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第62話 王女クレスとルーンガイア


「改めまして。(わたくし)はルーンガイアの王女、クレス・ルーンガイアと申します」


 《銀の林檎亭》で行われた食事会が終了した後。

 俺たちは新たな依頼人として現れた王女クレスと別室にいた。


 脇には従者と思われる初老の男性がいて、「ハリムと申します」とだけ名乗ると黙し直立していた。


 その場にいたメイア、テティ、フランが興味深げに王女を見つめる中、俺から口を開く。


「しかしクレス様……、王女様がなぜこんな所へ?」

「そんなにかしこまらなくて結構ですよ、執行人様。ぜひ皆さんと同じように接してください」

「…………分かった」


 俺の言葉を聞くとクレスは満足そうに頷いた。


 腰のあたりまで真っ直ぐに落ちる金の髪に、整った顔立ち。

 忍んで来たためか、着ている服こそ簡素なものだったが、クレスの振る舞いや所作からは高貴さが窺えた。


「それに、元々私とあなたに身分の差はないはずですからね。第七王子、アデル・ヴァンダール様」

「……どうしてそれを? 俺とは初対面のはずだが?」

「私のジョブ能力のおかげ、とでも言っておきましょうか」


 メイアの用意した紅茶に口を付けて、クレスは澄まし顔でそう言った。

 まあ、クレスのジョブ能力について今はいいか。


「ですから、私のことも呼び捨て構いません。どうか『クレス』とお呼びください」

「承知した。しかしそれなら俺のことも様付けはせず普通に呼んでくれ。今は第七王子でも何でもないからな」

「分かりました。それでは、アデルさん、と」


 クレスは少しだけ嬉しそうにはにかむ。


 ――何というか、変わった王女様だ。


 言葉を交わしてみて、俺がクレスに抱いた印象がそれだった。


 俺の中で王族と言えば俺の父親であったシャルルのように、高圧的で不遜な態度を取るのが普通、という認識だった。


 おまけに隣国のルーンガイアは閉鎖的な国だとされていて、他国との国交も断絶されて久しい。

 そんな国の王族だというから余計に厳格なイメージがあったのだが……。


「姫様は元々朗らかな方でして……。王族でありながら民や私たち従者にまで心優しく接してくださるのです」


 俺の考えていることを察したのか、それまでクレスの隣で黙していたハリムが口を開いた。

 整った白髭の奥からは少しだけ困ったような笑みが覗く。


 ハリムの言葉は遠回しな言い方をしていたが「ああ、これは普段苦労させられている感じだな」と何となくそんなことを想像する。


「それに、姫様はアデル様にお会いできるのをとても楽しみにされていたようでして。お会いしたら絶対に名前で呼んでもらうのだと張り切っておりました」

「俺に会うのを楽しみに?」

「~~っ! ちょっと、ハリム! 何でそれを言うの!?」


 クレスが慌ててハリムの方を振り返る。

 ハリムの白髭の端が上がり、日頃の仕返しだとでも言わんばかりだ。


 どうやらクレスとハリムの間には主従を超えた信頼関係があるらしい。

 クレスがハリムだけを連れて隣国に来ていることや、ハリムの従者であれば普通は絶対にしないであろう言動から、俺はそう推測していた。


「そ、そういえばこのお店、とっても素敵でしたね。可愛いお花がたくさんあって――」


 クレスは慌てて話題を切り替える。

 その言葉に反応したのはもちろんメイアだ。


「……っ。王女様、お目が高いですね!」

「ふふ。メイアさん、私のことは『クレス』で構わないと言ったはずですよ?」

「あ……。ええと、クレスさんもお花、好きなんですね」

「ええ、大好きです。昔から可愛いものには目がなくて……」

「分かりますっ……!」


 クレスとメイアは二人とも目を輝かせ意気投合する。


「可愛いと言えば、私、先程からテティさんのそのお耳と尻尾が気になっておりまして」

「え? わ、わたし……?」

「はい。私、獣人族の方を見るのは初めてなんですが、こんなにも可愛らしいとは。あの……、後で少しだけ触らせてもらっても?」

「姫様、失礼ですよ。初めてお会いした方にそのようなことを申すのは」

「テティちゃんは夜寝る時に抱いて眠るととても温かいんですよ」

「も、もう。メイアってば……」


「……」


 ――何だか、王女が来客していると思えないほどに空気が和んだな……。


 その様子を見ていたフランも乾いた笑いを浮かべる。


「王女さん、なかなかに面白い人ッスね」

「みたいだな……」


 と、俺たちの視線に気付いたのか、クレスは軽く咳払いをした。


「あ、失礼しました……。ええと、私がどうしてこちらに来たのかでしたね」


 クレスは真剣な顔へと戻り、姿勢を正す。


「実は最近、私たちの国で妙な事件が起きていまして……」

「妙な事件……。具体的には?」

「はい。行方不明になる人が多発しているんです」

「ほう……」

「王女たる私が先入観を持つのも望ましくはないでしょうが、私はそれをある組織の仕業だと考えています」


 クレスの言葉を受けて、俺は先日の一件の後で勇者イブールが言っていた内容を思い出していた。


 ――《救済の使徒》とかいう、新興宗教じみた名前の組織だ。名前からして怪しいだろ?


「……クレス。その組織というのはもしかして、《救済の使徒》か?」

「え、ええ。アデルさんの仰る通りです。よくご存知でしたね」

「ああ、この前色々とあってな」

「……?」


 俺は先日の出来事――勇者パーティーの中に魔人がいて、その魔人が操っていたモンスターと交戦した時のことを掻い摘んでクレスとハリムに説明する。


「なるほど、そんなことが……」

「奇妙な話ですな」

「シシリーという少女はクレスのことを知っているような口ぶりで、ここに来ることも予見していた。クレスはそいつのことを知っているか?」

「いえ……」

「私も存じませんな……。姫様に関わりのある人物であれば全て記憶しておりますが」


 クレスは俯いて思案顔になる。

 自分の知らない人物、しかもそれが魔人で、自分の行動を予見していたというのだから確かに気味が悪いだろう。


 ――まあ、その件はすぐに真相を確かめることはできないから、まずはクレスが話していた事件と《救済の使徒》という組織のことか……。


「しかし、隣国のことだからな。確かに行方不明になる人が多発しているというのは気にかかるが、ルーンガイアにいない俺たちでは手助けしてやることも難しいと思うんだが……」

「アデルさんの仰ることはもっともです。そこで私から提案があります」

「……提案?」


 クレスは俺たち全員に目配せしてから、そしてニコリと微笑んで言った。


「近々、皆様を招待させていただきたいのです。《清き水の王国》と謳われる、私たちの国、ルーンガイアに――」


新章開幕です!


新しいキャラクターも加わり新たなお話が展開されますので、ぜひお楽しみいただけたら嬉しいです(^^)


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