第68話 《救済の使徒》のアジトにて
「なるほど、地下水道か……」
「はいッス。アデルさんたちを襲った赤いローブの連中から読み取れたのがその記憶ッス」
朝、俺とメイアが同じ部屋で寝ていたところを目撃された一騒動から少し経って。
俺たちはフランが読み取った情報を共有するべく王宮の作戦室に集まっていた。
ちなみにここへ来る途中、俺とメイアの間に何かあったという誤解は解いておこうと説明済み……なのだが、王女のクレスは「や、やっぱりお二人はそういう関係なのですね」と評し、フランは「いやいや、めでたいことだと思うッスよ」と宣っていた。
テティに至っては「仲の良い男女は一緒に寝るってフランから聞いた」などと尻尾を振りながら話していたので、後でフランにはキツく言っておく。
まあ、みんな面白がっているだけだろう。
とにかく今はルーンガイアで起きている事件の情報整理が先決だ。
「それで、フランちゃんが読み取った情報によるとあの赤いローブの連中は……」
「はいッス、メイアさん。一部読み取れない記憶もありましたが、奴らは大方の予想通り《救済の使徒》の構成員と見て間違いないッス」
メイアの問いにフランが真剣な表情で頷く。
ルーンガイア国内で多発している行方不明者事件。
それに関わる組織、《救済の使徒》の根城が判明したとなればやることは一つだ。
「よし。それならすぐにでも奴らのアジトに向かおう。そこに行方不明になった人たちもいるはずだ」
その言葉に皆が頷き、俺たちは《救済の使徒》のアジトへと乗り込むことにした。
***
「で? 何で王女様まで付いて来ようとしてるんだ?」
城門まで出たところ、明らかな外行き用衣装を纏ったクレスがいた。
昨日は王女としての正装で見送った後に着替えてコソコソと付いて来たわけだが、もはや隠す気も無いらしい。
「王女様、やっぱりお転婆」
「ち、違いますよテティさん」
テティに呆れた目を向けられ、慌てて手を振るクレス。
そういう振る舞いが王女らしくないのだが……。
後ろには従者のハリムがいて、首を振っている。
なるほど、どうやら説得したが聞かなかったクチらしい。
「しかし、今日は流石に理由もなく連れて行くわけにはいかないぞ。恐らく戦闘になるだろうし、昨日の赤いローブの連中を見た限りではかなり好戦的だ。さすがにそこへ王女を連れて行くわけには……」
メイアとテティも同行するが、この二人は強力なジョブ能力に加え戦闘経験もそれなりにある。
《救済の使徒》のアジトに囚われた一般人がいた場合のサポートも含めて二人にはいてもらいたいところだが、クレスの同行は話が別だ。
「分かっています。私も単なる好奇心でアデルさんたちに付いて行こうとしているわけではありません」
「……というと?」
「私の持つジョブ能力については皆さんに以前説明しましたよね?」
「……ああ」
俺たちが先日、ルーンガイアに着いた後のこと。
クレスの持つジョブ能力については説明を受けていた。
【占星術師】――。
それがクレスの持っているジョブの名前だ。
抽象的かつ不定期にではあるが「未来視」ができるジョブだと、クレスはそう言っていたはず。
「もしかして、何か視えたのか?」
「はい。……といっても断片的にですが。アデルさんたちと一緒に私もいて、それから魔女帽子を被った少女と対峙しているようでした」
「大きめの魔女帽子を被った少女……」
俺はクレスの発した一言を反芻し、そして思い至る。
俺たちがここルーンガイアに来る前。
ゴーレムを従え、クレスが俺の元に訪れることを予見していた魔人、シシリー・グランドール。
あの人物のシルエットはまさに「大きめの魔女帽子を被った少女」だった。
「アデルさんが話してくれた魔人の少女。私のことを知っていたんですよね? 私はそれがどうしても気にかかっていて……」
「俺たちに付いてくれば会えるみたいだし、そこで直接問い質したいと?」
クレスは黙って首肯する。
クレスにとってみれば、自分は知らないのに魔人の方は自分を知っているという状況なのだ。おまけに行動まで予知されていて。
確かに気持ちは分からなくもないが……。
「お願いします! こう見えても私、ハリムに鍛えられてそれなりに剣の腕には自信がありますから」
クレスは言いながら、腰に刺した刺突用片手剣を強調する。
――仕方ない。言っても聞かなさそうだしな……。
「分かった。その代わりあまり前には出るなよ。なるべくメイアやテティの近くにいてくれ」
「はい! アデルさんの足手まといにはなりませんから」
俺は意気揚々と頷くクレスに嘆息し、メイアやテティと視線を交わし合う。
しかし、クレスのジョブ能力によればこの先シシリーと会うことになるという。
それがもし今日のことだとすれば、シシリーと《救済の使徒》の間にも何かしら繋がりがあることになるだろうか……。
「何にせよ目的地は地下水道、ですね。アデル様」
「ああ」
メイアの言葉に応じ、俺は《救済の使徒》の根城である地下水道を目指すことにした。
そして――、
「これは……」
フランが教えてくれた、地下水道の最奥部にある開けた空間。
そこに広がっていた光景に俺たちは息を呑む。
「ぐ、ぁ……」
呻き声を上げながら倒れている赤いローブの男たち。
その奥に「彼女」はいた。
「シシリー・グランドール……」
「こんにちは、黒衣の執行人サン。お久しぶりね」






