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第21話 神をも束縛する鎖


「素晴らしい。素晴らしいですよテティ。さぁ、私の神聖な儀式を邪魔した害虫を駆除するのです!」


 クラウスは大げさに両手を広げ、高揚した様子で叫んだ。


 ――奴隷錠でテティを操作し俺にぶつけるつもりか。屑の考えそうなことだな。


「テティ、その男を攻撃しなさい」

「……イ、やダ…………」

「フフ、抗っても無駄です。こうして奴隷錠に流し込む魔力を増大してやればね!」

「グ、ガァアアアアア――!」


 破壊衝動に塗りつぶされたような咆哮の後、テティの赤い瞳がより紅く染まる。

 そして、その瞳は次に俺の姿を捉えていた。


 ――ビシュッ!


 瞬速の一閃が俺の髪をわずかに散らす。

 並の人間であればその攻撃で胴を裂かれていたと、そう思わせる程の一撃。


 外見は小柄な少女のままだが、体に纏った銀の光が放つ圧力は凄まじいものだった。

 いつの間にかクラウスに傷つけられた腕も回復している。


「お前は知ってたんだな。この子のジョブ能力を」

「ええそうです。まさかここで役立ってくれるとは思いませんでしたがね」


 クラウスが鼻にかかる声を漏らす中、操られているテティは連続して俺に攻撃を仕掛けてきた。

 高速で跳躍しつつ繰り出される攻撃を二度、三度と躱すが、俺はイガリマを振るうこと無くテティとの間合いを測る。


「ククク。やはり貴方に彼女を攻撃することはできないようですね。処刑される前の家畜としては十分すぎる活躍です、テティ」

「ウ、ウゥ……」


 テティの赤い瞳から涙が溢れ出す。


 嫌だ、と――。

 屈するな、と――。

 抗え、と――。


 そんな彼女の心の叫びが溢れ出す。


「貴方の狙いは分かりますよ、黒衣の執行人。彼女を操っている奴隷錠を破壊しようとしているのでしょう?」

「……」

「しかし無駄というもの。獣人族の中でも百年に一度現れるとされる【神狼(ヴァナルガンド)】のジョブ能力。その持ち主である彼女を捉えることなど、できるはずがありません」


 確かにクラウスの言う通り、ジョブ能力で強化されたテティの動きは相当な素早さだった。

 かつて戦ったゲイルや盗賊団の連中とは比較にならない。


 ――だが、捉えられないことはない。


 俺は間合いを測りながら、テティの動きが僅かに鈍ったその隙にジョブ能力を発動した。


==============================

累計執行係数:112,846ポイント

執行係数30,000ポイントを消費し、【神をも束縛する鎖(レージングル)】を実行しますか?

==============================


 ――承諾。


「レージングル、発動」


 俺の声に呼応して、テティの周辺の空間に亀裂が入る。


テティを全方位から取り囲むように発生したヒビ(・・)から伸びてきたのは「鎖」だ。

 その黄金色の鉄鎖(てっさ)は彼女の四肢を束縛し、動きを完全に封じた。


「なっ……。何ですかその能力は……!? くっ、このっ」

「無駄だ。お前がいくらテティに魔力を注ごうがこの鎖を断ち切ることはできん」

「ク、ク……」


 クラウスは一瞬くぐもった声を出すが、すぐに顔を上げると勝ち誇った様子で叫ぶ。


「しかしその奴隷錠は壊せませんよ! 何せそれは世界一硬いオリハルコン(・・・・・・)でできた特殊な奴隷錠ですからねぇ! 貴方がいくら破壊を試みたところで――」

「なら安心だ。その程度なら俺のイガリマで叩き斬れる」

「は、ハッタリを……!」


 事実だ。

 オリハルコンなら二年前(・・・)に一度ぶった斬ったことがある。


 しかも今のイガリマが参照している執行係数はその時より遥かに高い。これなら奴の魔力が込められていようとも破壊できるだろう。


 俺はイガリマを構え、テティの首に取り付けられた奴隷錠へと狙いを定める。


 テティと相対していたとしても、あの子を操作しているのはクラウスだ。

 どうやら俺の相棒(イガリマ)もクラウスの執行係数を参照して顕現(けんげん)してくれているらしい。


 構えたイガリマに辺りを黒く塗りつぶすような気流が集まっていく。

 そして、俺は漆黒の大鎌に命じた。


「《断ち切れ、イガリマ》――」


 ――ギシュッ。


 イガリマを振るうのと、テティの首に付けられた忌まわしい鉄輪が砕けるのは同時だった。

 束縛していた鎖を消失させ、力無く身を投げだしたテティを俺は抱き留める。


「あ……」


 テティが目を開けると、赤く染まっていた瞳は元に戻っていた。

 状況を理解したのか、テティは顔をくしゃりと(ゆが)める。


「う、ああ……。あぁああああああ……!!」


 その感情は安堵か、悲哀か、憤怒か。

 涙に濡れた頬が寄せられ、俺の黒衣が握りしめられる。


「あ、あり――」

「おっと、礼を言われるにはまだ早い。まだあのクソ野郎が残っているからな」

「…………う、ん」


 俺がそっと降ろすと、テティは先程とはまた違う意思のこもった目で俺を見据えた。


「お願い。アイツは獣人族のみんなを――」


「……ああ。その復讐(ねがい)、請け負おう」


 俺の言葉にテティはゆっくりと微笑む。

 そして、俺は狼狽(ろうばい)しているクラウスに向け、告げてやった。


「覚悟はいいか、クソ野郎」


 今回の元凶。

 俺はその対象に向けてイガリマを構える。


 ――さあ、執行の時間だ。


いよいよ次話から大司教クラウスの執行開始です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「なっ……。何ですかその能力は……!? くっ、このっ」 説明文はないので、ここ見ると「クソ司教は鉄鎖束縛され、もがくを試し」と勘違いです。日本アニメのイメージによって「くっ、このっ…
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