第23話 大司教クラウスの執行と、成れ果て
「さて、と」
「どうするの……?」
「ああ、ちょっとコイツのジョブ能力を使わせてもらうだけだ」
俺は問いかけてきたテティに軽く答えて、クラウスの元に歩み寄る。
そして、青白い文字列を表示させた。
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【毒を操る者】のジョブ能力
・「痛みを与える毒」と「行動不能にする毒」の二種類があります。
・使用した毒については任意で調節・解除が可能です。
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――『使用した毒については任意で調節・解除が可能』か。
その事実が分かれば安心だ。クラウスが獣人族にかけた毒もこれで解除できるということだ。
じゃあ次は、と。
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累計執行係数:82,846ポイント
執行係数10,000ポイントを消費し、
【痛みを司る毒の女王】を実行しますか?
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――承諾。
「痛みを司る毒の女王、発動」
俺はクラウスに向けて最大出力で毒霧を放つ。
「お前が散々振りまいてきた毒だろう? 自分自身でよく味わえ」
「あぁああああああ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!!!!」
目は赤く血走り、クラウスは涎を垂らしながらのたうち回る。
「それじゃあ質問だ。お前は何故テティの血を得ようとした?」
「そ、それはぁ! あがががが! ソーマの雫、という人の精神を操る魔薬を造るため、でぇ!」
「……誰の指示だ?」
「ぅ……」
「答えろ」
「あぁあああああ! マルク……、マルク・リシャール様、です!」
――マルク・リシャール? 聞いたことのない名だ。
「私は……、新世界を築こうとしているマルク様に、認められようと……」
「そのマルクとやらはどこにいる?」
「あの方は、今、王家に、いて……。あがぁ……!」
「……っ」
ここで王家か。
少なくとも俺は知らない人物だ。
となると、俺が王家を追放された後に現れた人間?
その人物がここ最近の王家の動きに絡んでいる?
俺はその後も何度か問いかけるが、クラウスは新世界を造ろうとしているマルクに心酔しているという趣旨の言葉を繰り返すばかりで、めぼしい情報は得られなかった。
新世界という怪しい宗教じみた言葉が何を指すのかは分からない。が、マルクはその目的のために暗躍しているということなのだろう。
後で情報屋のフランとも共有して確かめてみる必要がありそうだ。
「お、お願いです……。これだけ質問に答えたのですから、そろそろ毒の解除を……」
「俺、質問に答えたら毒を解除するなんて言ったっけ?」
「………………は?」
クラウスの顔が絶望で染まる。
「お前はさっき言ったな。自分に関係ない者の死など気にする必要は無いと。その対象が自分に及んだ途端にお前は助けてくれというのか?」
「そ、そんな……」
「聞くが、お前はテティに対して何をした? あの子の腕に付けた傷、そして獣人族もろとも殺そうとしたこと、忘れたとは言わせん」
「…………あ、あぁ」
「まあ、そう悲観するな。死なない程度の痛みにはしておいてやるから。その代わり、お前はずっとその痛みを抱いていくことになるけどな」
「あぁあああああああっ!!!」
俺が許すことなどないと悟ったのか、やがてクラウスは狂ったように頭を地面に打ち付け始める。
痛みからか、それとも恐怖からか。クラウスの髪は白く染まっていく。
俺はそんなクラウスに向けて呟いてやった。
「執行完了――」
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クラウス・エルゲンハイムの執行完了を確認しました。
執行係数237,111ポイントを加算します。
累計執行係数:309,957ポイント
※新たに【《毒を操る者》】のジョブ能力を刈り取りました。
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俺は表示された青白い文字列の内容を確認してから、踵を返す。
――と、その時だった。
「あ、あれ……」
テティが俺の後ろを指差し、俺もつられてそちらを見る。
すると、クラウスの辺りに何やら黒い瘴気のようなものが立ち込めていた。
「あ、あ……、マルク様……」
「――まったく、おしゃべりな人形だなぁ」
瘴気が人の形にまとまると、そこから聞こえたのは無邪気な少年の声だった。
――魔力の集合生命体? いや、分身を作り出し遠隔操作しているのか。
「マルク様……。私、は、毒をかけられて……。どうか、お救いくださ――」
「うん、分かった。楽にしてあげるね」
「あ――」
――グチャリ。
瞬間、クラウスの体が瘴気に包まれたかと思うと、何かをすり潰したような音がした。
俺はその光景を見せまいと咄嗟にテティの目を手で覆う。
「それじゃあ、黒衣の執行人。もしかしたら、また――」
「……」
そんな言葉を告げて黒い瘴気は霧散した。
――あれが、マルク・リシャールか……。
「アデル様!」
「アデルさーん! 無事……に決まってるッスね!」
俺の思考は駆けつけてきたメイアとフランによって遮られる。
――とりあえず考えるのは後にして、まずはテティの保護と獣人族にかけられた毒の解除を優先しよう。
瘴気が消えた場所には、クラウスだったであろう跡だけが残っていた。
次話が第一章の最後のお話です!






