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第06話:追放……されるはずだった。


 ――半年後。


 ついに運命の日がやってきた。


「サネ、悪いけどお前は追放だ。パーティから出て行ってくれ」


「えっ…………」


 コガネから告げられた追放宣告。場所は、僕たちのパーティが滞在している宿屋に併設されている酒場。まだ時間が早いため、僕たち以外のお客さんは少ない。


 だから、これは聞き間違いでも何でもない。はっきりとした追放宣告だ。


「何だよ、その顔。まさか、理由が分からないのか?」


 コガネの顔には失望が隠しきれていなかった。


「分かってんでしょ、あんた足手まといなのよ」


 対照的にセーラの顔には嫌悪感がありありと出ていた。そもそも隠す気がないのだろう。

 そうか、セーラはそんなに僕のことが嫌いだったのか。まぁ、セーラに関しては、この半年の間に色々なことで文句を言われていたから、そう不思議でもない。


「ごめんね。私の魔力にも限りがあるから、サネくんの怪我ばっかり治してたら…………正直困るんだよ」


 だけど、ヒスイにまでこんなことを言われるとは思わなかった。ヒスイは申し訳なさそうな顔をしているが、コガネとセーラを止めようとはしてくれない。


 僕は戦闘力が乏しいからこそ、魔物に襲われることが多かった。索敵で襲われることは分かっていても避けたり防げなかったら意味ないのだ。


 結果、ヒスイの回復魔法にはお世話になりっぱなしだった。その度に、気にしないで良いよと明るく言ってくれていたが、やはり負担になっていたのか。


 セーラほどではないけど、ヒスイも僕に出て行って欲しいと思っているのは明白だ。

 

「でも、僕だって索敵や収納で貢献してきたじゃないか!」


 3人の表情で無駄だと分かっているのに、女々しく食い下がってしまう。


 パーティに貢献してきたのは本当なのだ。少なくとも、僕は貢献していると思っている。荷物運びだけじゃない、索敵や交渉事、その他の雑用を僕はこなしていた。完全な足手まといじゃないはずなのだ。


「分かってくれよ。俺たちは――」


「コガネ。こいつには、はっきり言わなきゃ伝わらないわよ。あたしたちのパーティに無能は必要ないって!」


 コガネを遮り、セーラが吐き捨てるように言い放つ。遮られたコガネも気まずそうな顔をしているが、フォローしてくれる気配はない。つまり、これがパーティの総意というわけか。


「悪いな。いつまでも無能(サネ)を守ってやる余裕はないんだ。俺たちのために…………出て行ってくれ」


「…………分かったよ」



 こうして、僕は半年間も一緒に冒険してきた仲間に追放された。



 割とあっさりとした別れだった。罵られたり、荷物を取り上げられたりはしなかった。理不尽な理由で追放されたわけでもない。…………ただ、僕が自分で思っているよりもパーティの役に立っていなかった。

 これじゃあ、復讐する気にもなれない。そう思っていたのだが。


 酒場を出た途端――


「おい、セーラ! はっきり言いすぎだろ。せっかく俺たちが穏便に話進めてたのによぉ」


「そうよ。あれじゃ、サネくん可哀想じゃん。それに、笑い堪えるの大変だったんだけど!」


「あれじゃ、まだるっこしいだけじゃない。あいつ暗いしうじうじしてるから、一刻も早く出て行って欲しかったのよ!」


 「言い過ぎろ」「まぁ清々したしいいんじゃない」「これでやっとまともに冒険できるわね……」などと、僕を嘲笑う3人の声が嫌というほど聞こえてきた。


 僕は戦闘力の面では役に立たなかったので、そのほかの面でカバーしようと細々と色々なスキルを取得していた。そのうちの1つ、スキル【盗み聞き】で、扉越しの会話でもばっちり聞こえてしまった。


 皮肉なことに、3人のためになるだろうと思って取得したスキルで、現実が突き付けられた。



「くそっ、馬鹿にしやがって!」



 ――などと、言いたいところだが!



 ここまで、全て計画通り!



 本来なら、ここから努力してスキルを覚醒させたり、新たな仲間を探したりして、成り上がらなければならないが。僕には必要ない。すでに完璧なスキルを保有している。ついに、スキル【殲滅】を解禁する時がやってきたのだ。


 僕が抜けたことで、セーラたちが没落するかは分からないが、場合によっては僕が根回ししてもいい。


 待っていろ、完璧な『ざまぁ展開』を創ってやる! ここからが僕の物語だ!






 ――と、なるはずだった。…………なるはずだったのだ。






 ※※※※※






 ――半年後。



「いやぁ、今日もどうにかなったな!」


「何がどうにかなったよ。あたしの援護がなかったら、あんたマジで危なかったのよ」


「私の回復魔法だよりで行動してたし。あのときサネくんが警告してくれなかったら、不意打ち食らってたよ」


 コガネのお気楽な発言に、すぐさまセーラが嚙みついて、ヒスイもフォローするような口調で追撃する。いつもの光景だ。


「そんなことねぇよ。なぁ、サネ?」


 そして、コガネが僕に助けを求めてくるところまでがワンセット。この半年で何度も繰り返したやり取り。


「まぁ、危なかったのは事実だよ。僕が怪我したから、ヒスイの魔力も減ってただろうし」


 フォローしてあげたいのは山々だが、下手にフォローすると僕までセーラに嚙みつかれるのだ。何もしなくても噛みつかれることが多いので、余計な波風はたてないに限る。


 セーラを怒らせないように立ち振る舞うのも僕の日常だ。…………こんな感じの日常がいつまでも終わらない。



 そう、僕は未だにセーラたちと冒険を続けていた。

 運命の日はいつまでたってもやってこない。


 僕は、セーラたちの前でスキル【殲滅】を一度も使っていない。そりゃ色々スキルは増えているけど、基本的にただの荷物持ちのままだ。


 なのに、未だに追放されていない。今日も、元気にパーティの荷物運びをやっている。



 なんで⁉ なんでセーラたちは僕を追放しないの? 僕は自他ともに認める無能だよ⁉



 『ざまぁ展開』がやりたくて無能を演じているのに、いつまでたっても追放してもらえない。いつになったら僕の物語は始まるんだ?

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