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どっちだよ

 お月見しよう、と風子が言った。

「なんでお月見?」

「無知だなー。今日は十五夜なんだよ」

「なんだっけ、それ」

「……なんかアレ、月が綺麗に見える日」

「雑だなー」

 そんな感じで、わたしたちは風子の部屋から夜空を眺めている。が。

「……月見えないじゃん」

「……曇ってるからね」

 というわけで、仕方なくスーパーで買ってきたパックのみたらし団子をもぐもぐと食べるだけの会と化している。しかも三本入りなので、最後は争奪戦になる。し、わたしが負ける。なんだ十五夜、つまらんぞ。

 はぁーあ、と息を吐いて空を仰いだところで、雲の切れ間から月が見えた。

「あ、風子、月見える」

「え、待って、見る見る」

 言いながら、なぜか机の引き出しをごそごそする風子。月は?

「あった」

 ようやく顔を上げた風子の顔には、なぜか見慣れぬメガネが。

「風子、メガネなんて持ってたの?」

「最近ねー。なんか目悪くなってきて」

「えー、何やってんの?」

「なんだろ、夜寝る前にスマホ見てるからかな?」

「完全に原因それだよ。やめなよ」

 苦笑しながら言うと、風子は一瞬考え込むような顔をする。それから、にやっとしてわたしを見た。

「それじゃあ、明日から夜にライン送ってきても返事しないからね?」

「……目が悪くなる原因って遺伝なんだって。だからスマホ関係ないよ」

「どっちだよー」

 苦し紛れのわたしの言葉に、風子はしょうがないなぁ、とでも言いたげに肩を竦めた。なんだその反応は。

「だってほら、スマホが原因ならわたしだって目が悪くなるはずじゃん。一緒の時間にスマホ見てるんだから」

「それもそーだ」

 納得したように頷くと、風子は窓から月を見上げる。くいっとメガネを押し上げたりなんかして、完全にメガネキャラ気取りだ。

「そういえば知ってる? 『月が綺麗ですね』って『愛してる』って意味なんだって」

「あー、なんか聞いたことある」

 どっかの文豪的な誰かがそう訳したとかなんとか。

「でも大分無理やりだよねー」

「ね。愛してるとか関係なく月が綺麗だなー、って時も月が綺麗って言うしかないもんね」

「どっちだよ、ってなるよね」

 などと、まん丸い月を見上げながら、わたしたちの情緒は欠けている。多分三日月くらい。嘘、そんなにない。新月くらい。や、でもそれだと皆無か。それは悲しい。

 風子の部屋の窓から見える月は、別に普段よりめちゃくちゃ綺麗とかそんなことはなくて、むしろなんか輪郭がぼやけている気がしないでもない。……もしかしてわたしも目が悪くなってる?

 そんなわたしの内心を見透かしたように、風子は得意げにメガネをくいっとする。

「いやー、でもメガネ掛けると良く見えるなー」

「そーですか」

 気のない感じのわたしの返しに、風子は月からこちらに視線を移すと、ふいに微笑んだ。

「ね、月が綺麗だね」

 その一言に、わたしは一瞬呆けた。

 月が綺麗、って、……どっちの意味?

 メガネのレンズ越しの瞳からは感情が読み取れなくて、わたしはなんとかその奥を覗き込もうとする。

「……お月見なのに、なんで月じゃなくて私を見てるの」

 もっともなことを言う風子。それもそーか、と空に視線を戻そうとした瞬間、風子の瞳の表面に小さく月が映っているのが見えた。

 その月は、今までに見たことがないくらい、綺麗だった。

 思わず、「月が綺麗ですね」と言うと、風子は笑って「どっちだよー」と言った。


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