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嘘とウソ

「恋人ができたんだよね」

 朝、散歩に行こうと呼び出された河川敷で、顔を合わせるなり風子が突然の告白をしてきた。

 あっそう? ふぅーん? と空を仰いだら満開の桜が視界いっぱいに映る。ええい、どこもかしこもピンク色で浮かれやがって!

「……でも、風子いつの間に? 春休みに入ってから?」

 そう、恋人ができたと言う割には風子の行動が変わった様子はあまりない。春休み前も、朝は高確率で通学路で鉢合わせするし、そこから帰り道で別れるまでだいたい一緒だったし。そして春休みになってからも二日に一回は会っているし。そう考えるとめちゃくちゃ一緒にいるな。ちょっと引くかも……じゃなくて。

 釈然としないでいるわたしに、風子はちっち、と人差し指を立てる。

「私くらいになると、恋人なんてある日ぷちりとできるもんなんだよ」

「そんなニキビみたいに恋人ができて堪るか」

「あはは、ニキビて」

 あまりにも雑な恋人の出現に苦言を呈するも、風子はどこ吹く風で春風の中を軽快に歩く。ええい、一文中に風が多いわ!

 内心穏やかでないわたしを尻目に風子は幸せそうに笑っていて、その横顔を見ると「まぁでも、ない話ではないよね」とも思う。だって、満開の桜の下を淡いピンクのスカートを揺らして歩く風子の姿は、わたしから見てもとても綺麗だ。中身はまぁ、色々とアレなところもあるけれど、それを知らない奴がうっかり告白をしてしまう可能性もなきにしもあらず、というか。いや普通に全然あると思うし。

 そうやってわたしが悶々としていると、あろうことか風子はこちらを覗き込んできてはニヤニヤし始めた。なんだこいつ、自分に恋人ができたからってマウントか?

 ムッとして睨み返すわたしに向かって風子は、

「――――なーんて、嘘でしたー!」

 言いながら耐えきれなくなったみたいにぶほっ、と吹き出した。はぁん?

 ちょっと頭の整理が追いつかないわたしに、風子は得意げに言い放つ。

「今日はエイプリルフールだって忘れてたでしょ?」

「あ」

「ふふーん、私に恋人ができるとそんなにショックなんだー」

 からかうようなどや顔にムカついたけれど、言われるまですっかり失念していたことは事実なのでぐぬぬ、と唇を噛む。何かこう、反撃をしてやらねば気が済まないぞ……!

 目には目をの精神で頭を巡らせ、わたしはいいことを思いついた。

「そうだね。恋人ができたのが嘘で良かったよ」

「へっ、あ、なんか素直じゃん……?」

 わたしの反応を想定していなかったのか、風子は急にそわそわと目を泳がせる。ここだ。

 風子が動揺した隙を逃さず、わたしはにっこりと笑って言った。

「――だってわたし、風子のこと好きだもん」

「…………へ」

 数秒、風子の周りだけ時間が止まったかのような錯覚をした。呆けたようにこちらを見つめる風子の鼻先を掠めて、桜の花弁が舞い落ちていく。

 それからじわじわと、風子の頬に赤みが差した。まるで桜の花弁の色が移ったみたいに、鮮やかに頬を染めていく。

「……え、え、それって」

 紅潮した顔で口をパクパクさせる風子に、わたしは手を伸ばす。そして――

「――なんて、ウソ」

 す、と彼女の髪に引っかかっていた桜の花弁を指先で摘みながらそう囁いた。

「なっ――はぁぁ!?」

 風子は弾かれたように身を引くと、今度は怒りか羞恥か、その頬を真っ赤にさせた。

「やーい、引っかかってやんの」

 してやったり、とわたしが得意げに言うと、風子は不満げに鼻を膨らませた後、

「なんだよー、それ」

 堪えきれなかったみたいに、ふは、と息を漏らしながら笑った。

「だって、風子がつまんない嘘つくから」

 わたしも一緒になって笑いながら答える。

「……でも、それなら私も好きだよ」

 嘘だけど、と含み笑いをしながら風子が言う。

「わたしの方が好きだよ」

 ウソだけど、とわたしも笑って返した。


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