愛憎の兄妹2 ~待ち受ける残酷な真実~ 【短編完結】
とある広大な草原の中、そこには四人の兄妹と母、5人が住んでいた。背が高くて体格もよく、日に焼けた小麦色の肌が美しい長兄のブラウン。兄とは対照的に細身で色白で理性的な次兄のホワイト。何事にも無関心で、ほかの兄弟にはあまり関わらず独り好きな妹のキジィ。そして、人懐っこく甘えん坊で食べるのが好きな末妹のミィ。
4人は兄妹だ。母の名前はミスティ。4人を産んだとは思えないほどあどけない顔の母親で、知らない人からは同じく兄弟だと思われているようだ。特に末娘のミィとは性格も見た目もよく似ているため、姉妹に思われることがほとんどだった。
うだるような暑さの夏が終わり、ようやく秋の過ごしやすい日々が始まった今日この頃、この数ヶ月で彼らを取り巻く環境は少しづつ代わっていた。まず、祖母のジムニーは老齢と夏の暑さでいよいよやられ、1か月前にとうとう姿を消した。家族に心配をかけまいと、老体に鞭打ち何処かへ去っていってしまったのだ。ミスティは自分の母親が死期を悟り、最後の姿を家族に見せまいとしたことを感じ取っていた。もはや生きてはいないだろうと思うと悲しくなるが、老いの宿命でもあった。
「母さん。お腹すいたね。」
声をかけてきたのは末妹のミィだ。甘えん坊のミィは、成人したにもかかわらず母親べったりだった。
「お母さんがお母さんって言うのなんかややこしいね。」
「ホントホント、僕らにしてみたらおばあちゃんなのにね。」
2人はミィの子供達である。色白で眉毛のはっきりした整った顔つきの女の子シルキィ。もう一人は健康的に色黒のブラッティ。2人は姉弟である。2人はミィのある過ちによって生まれた運命の子達だ。
「はは。お前達にはおばあちゃんで、おれやミィにとってはお母さんだからな。」
そう笑いながら近付いてきたのは2人の父親であるホワイトだ。お気づきになっただろうか。そう、シルキィとブラッティはホワイトとミィという兄妹から産まれた子たちだった。
1年前、ホワイトはかわいく愛らしいミィが愛おしくて仕方なくなり、とうとう兄妹の一線を越えてしまったのだ。ミィは最初こそ抵抗したが、ホワイトの思いを感じ取ってとうとう受け入れてしまった。長兄のブラウンもミィへ思いを寄せていたが、ホワイトに奪われてしまったのだ。そして、その時に芽生えたのがシルキィとブラッディだったのだ。
「そう言えば、大兄ちゃんとキジィから連絡はあった?」
ミィはミスティに聞いてみたが、ミスティは首を振った。
「あの子たちはもう立派に大人だからね。きっと、どこかで元気にしているさ。」
ホワイトとの子を身籠った後、ミィが大兄ちゃんと呼んでいた長兄であるブラウンは姿を消した。すぐに帰って来るだろうと思っていたが、1週間たっても1か月たってもブラウンが返ってくることはなかった。そして、ブラウンを探しに行くと言って出ていった姉のキジィも、そのまま行方知れずだ。どこかで元気にしていると信じておくしかできないことが、ミィにはとてももどかしかった。
「私が小兄さんと関係を持ったばっかりに、大兄さんは家を出ていってしまった。」
そう落ち込むミィに、ミスティは寄り添った。
「ミィ。あなたのせいではないわ。どのみち大人になったらみんな家を出ていくものよ。あなた達はここに残ってくれて私は嬉しいわ。」
慰めてくれる母に、ミィも身体を預けて小さくなるのだった。
秋の長雨が去ったある日、今日は雲一つない晴天に恵まれた。ミィは子供たちと一緒に草原へ飛び出した。木登りをしたり、木の実をつついたり、シルキィもブラッディも大いにはしゃいでいた。
「お母さん。これなぁに? 木の実みたいだけどトゲがあって痛いよ!」
ブラッディがつついてはチクチクした痛みに顔をしかめていた。やめとけばいいのに興味津々のブラッディは、何度も触っては痛い痛いと笑っていた。
「それは栗という木の実よ。中の木の実は割って食べると甘くておいしいものが多いわ。取り出すのが大変だけど。お母さんは好きよ。毎年痛い思いをしながら食べているわ。」
ミィはそう言って笑った。確かに栗の実は甘くておいしいが、とげとげの皮を黒いして取り除いた後は、固い皮を取り除かなければならない。なかなか骨の折れる食べ物だが、中身に行き当たった時の感動は大きい。ブラッディがなんとか中身を取り出そうと必死になっている姿や、シルキィが側で応援する姿は微笑ましいものがあった。
そうやって、何度も痛い思いをしながらなんとか栗の実を取り出した。
「ほら、姉さんも食べなよ。」
「ありがとうブラッディ、いつも優しいね。」
固い皮を何とか取り、中のみを食べると、ミィの言った通り甘くて柔らかい味が口の中に広がった。その初めての味と美味しさに、2人は目を丸くして驚いていた。
