならない。
「俺ってなんのために生きているんだろ…」
家に帰る帰り道、目の前の婆さんをよけたときに俺は気づいた。
そうだ歩いていて人か幽霊かはなんとなくわかるんだ。
それゃ、よけるときもあるけど、そうだよ、歩きに近いところ練習をして判断力をみに付ければいいんだよ。
善は急げ、俺は自転車を買いに行った。ママチャリだ。20,000円の値札にビビったが、車を買うためにバイトの金を貯めていた俺はすぐに自転車を買った。
やはりそうだよ。自転車程度のスピードならなんとかわかる。
ただ自転車でこけることには変わりない。俺は家までの3キロで10回以上はこけた。
しかし、大きな進歩であることを実感した。
身体中は痛いし、全身ズタボロ。
こんな日々が続く、大学ではより腫れ物となる。
「ねえねえ聞いた。宮守のやつ、今度は自転車で幽霊か人かってブツブツ言ってるらしいよ」
「聞いた聞いた、なんか全身傷だらけだし、借金してるかもって噂をあるらしいよ」
まあ、別にいいさ、俺はどんなことがあっても車を運転するんだ。
俺はそんな噂が聞こえる教室の外へ出た。ただ気になったのは、
見たことない女子がいたことだ。
「俺ももとは陽キャだけど、あんな女子、うちの学部にいたかな?夏休み終わってからの
イメチェンか…。俺はこんな腫れ物になっちゃったけどな。」
そして今日も今日とて自転車で練習をしていると、さっきの女子が目の前に現れた。
そしてこう言った
「自転車で判断力をあげようなんてどうかしているのね。本当に人を轢き殺せば、あんた、一生後悔するのよ。」
俺は、腹が立った。車を運転したいのに運転できない人の気持ち。腫れ物のように扱われる気持ちが、こんな綺麗な女にわかるものか
「うるさい。お前に何が分かるんだ。見えもしないもののせいで運転ができない俺の気持ちが!」
「分かるわよ」
「へ?」
「だって、私もみえるもの、あなたほど、はっきりではないけどね」
「だったら、どこにいるのか言ってみろよ」
冗談ならここでおしまい。なぜならこの周辺には幽霊なんかいない。美人局かなんか知らんが、人をばかにするならもっとうまくやれよ。
「いないわよ、この周辺」
「…お前本当に見えるのか?」
「だからそう言ってるでしょ、まああなたほどはっきり見える人、うちでもいないけどね」
「ねえ、宮守君、すぐにでも運転できるようになるって言われたどうする?」
この時から俺の人生の歯車は急激に廻り出すのである。