第84話 盗賊団の頭領アベンジオ、執行
「さて、これで残るはアンタ一人だ」
「お前ら、只者じゃねえな……」
「それで、どうするの? 降伏して《魔晶石》のことを教えるか、それとも――」
シシリーが睨めつけると、アベンジオは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
そして――。
「大人しく従うか、だと? 愚問だな」
壁にかけてあった斧を手にして、アベンジオは俺たちに向き直る。
「雑魚どもを倒したくらいでいい気になるなよ」
「大人しく従う気はない、ということでいいか?」
「当たり前だ!」
アベンジオは斧を振りかぶると、それを力任せに振り下ろしてきた。
俺とシシリーは左右に分かれてそれを回避し、攻勢に転ずる。
俺は《風精霊の加護》で、シシリーは小型のゴーレムを召喚してアベンジオに攻撃を仕掛けた。
が――。
「クックック。この《魔晶石》の能力の前には効かねえなぁ」
アベンジオは無傷だった。
見ると、アベンジオの周りを取り囲むようにして結界のようなものが張られている。
アベンジオが指輪に付けている《魔晶石》の力を解放したのだろう。
「ほら、またこっちからいくぜぇ。《魔晶石》解放――」
「――っ」
また斧を振ってくるアベンジオだったが、先程よりも速度が速い。指輪に付けた、別の《魔晶石》の能力か。
紙一重で躱し、今度は《水精霊の加護》のジョブスキルで水の檻に封じ込めようとしたが、水塊が結界にかき消される。
どうやら、あの結界は魔法の類も寄せ付けないらしい。
「チッ。防御を強化しつつ攻撃も強化か。単純だけど、厄介ね」
何度かの攻防を繰り返し、距離を取ったシシリーが苛立たしげに呟く。
「まったく、改めてコイツの力には驚かせられるな。この力を使えば、俺の復讐も果たせそうだぜ」
「復讐?」
「フン。金を得るのもそうだがな、俺がやりたいのはそれだけじゃねえ。何としてもルーンガイアの王族の奴らに復讐しなくちゃならねえんだ。今はその準備期間といったところだな」
ルーンガイアの王族というと、ゼイオス王や王女であるクレスのことだ。
アベンジオは手にした斧をきつく握りしめ、憎悪に満ちた眼差しを向ける。恐らく、奴の中では何か因縁があるのだろうが……。
「俺はな、元々ルーンガイアの王国兵だった。それがな、ある日突然、王宮から追い出されたんだよ」
「……」
追い出された、か……。
「犯罪者から賄賂を受け取っていたことがお姫さんにバレちまってな。その日の内に王国兵の任を解かれてよ。そのおかげで俺は今、こんな日陰暮らしを強いられてるってわけだ」
「いや、それは貴方の自業自得でしょう。完全に逆恨みじゃないの」
「そうかねぇ嬢ちゃん。俺のやったことと王族のやっていること、どこが違うってんだ」
「は?」
「どうせ王族の連中なんてのは、俺たち兵のことを駒としか見ちゃいねえのよ。自分たちは悠々と玉座に腰掛けて、何一つ不自由ない暮らしをしてるってのにな。だから、俺もちょっと甘い汁を吸わせてもらっただけじゃねえか。それの何が悪い?」
「……」
「所詮、この世界は使う者と使われる者に分けられるんだ。弱者に都合の良いようになんかできちゃいねえ。だから、俺は使う側に回りてえのよ」
アベンジオは悪びれることなく肩をすくめている。
確かに、王族という連中にはそういう奴もいるだろうな。いや、「いた」が正しいか。
しかし……。
俺は一つ息を吐き、そして告げてやった。
「お前みたいな奴と、クレスを一緒にするな」
「あ? 何か言ったか?」
「理不尽も味わっていないくせに復讐? まったく笑わせる」
「何だと?」
「自分は悪くない、悪いのは周りだと。お前はそうやって他の誰かのせいにして自分を守ろうとしているだけだ。他者のことを知ろうともせず、自分の苦悩は分かってほしいだと? 駄々をこねる子供じゃあるまいし」
「て、テメェ……」
それに、コイツはまだ幼いリックを自分のために利用していた。希望を見せつけ、それをダシに従わせて……。
断じて許せることではない。
====================
対象:アベンジオ・ウォーラス
執行係数:75722ポイント
====================
――まあ、そうだろうな。
俺は表示させた執行係数を確認し、右手に意識を集中させる。
横目に見えたシシリーが、口の端を上げるのが見えた。
「《魔鎌イガリマ》、召喚――」
「な、何だ?」
黒く禍々しい魔力が吹き荒れた後、俺の手には漆黒の大鎌が握られる。
「さて……」
俺は瞬時に床を蹴り、アベンジオまでの距離を詰めた。
「《叩き割れ、イガリマ》――」
イガリマを振り下ろすと同時、何かが割れるような音とともにアベンジオの持っていた斧を破壊する。
「ば、馬鹿な!?」
「終わりだ、屑め」
無防備になった土手腹に拳を叩き込むと、アベンジオは吹き飛んでいった。
「ぐ、ぼぇ……!」
壁に大穴を開けて、アベンジオの顔が苦痛に歪む。
俺が歩み寄って見下ろすと、その表情は苦痛から恐怖へと変わっていた。
「執行完了――」