そんな姿を見ていたミィは、ふと後ろに気配を感じて振り返った。草原の中、大きな木の根元に何か動くものが置いてある。なんだろうと思って近付くと、それはネズミのようでもあり、何かひらひらと羽のようなものが動いていた。気になって触ってみると、ガシャン! という音と衝撃と共に、背後に鉄柵が落ちていた。慌てて戻るがビクともしない。周囲を見渡して初めて気が付いたが、檻の中に閉じ込められてしまったらしい。
「シルキィ、ブラッディ! 逃げて!!」
ミィの訴えに驚いた2人は、言われたとおりに茂みの中に逃げ込んだ。何が起きているのだろう。そんなことは全く分からなかったが、母親の必死の声に茂みに飛び込んだのだ。
「何があったの?」
「わからない。わからないけどただ事じゃないよ。」
ブラッディは不安そうなシルキィの手を取って茂みの中を移動した。すると、暗がりに何かいい匂いがした気がした。目を凝らすが薄暗くてわからない。しかし、匂いは確かにしている。
「なんだろう。いい匂いがする。」
「そうね。暗くて良くわからないけど。」
「近付いてみよう。」
2人はゆっくりと暗がりを進んでいった。時折鼻で匂いを感じながら、ゆっくりと慎重に進んでいくと、その先には確かにご馳走があった。暗くて見えないが、ご馳走であることは間違いがなかった。
「姉さん。これだよきっと。」
2人が匂いのもとに辿り着くと、そこには丁寧に皿に盛られた食事が置かれていた。それがあまりにも美味しそうで、あまりにもいい匂いで、さっきまでミィが必死に逃げてと言っていたことも忘れて食べ始めた。
「!!」
一瞬のことだった。身体がフワッと浮いた感覚がしたかと思うと、地面が上下に揺れ始めたのだ。何が起きているのかわからず、食事もとっ散らかしながら2人はあたりを駆け回った。しかし、暗く狭いこの空間から逃げ出すことはできず、壁にぶつかっては走り回った。もう1周しているはずなのに、出口がない。
そして、次に光が見えた時には、何か大きなもので身体を掴まれるのであった。ブラッディは力いっぱい身体を捻って抵抗したが、
「こら! 暴れるな!!」
と、聞こえたかと思うと柵の付いた檻の中に放り込まれた。ほどなくしてシルキィも飛び込んでくる。
「お前たち!」
「お母さん!!」
檻の中にはミィがいた。いや、ミィだけではない。父親のホワイトも、それに知らない人も何人かいた。周囲を見渡しても檻の出口はなく、ガタガタと揺られているが、外の様子は見えない。何か建物の中のようだったが、ここがどこかはわからなかった。
檻の中にいるのはミィ達親子4人と、初めてあった男3人だった。男たちはそれぞれブラッディたちと同じくらいに若かったが、こちらを、特にミィやシルキィを見ながら息を荒げている。
「お前ら、妙な気を起こしたら承知しないぞ。」
ホワイトがそう言って睨みつけて牽制する。ブラッディもホワイトの隣に立ち、ミィやシルキィを守るように座り込んだ。
そうしてどれくらいの時間が過ぎただろうか。ずっと続いていた振動が止まった。バタンバタンという音が聞こえたかと思うと、突然ブラッディたちの目に太陽の光が差し込んできて、思わず目をつむってしまった。ガタガタと振動を受けて目を開けると、驚いたことにブラッディたちの20倍はあろうかという巨人が自分達を持ち上げていた。どうやらやはり檻に入れられていたようだ。見たこともない建物に運び込まれ、廊下を揺られながら運ばれていく。
「お母さん。俺達どうなっちゃうの?」
「わからないわ。もう、何もわからない。」
ミィもホワイトも唇を噛んで成り行きに任せるしかなかった。やがてやけに殺風景な部屋に連れ込まれると、白衣を着た巨人たちにブラッディは持ち上げられた。抵抗するががっちりつかまれ、身体が宙に浮いた。暴れようともがいたが、突然顔が何かで覆われ、ひものようなもので後頭部を押さえつけられた。その紐は伸び縮みするらしく、パチンと当たって痛かったため思わず声を上げた。
「いてっ! 何しやがる!! おい、何とか言えよ!! このやろ、う・・・。」
顔に付けられたものから何かシューという音が聞こえたかと思うと、急激に襲う眠気と気怠さ。ブラッディが最後に見たのは、不安そうにしているミィやシルキィの姿だった。そして、抗うことも空しく、深い深い闇に吸い込まれていくのであった。
気が付くと、ブラッディは元の草原にの転がっていた。周囲を見渡すと、ミィやシルキィ達も同じように寝ころんでいた。まだフラフラする足に活を入れ、よろよろと近付いてみると、どうやらみんな眠っているようだ。
「あ! 母さんの耳が! シルキィも。え?」
ミィ達の右耳がVの字に欠けていた。慌てて手で確認してみると、どうやら自分の耳も同じようにかけているようだ。あの巨人たちがやったに違いない。あいつらは自分達をさらって、わざわざ耳を切っていったのだ。なんてことをしてくれたんだと、ブラッディは悔しさに身をよじらせた。
