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第5話 執行は続く


「こ、これは……?」


 ゲイルが意識を取り戻すのを待ってから、俺は一枚の巻物(スクロール)を差し出した。

 その巻物はイガリマに似た黒い魔力を帯びている。


「中身に目を通せ」

「は、はい……。『バートリー家の全権をリリーナに託す』……?」

「これは俺のジョブ能力で生み出した魔術誓約書だ。これに署名しろ」

「そんなッ! 私が半生をかけて築いてきた地位をリリーナなんぞに……!」

「ん?」

「あ、いえ……」


 この期に及んでどこか納得がいっていない模様だ。

 仕方ない。念には念を入れておくか。


==============================

累計執行係数:102,539ポイント

執行係数5,000ポイントを消費し、【魔獣召喚】を実行しますか?

==============================


 俺のジョブには2つの能力がある。


1、相手の執行係数によって強さが変わる《魔鎌イガリマ》の召喚。

 2、これまでに会得した執行係数を消費し、イガリマで刈り取ったことのある能力を使用する。


 今はその2つ目の能力を使う。

 俺は青白い文字列の内容を承諾し、念じた。


「魔獣召喚、ヘルハウンド――」

「へ……?」


 ――グルゴァアアアア!


 俺が右手に力を込めると巨大な黒狼が現れる。

 人の数倍はあろうかという体躯(たいく)のそいつは、俺の脇腹に懐っこく頭を擦った後、ゲイルの方には獰猛な牙を向ける。


「ヒ、ヒィッ! なんだこいつは……」

「こいつはヘルハウンド。俺のジョブ能力で召喚した魔物だ」

「しょ、召喚した……? こんな巨大な魔物をどこから……」

「今はそんなことどうでもいい。アンタ、こいつと戦って勝てるか?」

「そんな……。私のジョブの能力があったとしてもこんなの無理だ! いや、無理です……」


 ゲイルは俺の問いにとんでもないといった様子で首をブンブンと振っている。


「そうか。おいリリーナ。こいつを従わせてみるんだ」

「え? 私が、ですか……?」

「大丈夫、ジョブ能力を使用するだけでいい」

「は、はい。――《テイム》!」


 リリーナがヘルハウンドに向けてテイマーのジョブ能力を使用する。

 と、ヘルハウンドは先程俺にしたのと同じようにリリーナの膝に頭を擦り付けている。ヘルハウンドがリリーナを自分の主人だと認めた証だ。


「テ、テイムできた……」

「そんな……。リリーナがこんな巨大モンスターを従わせるなんて……」


 ゲイルは信じられないものを見るかのように目を見開く。

 自分が恐れおののいた魔物を、無能だと追放した娘が従わせたのだ。


「おい」

「ひゃ、ひゃい!?」

「アンタはリリーナを無能だと決めつけて追放したらしいが、これでいい加減分かっただろ。アンタの目がいかに節穴だったかってことが」

「は、はい……」

「で? 全権をリリーナに渡すってさっきの話、異論あるか?」

「……ありません」

「はい、じゃあとっとと誓約書に署名して。あ、言っとくけど誓約した内容を破ったら罰を受けるから、そのつもりで」


 ゲイルはガクリとうなだれ、契約書に署名する。


 これで依頼に関しては完遂だ。

 ただ、俺は個人的に聞いておかなければならないことがあった。


「一つ確認したいことがある。アンタが自分の剣技を子供に継がせようとしていたのには王家が絡んでいる。そうだな?」

「な、何故それを……」

「質問に答えろ」

「はいぃ!」


 俺が睨みつけると、ゲイルは大人しく白状し始める。


「じ、実は数年前にヴァンダール王家から使いの者が来たのです。優秀な手駒を王家に献上すれば爵位を上げてやってもいいと。王家に協力するなら上級王国民としての地位を約束するとも……」

「なるほど。その使いの者の名前は?」

「そこまでは知りません。ただ、王家の印を押した書簡を持ってきたため、王家に関わる人物であることは確かだと思いますが……」

「そうか。やはりな……」


 数年前、俺が王家から追放された後のこと。

 俺はその頃から何か、王家を含めて怪しい動きがあることを感じていた。


 今回の一件にも、その王家が関わっている。

 その動きを探ろうと何度かゲイルに質問するが、詳しい情報までは知らされていないようだった。


 ――まあ、今はいいか。


 俺は踵を返し、後ろに控えていたメイアの元へと向かう。


「お疲れ様です。流石でした、アデル様」

「ああ。メイアが子供たちを護っててくれたおかげで思い切りやれたよ。サンキュな」

「またまた。全然本気を出されてなかったですのに」


 メイアはそう言ってくすくすと笑っていた。


「あ、あの、アデルさん!」

「ん?」


 用事も済んだので酒場に戻ろうとしたところ、後ろから涙を浮かべているリリーナに声をかけられる。

 そこにはリリーナの弟妹である子供たちもいた。


「ありがとうございます! 私、この恩は一生忘れません!」

「ああ。でも、これからはリリーナがこの家の当主だからな。しっかりやるんだぞ。さっきのヘルハウンドは置いてくから、家の番犬にでもしてやってくれ」

「は、はは……。分かりました」


 リリーナは困惑気味に、頭を擦りつけてくる黒狼を撫でている。

 リリーナのテイマーとしての能力は確かなもので、俺の召喚したヘルハウンドも強靭だ。


 仮に家督引き継ぎの混乱に乗じて良からぬことを企む輩がいたとしても圧倒できるし、これで心配はいらないだろう。


「ま、今度落ち着いたら、弟や妹を連れて酒場に飯でも食いに来てくれよ」

「はい!」


 リリーナと子供たちは律儀に頭を下げて感謝の言葉を投げてくれている。


 俺は懐から林檎を取り出し、かじる。

 そうして、ひと仕事を終えた達成感を味わいながらメイアと共に帰路につくことにした。



==============================

ゲイル・バートリーの執行完了を確認しました。

執行係数7,530ポイントを加算します。

累計執行係数:105,069ポイント


※新たに【聖騎士】のジョブ能力を刈り取りました。

以後、執行係数を消費して使用可能になります。

==============================


最初の執行のお話でしたがいかがだったでしょうか?


当作はこのような形で、アデルが次々と悪人を執行していきます。


魅力的なキャラクターも多数登場しますので是非ご期待下さい!



●読者の皆様に大切なお願い●


「5秒程度」で終わりますので、是非よろしくお願いします。


ここまでお読みいただいて、


・面白い

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいざまあでした。 [気になる点] 特に無し [一言] 素晴らしい作品の執筆ありがとうございます。
[気になる点] >「これは俺のジョブ能力で生み出した魔術誓約書だ。これに署名しろ」 >「はい、じゃあとっとと誓約書に署名して。あ、言っとくけど誓約した内容を破ったら罰を受けるから、そのつもりで」 >…
[気になる点] テイマーはどんな魔獣も確実にテイム出来る職業なの? それともリリーナに特別才能があったのを主人公が見抜いていたの?
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