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第十三話 鳩首密議

「まあ、なんだ。古江(ふるえ)が言った通り、何もお前らを取って食おうってえわけじゃねえ。もちっとこっちへ寄りねえ」

「しかし、ご領主様……」

「お! もしかして、あれだな。冬場に縁側じゃあ寒いもんなあ。おいらぁ、うっかりしてたぜ。中に火鉢が用意してあるからよ、遠慮しねえで上がってくれ。さあ、早く」


 庵原(いはら)がまごまごしているものだから、他の面々も様子を見てしまい、擘浦(はくら)長元(ながもと)は勝手にあれこれと気を回してしまっている。

 結局、呆れた図書(ずしょ)がずんずんと先んじて沓脱石(くつぬぎいし)に近づき、流れるような所作で障子の向こうへ入っていった。そうなれば庵原も流石に気付き、カヤ、小平、最後に左兵衛(さひょうえ)と続いた。

 御殿という割に障子の向こうは質素なもので、八畳ほどの広さのこの部屋は、火鉢二鉢と六人では、流石に手狭に見える。障子以外は(ふすま)に囲まれているから、開け放てば広くなるのだろうが、天球がそんな勝手を出来ようはずもなかった。


「ちぃと狭いが、まあ、おいらとしてはこっちの方が都合がいいんでな。我慢してくれや」


 本来ならば、良しというまで頭を畳に着けるくらい下げていなければいけないところだが、恐らくそうさせたくないという思惑もあるのだろう。


「手前どもには、まこと勿体ないご配慮に存じます」


 庵原が気後れしているとでも感じているのか、図書が実に畏まって対応している。


「ま、あれだ。早速本題に入ろうじゃねえか。お前さんたちを呼びつけた理由ってのはよ、話を聞かせてもらいたくてよ」

「話、と申されますと?」

「……百州(はくしゅう)の麒麟児さんよぉ、もうちぃと砕けた話し方でいいぞ。おいらぁ、お前さんの万神始末草子よろずかみしまつぞうしを何回も読んでんだ。そうだというのに書いた本人に改まられると、どうにもむず痒くてたまらねえ」

「まことに恐れ入りまする。ですが、そういうわけにも参りませぬ」

「まったく難儀なもんだねぇ。どうにも仕方がないことなんだけどよ。けれど、ふぅーむ。ま、ここでぐだぐだ言ったところでどうにかなるもんじゃねえ。とりあえず話を聞かせてくれ。お前さんたちが、阿和(あわ)村でそこの嬢ちゃんを救出した辺りからの話をよ。朝廷に引き渡す気はねえから安心してくれ」

「畏まりましてございます。では庵原殿。よろしくお願いします」

「へ?」


 長元(ながもと)の相手はすっかり図書がやるものだと思い込んでいた庵原は、用意されていた徳利とお猪口を手に目を白黒させたが、当の本人たちはおろか、小平もカヤもじっと庵原を見ているものだから、これは断りようがない。

 庵原は腹を括るために、一度大きく息を吸って吐き出した。

 その間に、長元(ながもと)が「古江の(じい)も一緒に聞いてくれ」と言うと、上座右手の(ふすま)がすっと開き、正座をした古江(ふるえ)政重(まさしげ)が現れた。

 庵原は古江を一瞥(いちべつ)した後、唾をのみ込みしどろもどろになりながらも、阿和村、兎島(うしま)、そして都からこれまでの出来事を語り切った。


「ふうん。草の者からある程度は聞いていたが、やはりこいつはどうにもおかしなことだらけじゃあねえか」


 羽織の袖に腕を突っ込みながら、身を乗り出すように背中を丸めた長元(ながもと)が言う。


「爺、お前はどう見る?」

「生憎と、私のような凡俗にはまったく理解の及ぶところではありませぬ」

「どの口が言うかね。庵原、お前はどう見る?」

「はは。……愚考するに、赤烏(せきう)が勢力の拡大と我が国の弱体化を狙って仕掛けてきたものと思うております」

「都での一件は?」

「それは何とも……」

「ま、普通はそうだよなぁ」


 ではなぜ聞いたのかと庵原の胸中は乱されたが、かと言ってこの場でどうにできるものでは到底なく、何よりも、擘浦(はくら)長元(ながもと)に悪意の欠片も見えはしない。恐らく、目の前の男には違う景色が見えているのだと、そう思うことで収めることにした。


「話は変わるが、庵原。お前たちに頼みたいことがある。褒美は弾むぞ」

「は。何なりと」


 しかし、褒美が出る依頼ともなれば、話は別であり、庵原の心の内はあっという間に切り替わる。


「良い返事だ。ま、お前さんたちなら簡単にできるだろうが、ここいらの野祓(のはら)い屋の一部が野盗化しちまってな、こっちじゃ対処できねえから、代わりに捕縛してきて欲しいんだわ」

「それはまた、軽々には返事を出来ない案件ですな」

「おう、どうしてだ?」

「当方は四人。相手が多ければ、(とら)えようがありません」

「そうか。そういやそうだったな。おいらとしたことが説明を省いちまった。爺、説明してやってくれ」

「は。賊はここより南東、沼北(しょうほく)街道沿いの比良峰(ひらがみね)付近に潜伏していると目されている。人数は十余名と見るが、正確には分からん。我が方からも捕吏(ほり)を十名ほど遣わす予定じゃ」

「それだと、私どもは必要ないんじゃないですかね?」

「必要なければこうして頼まぬよ。向こうは野祓(のはら)い屋崩れ故に、怪しげな(まじな)いを施しているようでな、(ねぐら)を見つけることも適わないのだ。待ち受けていても、逃げこまれてしまえばそれまで、ということだな」

「ま、そういうことだ。まったく卜部(うらべ)……、今は蒲原(かんばら)か。ともかく中央が(まじな)いの類いを独占したいせいで、おおっぴらには出せなくてなあ。おまけにここいらの野祓(のはら)い屋も、誰がどう繋がっているか分かりゃしねえ。そこでお前らだ。どうだい、もちろん頼まれてくれるだろ?」


 うんともすんとも声を出していないというのに、もうすでに天球が対処することが決定しているかのような長元(ながもと)の物言いに、庵原は従うより他なく、捕吏の数を増やして下さいと、ささやかな抵抗を混ぜて承諾した。

 その帰りの(きわ)、古江政重が左兵衛をじっと見ながら言う。


「ぬかるでないぞ」


 その声に、左兵衛は静かに頷いた。


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