第51話 愚王との再会
「よし、入るぞ」
ヴァンダール王宮――。
メイアとテティを連れて、俺は中へと足を踏み入れる。
――二年ぶり、か……。
王宮に入るのはシャルルに王家を追放されて以来だ。
あれから思えば色んなことがあったものだと、俺は場違いな感慨に耽ながら奥へと進んでいく。
「アデル……。さっきのアレ、どうやったの?」
「ん?」
「あの結界、わたしがジョブ能力を発動させて殴っても破れなかったのに……」
テティが言っているのは王宮に入る前に目にした結界のことだろう。
俺たちが辿り着いた時、王宮には赤黒い格子状の光に囲まれていた。
以前、情報屋のフランが言っていた、王家が認めていない者の立ち入りを阻むという結界だった。
「ああ。【時術師】ってジョブ能力の一つに空間を操る魔法があるんだ。あの結界もそれに似た構造だったからな。俺も空間を操作して打ち消した」
「……。相変わらず規格外だよね、アデルの力って」
「今更ですよ、テティちゃん」
――結界、か……。
俺が知る中で、王家にあそこまでの結界を張れる者はいないはずだった。
となると、あの結界を張ったのはマルク・リシャールなのだろう。
――未だにマルクがどんな能力を持ってるのか、はっきりとは見えてこないな。
SS級のドラゴンを単独で討伐できる強さもあると言うし、どこか底の見えない不気味さを感じる。
と、思考を巡らせながら王宮の大広間に差し掛かった時だった。
「そこまでだアデル! これ以上の反抗は許さないぞ!」
「……兄上」
そこに立っていたのは第一王子、シグルス:ヴァンダールだった。
後ろには他の王子――兄上たちの姿も見える。
「もうこんなことはやめるんだ。……父上から聞いたぞ。お前が国家転覆を図ってモンスターを街へ手引きし、毒を振りまいているということをな」
「「「…………は?」」」
メイア、テティと揃って声を漏らす。
見当違いなことを言われたからというより、そんなデマを信じている兄上たちに対する呆れが勝っていた。
「お前が黒衣の執行人だって聞いた時は驚いた。しかし、我々王家に歯向かって何になるんだ。父上も悲しむぞ」
「……」
「さあ、剣を置くんだ。今なら私たちも一緒に謝ってやる。だからこんな馬鹿な真似はもうよすんだ」
「兄上たちは……、それを冗談か何かで言っているんですか?」
「……? どういうことだ?」
どうやら本気らしい。
本気で兄上たちは父シャルルの言うことを受け入れ、俺に話しかけているらしい。
無知は悪であると言うが、思考停止して自らの意志を持とうとしない者は何と言うのだろうか。
「……兄上たちは《ソーマの雫》を飲まされているわけではないんですよね?」
「《ソーマの雫》? 何だそれは?」
「……」
知らされてすらいないのか。
呆れを通り越して哀れですらあった。
「アデル様。先を急ぎましょう」
「ああ。そうだな」
「待て! 止まれと言っている。これ以上先に進むというのなら、【剣聖】のジョブを持つ私たちが相手になるぞ!」
正直、兄上たちのことはあまり記憶に残っていない。
それはそうだろう。
彼らは何もしなかったのだ。
俺が王家にいた頃、街の承認を排するような都市計画が立案された時、俺が王家を追放される時、王家を追放された後。
そして、今も――。
ただシャルルの言うことを受け入れ、従い、傀儡のように動かされている。
彼ら自信は自分で考え、動くということをしていないのだ。
「ええい、もういい! 私たちの言うことを聞かないというのなら力づくだ! かかれっ!」
「――風神剣、発動」
「ッ――!」
兄上たちに向けて全方位から風の斬撃が飛ぶ。
「ぐぁああああああああッ!!」
それを受けきることも出来ず、兄上たちは大理石の床の上を転がった。
兄上たちが全員気絶しているのを横目に、俺たちは先へと進む。
転がっている兄上たちを通り過ぎる時、ふと考えた。
もし兄上たちと同じように【剣聖】のジョブ能力を授かっていたら、王宮を追放されなかったら、俺もこんな風になっていたんだろうか?
「それは無いと思いますよ。アデル様」
「え……」
王宮の奥へと進みながら、メイアが俺の考えを見透かしたかのように声をかけてきた。
「アデル様はきっと王家だからとか、追放されたからとか、関係ないと思うんです。どこにいてもアデル様は変わらなかったと、私は思います」
「……」
「ずっと見てきましたからね」
メイアが言って、テティも同じ気持ちだと言わんばかりに笑う。
良い奴らだなと、そんなことを思った。
***
俺たちは兄上たちを倒した後、王宮の最奥まで向かった。
そしてその場所に辿り着いて、荘厳な扉を開く。
「久しいな、アデルよ。シグルスたちは足止めにもならなかったらしいな」
ヴァンダール王宮の最奥、石柱が規則正しく並べられた玉座の間――。
そこにシャルルたちはいた。
次話タイトル「愚王の執行」です。
いよいよとなりました。
ぜひお楽しみ下さい!






