第44話 暗殺者ラルゴ・ブライトの執行
「そ、そんなバカな……。オレが召喚したのはA級モンスターのケルベロスだぞ!? それを一撃で……」
ラルゴが俺の方を見て目を見開いていた。
俺は自分の右手に現れた漆黒の大鎌――魔鎌イガリマを改めて握り、その存在を確かめる。
羽のように軽く、それでいて確かな存在感を放つ大鎌は黒々とした粒子を纏っていた。
――これなら、戦える。
俺はそのままラルゴに向けて疾駆し、イガリマで大振りの攻撃を見舞う。
「くっ、この……!」
ラルゴがイガリマを脅威と感じ取ったのか距離を取り、攻撃の範囲外へと逃れる。
――よし、これで……。
俺はまずメイアを束縛しているブラッドスパイダーに対し、ケルベロスの時と同じようにイガリマを振るう。
やはり、一撃だった。
「アデルさん……」
「待ってろメイア。すぐにその糸を斬ってやる」
俺は短く告げて、メイアを縛っている魔糸を斬ろうと試みる。
イガリマから力が流れ込んでくるような気がして、不思議とどうすれば良いかが分かった。
「《断ち切れ、イガリマ》――」
――ギシュッ。
鈍い音を立てて、メイアを縛り付けた魔糸が切断される。
「無事か?」
「は、はい……、ありがとうございます。でもアデルさん。その鎌は……?」
「どうやら俺がジョブ能力で喚び出した、らしい」
「らしいって……」
「俺もまともに使うのは今回が初めてでな」
俺は戸惑っているメイアに軽く笑みで応じ、距離を取ったラルゴと相対する。
そして改めて表示された青白い文字列を目でなぞった。
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対象:ラルゴ・ブライト
執行係数:752,833ポイント
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「貴様……。一体何なのだ。指定A級をいともたやすく屠る大鎌など、そんなジョブ能力は聞いたことが……」
「どうやら、お前みたいなのと戦うためにある能力らしい」
「何だと……?」
今であれば分かる。
青白い文字列に表示された《執行係数》というのは、相手の重ねてきた悪行を数値化したものなのだと。
そして俺のジョブ【執行人】は、目の前にいるラルゴのように他人を理不尽で踏みつけるような輩を執行するためのジョブ能力なのだと。
今にして思えば、俺の執行人のジョブ能力を確かめるために行われた模擬戦で、イガリマが発現しなかったのは相手が一般の王国兵だったからなのだろう。
「クッ……。【魔を従える者】のジョブ能力はかつて魔人のみが扱えるとされていた唯一無二のジョブ能力だぞ! 貴様のそれはオレに勝てるとでも言うのか!?」
「ああ、勝てる」
「なっ……!」
俺が即答したのが意外だったのか、ラルゴは後退る。
イガリマから伝わってくる力は盗賊団のオリハルコンの剣を斬り刻んだ時よりも遥かに強いものだ。
恐らくこの漆黒の大鎌は、参照している執行係数が高くなるほどに威力を発揮するのだろう。
今なら、どんなものでも斬れる気がした。
「認めん……。認めんぞ! このオレが、貴様なんぞに後れを取るはずがないっ!!」
ラルゴが叫声を上げながら手を掲げると、周りが鈍く発光した。
そして、地面から湧き上がるようにして岩の塊が姿を現す。
――ゴゴゴゴゴゴゴ。
せり上がってきた岩の塊はゴーレムだった。
「ク、クク。どうだ! コイツは斬撃性の攻撃に圧倒的な耐性を持つとされる《ミスリルゴーレム》だ! オリハルコンの次に硬い鉱物で組成されたモンスターなら、貴様のその大鎌でも斬れるはずがない!!」
「……」
「メイアと二人まとめて肉塊に変えてやる!」
「アデルさん……」
「大丈夫だメイア、そこで見ていてくれ。君は絶対に俺が守る」
「え……? は、はいっ」
俺はメイアの前に立ちはだかるようにして、ミスリルゴーレムに狙いを定める。
イガリマを背負い、一つ息を吐いた。
「ゆけ、ゴーレムよ! その男を叩き潰せ!」
