好きな癖 発表ドラゴン-2 想い人のために特攻攻撃をかけるサブ主人公に秘かに思いを寄せるヒロイン。
消えゆくあのひとへ、消えゆくあたしから。
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グループ交際ってしたことある?
それ、すごくださいと思う、格好悪すぎ。子供じゃないんだし、男女交際は1対1でやろうよ。告白もデートも、それぞれ個人のもの、自立した気持ちが無いとダメだよね。なんで連れ立ってんの。お前の思いはその程度か!と思わず説教をしたくなるよ。そう思わない? Wデートとかもみっともない。情けないし恥ずかしくないのかな。
でも、あれは本当に楽しかったよ。本当にそう思う。
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私たちのクラスはある日突然に異世界に送られた。事前勧告一切なし、準備も注意事項も伝えられず、ほんとうに突然に「え?なに?いま雷でも鳴った?」そんな感覚がした時。目の前に唐突に現れた、異世界の女神さまが「貴方たちの魂に相応しいギフトを授けます、どうかその力でこの世界をお救いくださいますよう」とか言い出した。きれいな人だったよ? 女神さまを「綺麗なひと」と表現するのもなんだけど、優しそうで哀しそうで、たぶんあれだよね、男の子だったら「よっしゃ!いっちょうこのひとに為に頑張るかー!」ってなる感じの、そんな綺麗で可愛くて健気な感じの女神さま。
でもね、なんだろうね、女神さまって神様でしょう?まあ人間とは違うんだろうね、それ以外は何の説明もしてくれないの。気がついたらクラスのみんなと一緒に森の中。いやそのね、ほら何事にも手順や準備ってあるじゃない?実あの時、あたしは「トイレに行こうかなー、まだ我慢できるかなー」ってタイミングだったのね。いや突然に森の中って……あたしの尿意はどうすんの? 突然のことにクラスのみんなは動揺して、内気な「美羽」なんかは泣き出しちゃうし「茜」と一緒に慰めたけど、泣き止ませるのが本当に大変だった。
でもそんな時でも、平然と泰然とできるひとってのもいるんだよね。そういう人が大物とか大器っていうんだろうなと思う。その時「皆、落ち着こう。ひとまず情報を擦りあわせよう」とか「ひとまず周囲の安全を確認しなくちゃいけない。皆は少しだけこのままここにいてくれ、俺と一緒に探索に出る気がある奴は挙手してくれ」とか言えちゃうひと。
そう、私が秘かに良いなと想ってたひと「西舘 樹」君。
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女神さまは私たちに世界を救ってほしいらしい。何でも暴力と破壊をまき散らす悪い竜が降臨したんだって。放っておくと大変なことになっちゃうっぽい。でもね、首が7つもあるそんな強い竜を、ただの学生である私たちで何とかしろってね、ちょっとどうかしてると思う。
女神さまは私たちに「力」を与えてくれた。なんだか超能力や魔法みたいなやつ。クラスのみんなに。もちろん私の友達、いつも一緒にいる「桜庭 茜」と「木梨美羽」も特別な力を貰った。いつも元気で明るい、少し日焼け気味の茜は『人間離れした俊足』を。いつも上目遣いで不安そうにしている美羽には『炎舞う爆裂魔法』を。そしてあたし「藤崎香織」には『距離を問わぬ転送魔法』が与えられていた。
いやちょっと待って、なんで? 茜は分かるよ、いっつも落ち着きなく走り回っているような、まるで男の子みたいに朗らかに笑うショートカット少女の茜さんが『俊足』ってのはイメージ通りだよ。「いやこれ、すっげーな」ってケラケラ笑ってぐるぐる走り回って、樹木に飛び移って、もうあんたバッタかなんかなの?って感じで動き回ってた。美羽なんか「お猿さんみたい…」って言ってたからね?
