第07話:戦闘力ゼロの荷物持ち
この世界には、固有スキルと保有スキルの2つが存在する。
保有スキルとは単純にその人が保有しているスキルだ。人から教わったり特定の動作を繰り返すことで、スキルを取得することが出来る。スキルの習得に必要なのは基本的には努力だけだ。ひたすら反復練習を続ければ、たいていのスキルは取得できる。
これに対し、固有スキルは生まれつき取得しているもので、後天的には取得できないレアスキルも存在している。たとえレアスキルじゃなくても、後天的に取得できるものよりは性能が良いことが多い。僕のスキル【殲滅】はかなりのレアスキルだと思う。僕以外に持っている人を見たことも聞いたこともない。
だが、セーラたちは、僕の固有スキルはスキル【収納】だと思っている。それくらい珍しいスキルなのだそうだ。だからこそ、セーラは強引に僕を連行しパーティに引きずり込んだのだ。
セーラたち3人は同じ村出身の幼馴染同士で、3人とも上に兄弟姉妹がいて家業を継げないため冒険者を目指したらしい。3人とも固有スキルが特別強いわけでもなく、それぞれ別のパーティに入ろうかという話をしていた時に、現れたのがスキル【収納】持ちの僕だったのだ。
スキル【収納】を持っていれば、それだけで冒険が楽になり冒険者として成功する可能性が高くなる。だが、スキル【収納】持ちなら、商人を目指したほうが儲かるので滅多にいないらしい。
だからセーラたちが3人でパーティを組むために、僕はすごく都合の良い存在だったのだ。
だが、それも駆け出しの頃の話。ある程度、パーティが軌道に乗れば、多少値は張る魔法鞄を買うという選択肢が出てくる。ただの荷物持ちはお役御免のお払い箱。追放待ったなしになる。
つまり、『ざまぁ展開』を目指す僕と、3人でパーティを組みたかったセーラたちの利害は完璧に一致。まさに運命の出会いだったのだ。
そして、僕の計画は順調に進み…………気づいたら半年が経っていた。なんで?
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冒険者パーティ『青嵐』。所属メンバーは、セーラ・コガネ・ヒスイ、そして僕を加えた4人。
それが、僕らが結成したパーティだ。パーティ名は、4人とも特にこだわりがなかったので、全員が1つずつアイデアを出して、くじで決めた。ちなみに、採用されたのはセーラのアイデアだ。
完全に勢いだけで結成されたパーティだった。だが、半年の間にCランクパーティになり、中堅に片足を突っ込んだと言えるくらいにはなっていた。
メンバーは誰一人欠けることなく、まさに順調に成長していた。いや、僕が欠ける予定だったから順調ではないんだが。
その成長に僕が一役買っている…………わけではない。
僕は悲しいくらいに無能だった。本当なら『ざまぁ展開』を創るために、必死に努力しながらも実らない振りをする予定だった。
だが、スキル【殲滅】を使わない僕は、振りなんてしなくても無能だった。必死に努力したところで、戦闘の役に立つスキルが習得出来なかったのだ。
代わりと言っては何だが、細々したスキルはたくさん取得した。パーティの役に立つためというのもあったが、半分くらいはビビりな僕が生き残るために取得したスキルだ。
改めて、半年経って成長したステータスを確認する。
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名前:サネヤ
年齢:16
性別:男
固有スキル:殲滅
保有スキル:収納・索敵・俯瞰・十里眼・盗み聞き…………
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スキル【殲滅】とスキル【収納】を除けば、平凡で中途半端なスキルだらけ。セーラたちが順調に強力なスキルを習得しているのに。僕は戦闘力ゼロの荷物持ちのままだった。
荷物を運びながら敵を探す囮。それが僕のパーティでの役割だ。いると便利かもしれないが、自分の身を守る術がないので常にフォローする必要がある。総合すると、役立たずの足手まといだ。
だが、思った以上の自分の才能のなさに悲しくなったこと以外、当初の計画からは何も外れていない。
どう考えても、僕は必要のない追放するべき人材に仕上がっていた。セーラたち3人は幼馴染の絆があるが、僕は違う。たまたま会っただけの関係だ。何の気負いもなく、いつでも追いだせるはずだ。
なのに、いつまでたっても追放してもらえない。もしかして、僕の方から出ていくのを待っているのだろうか?
逆に、セーラたちは無能な僕でも受け入れてくれているのではないか? と淡い期待を抱いたこともある。
だが、僕が無能というのは事実なので、そんな期待はすぐさま捨てた。期待していると、その分悲しくなるからね。
「………………はぁ」
追放まで、もう少しのところまでは来ていると思う。パーティが成長するにつれて、僕の役割は順調になくなっている。というか、僕はいくらでも替わりがきく人間なのだ。
セーラは何かにつけて僕に文句を言ってくるし、僕の無能さにいら立っているのは明白だ。
他にも3人が僕のことで揉めているのを聞いたことがある。僕の名前が聞こえた後、セーラが大声で何かまくし立てていたのだ。声の感じからしてセーラは明らかに怒っていた。
詳しい内容を聞きたかったが、壁越しでは聞き取ることが出来なかった。僕の追放に繋がりそうな会話を聞くためにも、スキル【盗聴】を取得したかったのだが、下位互換のスキル【盗み聞き】が精いっぱいだった。
矛盾しているが、僕はパーティのためになろうと努力をしていた。戦闘系のスキルは一切習得できないけど、スキル【索敵】を使い、ある程度の貢献はしているはずだ。
追放を目標にしているのに、追放されたら普通に凹むかもしれない。自分でも何がしたいのかよく分からなくなってきていた。
だが、僕は『ざまぁ展開』を創ることを諦めるつもりはない。なぜなら、スキル【殲滅】を持っているから。………………スキル【殲滅】を持っているから、僕は……。
※※※※※
僕がそんな風にうじうじ考えている間にも、セーラたちはどんどん成長していたので今日も冒険は無事に終了した。
コガネが言うように「今日もなんとかなった」ということで(セーラはやいやい文句を言っていたが)、僕らは無事に滞在している街に帰ってきた。
街の名は、イガチレス。
この半年の間に、色んな街を巡ったけど、その中でもかなり大きな街だ。僕がこの世界に来てから最初にたどり着いたバノイアデが小さく思えてしまう。
このぐらいの規模の街になると、街に入る際のチェックも厳しく衛兵も多い。だが、僕も半年前とは違い、堂々とくぐり抜けた。森を彷徨っていたわけじゃなく、ちゃんと森を探索してきたのだ。まぁ、敵を倒したのは全部コガネとセーラだけど。
それに堂々としてないとセーラに嚙みつかれるのだ。僕は、基本的に暗くて気弱で受け身で役に立たない人間なので、堂々とするのは苦手だ。だけど、セーラは同じパーティになよなよした奴がいるのが許せないらしい。気が強くて、プライドが高いのだ。
そんなセーラだからこそ、僕は期待していた。セーラなら僕を追放してくれると。
だが、セーラは短気なので下手に刺激しすぎると、追放ではなく始末される可能性がある。だから、僕は日々セーラの機嫌には気を配っている。まぁ、気を配っていても怒らせてばかりだけど。
今日の探索は割と大変だったので、早めに休もうということになった。僕のパーティはホワイトなので、しっかり休息をとるのだ。
今日も無事に生き延びたことに感謝をしつつ、明日が運命の日かな? と期待もしながら、眠りについた。