――ドシャ。
俺がイガリマを横薙ぎに払うと、ミスリルゴーレムは両断されて地面に崩れ落ちる。
一瞬の決着だった。
「なっ……。は……? え……?」
ラルゴは信じられないものを見るように、俺と斬り伏せられたゴーレムとを交互に見やっている。
「ミスリルゴーレムを、斬った、だと……」
「これでもまだ信じられないか?」
「そんな……。貴様、ジョブ能力を覚醒させたとでも言うのか……?」
「それは違う。元々俺はこのジョブ能力を持っていたんだ。使い方が分からなかったがな」
「何、だと……?」
正確には使える対象を知らなかったというべきか。
どうやらジョブ能力を与えてくれる神様は意地悪な存在らしい。
授けた時に教えてくれれば、こんな苦労はしなくて済んだんだがな。
「さて、執行の時間だ」
「くっ……」
俺は呟き、ラルゴの元へと近づく。
ラルゴは臆したのか、それとも得体の知れないジョブ能力に戦慄しているのか、足をガクガクと震わせていた。
「《刈り取れ、イガリマ》――」
俺は漆黒の大鎌に命じ、ラルゴに向けて振り下ろす。
――ギシュッ。
金属をすり潰したような音が響き、ラルゴは無傷だった。
しかし、これで終わりだ。
「何だ……。何をした?」
「さあな」
俺はそれだけ答え、イガリマを肩に背負う。
「ナメるなよ……ッ! 魔獣よ、現れろ!」
ラルゴは俺が構えを解いたのを油断と捉えたのか、大声で叫ぶ。
が、何も起こらない。
「な、何故だ……!? くそっ! 現れろ! 現れろォ!」
繰り返されるラルゴの叫び。
それでもやはり、魔獣は姿を現さなかった。
「お前のジョブ能力【魔を従える者】を刈り取らせてもらった。もう二度と、お前がジョブ能力を発動させることはできない」
「何……だと……。そんなこと、信じられるはずが……」
「なら試してみるか?」
「は……?」
俺はイガリマを地面に突き刺し、そして念じる。
そして青白い文字列が俺の前に表示された。
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累計執行係数:5,483ポイント
執行係数5,000ポイントを消費し、【魔獣召喚】を実行しますか?
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承諾――。
「魔獣召喚、ブラッドスパイダー」
俺が唱えると、突如目の前に大蜘蛛が現れる。
「バカな!? なぜ貴様が魔獣を――」
「だから言っただろ。ジョブ能力を刈り取ったと」
「…………そ、そんな」
ラルゴは地面に膝をつく。
俺がジョブ能力を見せたことでラルゴは今度こそ戦意を喪失したようだった。
俺は大蜘蛛に命じ、魔糸でラルゴの体を束縛させる。
「おいっ! 何をする気だ!」
「じゃあな。運が良ければ通りがかりの冒険者なんかに助けてもらえるだろう」
俺はラルゴに背を向けてメイアの元へと戻る。
魔糸に束縛された状態でモンスターの出現する洞窟に居続けたらどうなるかは想像がつくが、それは口に出さないでおいた。
「待てっ! わ、悪かった! 今までのことは謝る!」
「……」
「頼む! ジョブ能力も無しにこんなところにいたらどうなるか……」
「……」
「おい! ふざけるな! たかが使えない裏切り者を殺そうとしただけだぞ!! この糸を解け! 解けぇ!」
「……」
俺はわめき続けるラルゴに向けて一言だけ告げることにする。
こういう輩にかける言葉は、これしかないと思った。
「執行完了――」
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ラルゴ・ブライトの執行完了を確認しました。
執行係数752,833ポイントを加算します。
累計執行係数:753,316ポイント
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次話、第3章の最終話です!
ぜひお楽しみ下さい!