でも内気で大人しい美羽がよりにもよって『爆裂魔法』って。ちいさな、まるで蝋燭の火のような、ちっちゃーい火を指先に灯して、遠くまで飛ばせたら、夜道の灯の代わりになるかな?提灯かなー?って試してみたら、それが樹木にぶつかった瞬間どっかーんって。一抱えありそうな太い幹の大木が、ぱっきりすっぱり折れて割れたからね?あたし正直ちょっと出たかんね?ちびったからね?美羽にしか言ってないけど。
で、あたし「藤崎香織」は『転送』だった。いやなにこれ、国民的存在の青いタヌキ型ロボットが取り出すドアかな? いや私が出すのは扉ではなくて、地面や空間に現れる魔法陣だったけど。ひと一人分から、半径30メートルぐらいまで、その大きさの制御は自由自在。思ったところまで瞬時に移動できる優れもの。まあ行き先については、私が行ったことのある場所とか、私がいる場所から見える場所限定なんだけど。ついでに言うと、魔法陣を出したりするのに結構時間がかかるんだけど…うん、サイズや距離次第だけど、数分とか十数分とかかかる。おしっこに行きたくなってから我慢できる時間ぐらいかな、準備時間は。いやなんかあたし、さっきからおしっこばっかり言ってるな。
でもなんで転送なんだろ? 茜も美羽も「あー、香織はねー、そんな感じだよねー」って納得してたけど、どういうことなんだ。「うん、ほら、糸の切れた風船って、どこ行くか分かんないじゃん?」って茜は放言した。「ふらっと突然どこか行っちゃうよね」って美羽も言ってた。キミたち、友情はどうした。女の友情は儚いって俗説を保管する気かな?
まあなんだよね。クラスみんなで「不思議な力」を持ったから、しばらくはキャッキャウフフで楽しかったよね。うわーすげーって。……日が暮れるまではさ。いやさっきも言ったけど、ここ森の中なんだよね。なんもないんだよね、鞄も何も。ポケットに入っていた品もの程度はあったけど、水も食料も着替えもないし、お布団だってない! いやこれどうすんの? 日が暮れてなんだか寒くなってきたし、草地に座ってお尻は濡れるし、もういやだ。帰りたいよーって誰かが言い出した瞬間、あっちこっちで鼻をすすり上げる音が聞こえてきた。あたしだって泣きたかったけど、先に美羽が泣いちゃったからまた我慢。茜と一緒に目を真っ赤にしながら「大丈夫、大丈夫」って呪文のように言ってた。
そんな時「水を見つけてきた。ひとまず移動しよう」って言ったのが、そう、私がちょっと意識していた「西舘 樹」君。
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クラスのみんなで過ごした森の生活は、なんというか凄かった。サバイバルっていうの?無人島生活みたいな感じ。西舘君の能力は『貫く槍』とかで、ちょっとした木々や岩なら切り取って加工できちゃうみたい。クラスで元から目立ってた「東山進」君(あたしはちょっと苦手かも、だって乱暴っぽいんだもん)も『斬刃の剣』とかいう力で、ばっさばっさと樹木を切り倒してた。なので仮小屋みたいなのは当初からできた。できたけど…ご飯がね。さすがの西舘君も清流の魚を槍で取れはしても、魚そのものの数が足りないんじゃどうしようもないよね。それに味付けがね。炎は美羽の魔法で出せるから焼き魚はすぐにできたよ、蒸し魚も。でも、お塩もお醤油も無いとなると味気ないよねぇ。おまけに生魚やら、食べなれない草や木の実を食べたことで腹痛者がぞろぞろ出てきた。皆うんうんうなった。顔色もちょっとじゃないほどにヤバそうになったひともいた。
そんな時に大活躍したのが「南野夏美」さん。朗らかで明るくて、クラスでも目立つ優等生。彼女はなんと2つも力を持っていたのです! それは『癒し』と『浄化』! なあにそれ、すっごい、女神さまじゃん聖女じゃん! いいなーいいなーそれいいなー。怪我も痛みもぱぱっと解決。ありがたやありがたや。口が悪い東山君とかは「俺たちの救急箱だな」とか言っちゃってたけど。なんだろうねあれ、ガキっぽい。素直にありがとうって言えないのかな。でもとにかく、彼女の含めた「能力持ち」さんたちのおかげで私たちは一カ月近いサバイバルを乗り越えれたんだ。
森から出て、それからはまあ順調。村人に合って、町の人に会って、街や都市まで出向いて、すっごく偉い神官様に面会して、私たちは晴れて「女神さまが遣わした救世の使者」として扱われるようになった。武器も防具も道具もたくさん与えられた。何よりもあたしが有難かったのは「立派な着替え」や「お風呂」が与えられたことだよ! いやもう本当に大変だったんだから、乙女として。これはきっと皆も分かってくれるはず。そして私たちは女神さまが指示した、当初の目的のために旅に出ることになった。
旅をする。それはつまり「装備を整える」と言うこと。「買い物をする」ということ。
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買い出しは楽しい。支度金だとか軍資金だとか、そういうものをいっぱい貰る立場になったなら、なお楽しい。私は機会があるごとに積極的に買い出しを担当した。戦闘で貢献できないなら、こういったところで貢献しないとね。それに私は買い物が、安く買い付けるのが、けっこう得意だったりするのです。えっへん。それに私が買い物に行くと便利なんだ。買った品を、皆が待機している宿屋に『転送』で送り届けれるからね。荷物の移動が格段に楽なのさ。常に手ぶらで次の品を選別できるのって大事なんだよ?