と、同時に股間部に言いようのない痛みや疼きと違和感を感じた。思わず座り込み、自分の股間に目を向けると、そこには、あるべきはずのモノが、、、なかった。
「な、なーいっ!!!」
あまりの衝撃にブラッディは転がりまわった。ない。ないのだ。昨日まではそこに合った自慢のモノが、きれいさっぱりなくなっていたのだ。意味不明な状況にパニックになり、ブラッディは転がりまわった。なんでだ。何が起こっているのだ。転がり起きて足を開き、もう一度恐る恐る自分の股間を覗き込む。
「や、やっぱりなーいっ!!!」
ブラッディの嘆きの叫びに気が付いたのか、眠っているミィやシルキィ達が目を覚まし始めた。
「どうしたのブラッディ? そんな大きな声を出して。ああ、なんだか気怠いわ。」
ミィがよろよろと起き上がる。そして、隣でまだ半寝状態のシルキィを起こす。少し離れたホワイトが起き上がって大きく伸びをすると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「どうしたのよん。そんなに大きな声なんかだしてぇ。」
「お父さん。俺の、俺の俺がなくなちゃった!!」
「えぇ? それ、どういう意味ぃ?」
その時になって、ブラッディは父親の様子がおかしいことに気が付いた。ホワイトは気性が荒く、男らしい男だった。それが、なんだか今はなよなよしていると言うか、身体をくねらせながらブラッディにすり寄ってきている。
「それで、ブラッディのブラッディがどうしたのぉ?」
自分にすり寄ってくるホワイトの姿に、ブラッディは総毛立った。違う、自分の知っている父ホワイトはこんなのじゃない。これじゃ、まるで、まるで、、、
「女みたいじゃないか!!」
ブラッディのその言葉に、ホワイトは再び身体をくねらせ、
「何言ってるのよぉ。別にいいじゃない。女みたいだってぇ。」
そう言いながらすり寄るのだった。すると、ホワイトの頭を叩きながら、
「お前達、無事に帰ってきたんだね。」
祖母であるミスティが茂みから出てきてそう言った。
「巨人があんたたちをさらって行ってねぇ。もう、ダメかと思ったら、寝ているあんたたちをここに転がしていったのよ。無事でよかったわ。」
「おばあちゃん。俺の俺がないんだ。どうなってるの??」
ブラッディを見て、ミスティはくすくすと笑った。
「たまにそういうのもいるのよねぇ。大丈夫、私が知る限りそうなっていても元気な人はいっぱいいるわ。」
「でも、でもぉ!」
ブラッディたちが混乱していると、ぬっとあらわれた影が差し込み、自分達を覆った。ブラッディが振り返ると、太陽を影にしながら巨人が近付いてくるではないか!
「みんな、逃げろ!!」
思い思いに茂みに飛び込む。巨人は不敵に笑うと、そのまま何もせずに去っていった。混乱は冷めない。股間はうずくしかすかに痛い。父は何故か女のようになってしまっている。幸いなことは、ミスティが無事で、ミィやシルキィが正気だということか。ブラッディは立ち去る巨人の後ろ姿に向かって、
「ばかやろーっ!」
と、力の限り叫ぶのであった。
ブラッディが見送った後ろ姿の巨人・この施設を管理している警備員のおじいさんは、増え続ける猫の対策として、一大捕獲作戦を立案。猫取り用の檻トラップや、段ボールに餌を置いておびき寄せたり、様々な罠を仕掛けて捕獲し、虚勢と避妊手術に踏み切ったのだ。
「それでは、ご依頼ありがとうございました。来週はB地区の猫を捕獲して手術しますので、またご協力ください。」
「ええ、お疲れさまでした。ホントにあいつらは気を付けないとどんどん増えるからな。かといって保健所で殺処分じゃかわいそうだしねぇ。」
「ざっくり調査して20匹以上はいますから、地道にやっていきましょう。処理が終わればこれ以上は増えませんから、なに、2.3年もすれば落ち着きますよ。」
「定年までに終わればいいけどなぁ。」
業者を見送った後、警備員のおじいさんは警備室に戻ると、換気扇を付けて煙草に火を付けた。
「日本も、猫みたいにポンポン産めや増やせばができれば、少子化なんてなくなるんだが、そうはうまくいかないもんだねぇ。さて、玉抜きしたあいつらにゃ、せめて餌くらいは用意してやろうかね。」
ニコニコ笑いながら、警備員のおじいさんは紫煙を燻らせるのだった。
終わり
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
職場の猫ちゃんたちもすっかり大きくなり、
三代目が産まれて増えちゃいました。
そこで、大去勢&避妊作戦が行われ、
猫ちゃんたちの股間の運命を考えると切なすぎて物語にしました。
笑って許してお読みいただけたら嬉しいです。
ぜひ、いいねとブックマークと高評価での応援をよろしくお願いいたします。
水野忠