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第28話 【SIDE:レイシャ・グランベル(1/2)】窃盗犯の事情

「マリアーヌ先生。これ、今月分のお金です」

「いつもすまないね、レイシャ」


 私は金貨の入った麻袋を孤児院の院長であるマリアーヌ先生に手渡す。

 庭先まで出迎えてくれたマリアーヌ先生は、申し訳無さそうにしながらも私に微笑んでくれた。


 先生の顔、少しシワが増えたなと、私はそんな印象を抱く。


「いいんです。私はこの孤児院が……、ううん。孤児院にいるみんなが大好きだから」

「レイシャは優しい子だね。この孤児院を出てからも子供たちのことを気にかけてくれて。あなたが定期的に生活費を持ってきてくれるおかげで本当に助かっているわ」


 マリアーヌ先生の言葉がチクリと心に刺さる。

 今渡した金の出どころは決してマリアーヌ先生や子供たちには教えられないものなのに。


 それでも、と私は思う。

 それでもこの孤児院を守るためなら何だってやってやる、と。


「レイシャお姉ちゃん! ボクと一緒に遊ぼう!」

「だめー! あたしがレイシャちゃんと遊ぶの!」

「今日はいつまでいられるのー?」


 考えにふけっていると、孤児院の子供たちに取り囲まれていた。

 マリアーヌ先生に「行っておいで」と柔和な笑みを向けられて、お言葉に甘えることにする。


「はいはい、レイシャお姉ちゃんは逃げないわよ。みんなで一緒に遊びましょ?」

「「「はーい!」」」


 子供たちの純粋な笑顔がとても眩しく感じられた。


 この子たちはいつも真っ直ぐだ。

 汚い世界なんて知らないで、できればそのまま大きくなっていって欲しいと、切にそう願う。


 この孤児院にいる子供たちは皆、親から遺棄された経験を持っていた。

 年長者の中には自分が捨てられたのだと理解している子たちもいる。


 けれどそんな状況を呪うでもなく、毎日を精一杯生きているのがここの子供たちだ。

 この孤児院にいるみんなが仲間だと、この孤児院こそが自分たちの家だとそう言って。

 古びれた建物や貧しい食事には文句も言わずに(たくま)しく生きている。


 ――この孤児院はそんな私たちの想いが込もった大切な場所だ。


 だから私はこの孤児院を守りたいと、心の底からそう思っていた。


   ***


「すげー! ごちそうだ!」

「レイシャお姉ちゃんが作ってくれたんだって!」

「え、ほんとにこれ食べていいの!?」


 夕食の時間。

 集まった子供たちが歓声を上げていた。


 年季の入ったテーブルの上には、硬くないパンや香草で香り付けした獣肉、青々とした野菜料理などが並んでいる。


 そのどれもが盗んだ金で仕入れたものだ。

 それでも、いつも貧しい生活をしている子供たちを少しでも喜ばせたかった。


「ええ。いつも豆のスープばっかりでしょう? たまには精のつくものを食べないとね」

「レイシャちゃんありがとー!」

「ふふ。あまりがっついて喉に詰まらせないようにしなさい」


「「「いただきまーす!」」」

「いただきます」


 子供たちやマリアーヌ先生と一緒に食卓を囲み、穏やかな時間が流れる。


「どう? ミーク」

「うん。すっごく美味しいよ!」

「そう、なら良かった」


 私は子供たちの中でも一番年長の男の子であるミークに向けて話しかける。

 ミークは自分で手を付けながらも、他の子へと優先して料理を取り分けていた。


 仲間想いの優しい子だと思いながら眺めていると、不意にミークが呟く。


「ありがとね、レイシャお姉ちゃん」

「え……?」

「これだけの料理を準備するの、大変だったでしょ?」

「……」


 チクリ、と――。

 ミークの真っ直ぐな瞳に射抜かれたような気がして、すぐに答えられなかった。


「馬鹿ね。ミークはそんなこと気にしなくていいの。ほら、まだまだあるから、たくさん食べなさい」


 棘の刺さった心に蓋をして、私はまた笑顔をつくる。

 心の内を悟られたくなかったから……。



「そういえば今日ね、神様からジョブ能力をもらったんだよ!」


 ミークがそんな報告をしてきたのは食事が終わった後のことだった。

 ミークはとても嬉しそうに語っている。


 私がおめでとうと祝福の言葉をかけると、ミークはより一層の笑顔を浮かべた。


「それ、ちゃんとマリアーヌ先生にもお話したの?」

「うん。……あ、でもジョブ能力はまだ危ないから使わないようにって言われちゃった。もう少し大きくなったら、だって」

「ええ、そうね。それが良いわね」


「それでね、今度マリアーヌ先生と一緒に王宮へ行くことになったんだ」

「王宮に?」

「うん。とっても特殊なジョブ能力かもしれないって、マリアーヌ先生が言ってた。だからちゃんと調べてもらうんだって」


 それはまた大層な話だ。

 王宮に行くとなると王家が抱えている鑑定士に調査してもらうということだろうか。


 もしかしたらミークが授かったジョブ能力はそれだけ凄いものなのかもしれない。

 だとしたらとても喜ばしいことだ。


「僕、もしそのジョブ能力がちゃんと使えるようになったら、レイシャお姉ちゃんの手伝いをするんだ」

「……」


 ミークがそう言って、にへらと笑いかけてくる。

 やっぱりとても優しい子だと、私は目を細めた。



 それから、みんなで談笑して、とりとめのない話もたくさんして――。


 ああ、やっぱり私はこの孤児院にいるみんなが好きだなと、そんなことを思った。


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