そんな楽しい買い出しに、ひそかな楽しみがもうひとつあった。「女の子だけで歩くと危ないからね」そういって西舘君が良く付き合ってくれたんだ。買い物の品々はみんなで決めるから、残念だけど二人きりって訳にはいかない。たいていは4~6人ぐらい、男女2~3人つづの集団で行動する事が多かった。
でも、あの時は楽しかった! 女子グループがあたしと「茜」と「美羽」で男子は「西舘」くんだけだった時! あたしたは皆で使う共通予算の他に、個人用「お小遣い」制度も設けていたから、甘いもの、美味しいもの、そういったものを市場や広場、屋台や食堂で食べることだってできる。買い出しを爆速で終えたら4人で楽しい時間を過ごしたんだ。美羽が「グループ交際みたい」とか、茜が「Wデートってやつか」とか言った。なに?茜は男の子役なの?「アタシは美羽と、アンタは西舘とのWデートだよ」だって。その時の西舘君は、困ったような恥ずかしそうな表情で笑ってた。茜が「ハーレムぅハーレムぅ」ってはやし立てて、すっごく恥ずかしかった……。でも、元の世界に帰れず、安全とは言えない世界で旅をする日々、あの時間は本当に楽しかったんだ。本当だよ。
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みんな倒れていた。茜も美羽も、南野さんも、あのいっつも威張ってた東山君も倒れていた。そして西舘君だけが立っていた。頭から血を流して、ふらつきながら、必死に立ち上がっていた。
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悪い竜、セマルグルというやつは、なんというか不安を抱かせる外観をしてた。見た感じは「白銀髪のヤンキー兄ちゃん、危ないクスリで逝っちゃってる系」という感じ。金色の眼、牙の生えた口。大声を張り上げて、ゲラゲラ笑って、怒り出して、嘆きだして、そして――西舘君を見てた。
あたし達は真正面から攻め立てた。右手は剣の「東山」君、左手は槍の「西舘」君、その後ろに、弓や攻撃魔法やらを使える仲間たち、美羽もここにいる。大きく迂回するのはその他の接近戦向きの力を持つクラスメイト、茜はここのポジション。
そして私はいつも後方担当。皆から離れて様子を伺う役。西舘君は言ってた「退路の確保は大事なんだ。いつだって勝てるとは限らないから。いざという時、その時が君の出番だ、藤崎さん」いつも言ってた「離れて一人でいるのも危険なんだ。そんな危険なことをさせてごめんね」いつも言ってた「藤崎さんのおかげで皆が無事に帰れたよ、ありがとう」いつも言っていた「助かったよ」「俺も頑張らないと」「大丈夫さ」「きっと上手くいく」「任せてよ」いつも言ってた。無理ばかりしてた。我慢ばかりしてた。涙をこらえてた。西舘君はいつだって私に勇気と希望をくれていた!
魔法陣を西舘君の足元に。呼び出すまでは数分。この場所から逃走さえできればいい。セマルグルの全体攻撃に曝されて、あたしも怪我をしてしまったから、魔法陣はそんなに大きく作れなさそう。たぶん、ここまでの大きさは作れない。でもいい。西舘君だけでも助かれば、きっと、きっと全ては上手くいく。だって彼だもん。だって彼だけが私を気遣ってくれたもん。彼こそが英雄でヒーロー、この世界を救える救世主。きっとそうだ、彼だけが、彼さえ生き延びれば!
あたしは最後の力を込めて、彼の足元に力を注ぐ。もう目が霞んできた、でも大丈夫、貴方だけは、きっと安全な場所に転送させてみせるから。それがあたしの力。あたしの魂。あたしの願い。--ねえ西舘君、もし、もし生き延びれたら、一緒に生き残れたら、聞いてくれるかな、私のせいいっぱいの告白。今までの感謝と敬意を込めて。
好き。大好き。貴方のことが大好き。――愛しています。
【終わり】
いやもうシーンが浮かぶ浮かぶ。
※注1:構想に1晩。執筆時間、約2時間半、訂正修正15分。
※注2:設定を生やし続ける限り、永劫に書けるシチュエーション(やめれ)