第05話:追放を前提に、仲間にしてください。
「いいから一緒にきて!」
そう言ったきりセーラは僕を引っ張って進んでいる。
女の子と手を繋ぐなんて、体育祭のフォークダンス以来だ。まぁ、今は手を繋いでいるんじゃなくて、腕を掴まれて連行されているんだけど。
何が起こっているのかよく分からないけど、セーラはまるで当然のように引っ張っていくので、僕も何事もなかったかのように話をしよう。
「これ、どこに向かってるの?」
「冒険者ギルドよ」
「……ちょうど良かった。僕も探してたんだよ」
できれば、冒険者ギルドに連行される理由もお伺いしたいところだ。スキル【収納】がきっかけなのは分かっているんだけど。
「ちなみに、何で冒険者ギルドに向かってるの?」
「行けば分かるわ」
説明する気はないってことか。…………ちゃんと説明して欲しいなぁ。
だが、チキンで根暗で受け身な僕には、これ以上言えない。
よって大人しく連行されることになる。冒険者ギルドに行きたいのは本当だし。ヤバそうだったら全力で逃げよう。
そのまま、しばらく進んだ後、セーラが急に立ち止まった。
「確認してなかったけど、サネヤは冒険者になるつもりよね?」
「そのつもりだよ。ていうか、他にやれそうな仕事ないし」
文字を含めて、この世界の常識がない僕に、この世界で就職するのは無理だろう。となると、冒険者になるしかないのだ。というか、常識があったとしても商人とかは僕には向いてなさすぎる。
それに『ざまぁ展開』を実現するためにも冒険者になることはマストだ。
「たしかにね。サネヤは商売とか無理そうだし」
その通りだと思うけど、こうもはっきり言われるとちょっと傷つくな。反論の余地がないのが悲しいところだ。
それ以降、セーラは何も説明する気はないようで、黙って大通りっぽい道を突き進んでいく。
そうして、セーラに引っ張られて冒険者ギルドに向かうこと数分。
僕らは、バノイアデの冒険者ギルドにたどり着…………くことが出来なかった。
バノイアデの街は思った以上に大きかったようだ。
僕らは完全に迷っていた。
まぁ僕は引っ張られただけなので、実際に迷ったのはセーラだ。
僕はこの街は初めてだし、文字も読めない。つまり、本当なら僕には迷っているかどうかすら分からないはずだ。だが、そんな僕にでも、今は迷っているとはっきり分かる。
だって、さっきの服屋に帰ってきたんだもん。ここを出発したよね?
自信満々に歩き出したけど、セーラ、道知らないじゃん。
「えっと、差し出がましいかもしれないけど…………。迷子になったら、誰かに聞いたほうが良いと思うよ?」
「べ、別に迷ってるわけじゃ……ないこともない……んだけど。一応、念のため、聞いてくるわ」
そして、僕らは服屋のおばちゃんに道を教えてもらった。そもそも最初から真反対に突き進んでいたようだ。にしても、元の場所に戻ってくるって…………。
森で散々迷った僕に、人のことは言えないけども。…………僕、迷子になりすぎじゃない?
※※※※※
バノイアデの冒険者ギルドはわりと目立つところにあった。
逆に、よくセーラはここを見つけずに服屋に戻れたなぁと感心するレベルだ。ただ、僕も街をうろうろしているときに、一度通っていたのに気付いてなかったから同じレベル。
「ここが、バノイアデの冒険者ギルドよ!」
あれだけ迷ったのに、よくそんなドヤ顔が出来るなぁ、と思ったがお口にチャック。てか、服屋のおばちゃんに道を聞いてからも、若干道に迷ってた気がする。
「あれ、おかしいわね。2人ともいないじゃない。ここで待ち合わせのはずなんだけど」
セーラは、冒険者ギルドの入口で誰かを探してキョロキョロしていた。
これだけ方向音痴のセーラと待ち合わせって、その人たちは勇気ありすぎじゃないだろうか。電話的な連絡取る手段がなかったら、再会できない可能性すらありそうだ。
「中に入って待ってるんじゃない?」
誰と何の理由で待ち合わせしていたのかは知らないけど、もうここまで来たら流れに乗るしかない。…………流れに乗ってるんじゃなくて、流されっぱなしな気がするのは気のせいだと思いたい。
冒険者ギルドの中は、受付と酒場があった。僕が想像していた、ザ・冒険者ギルドって感じの内装だ。
「あ、いたいた。あそこよ」
セーラが指さした先には、金髪のイケメンと、緑髪の美少女が座っていた。どちらも僕と同じくらいの年齢に見える。
近づいていく僕らに気付いたのか、少年が振り返り声をかけてきた。
「おせぇぞ、セーラ。何やってたんだよ」
「いや、聞くまでもないでしょ。どうせ迷子なんだから。だから言ったのに」
すぐさま緑髪の美少女が言い当てる。それが分かってるなら1人にしないであげればいいのに。
「迷子になんてなってないわよ! 人助けしてたの」
…………迷子にはなってたよね?
※※※※※
セーラによると、金髪の少年がコガネ、緑髪の美少女がヒスイというらしい。3人とも同じ村の出身で、冒険者をやるためにこの街にやってきたとのこと。
よく分からないまま、僕も2人に自己紹介をした。ただ、コガネたちも事情はよく分かってないみたいだ。
コガネもヒスイも「で、どしたの? 何か用?」みたいな雰囲気でこちらを見てくる。そんな目で見られても困る。僕が知りたいよ。
強いて言うなら、追放を前提に仲間にしてください。なんて、面と向かって言えるわけないし。
「サネヤ、あたしたちの仲間になりたいんだって!」
「そうそう、そうなんだよ――って、えっ?」
なんでバレてるの? 僕、口に出してないよ? もしかして顔に出てた?
セーラは驚いている僕を見て「あたしに任せて!」みたいな顔で頷いた。気弱な僕は、それだけで黙らされてしまう。
セーラは、コガネたちの方に向き直り、
「聞いて驚きなさい。――サネヤはスキル【収納】が使えるのよ」
声のボリュームを落とし自慢するかのように、僕のスキルを告げた。
僕としては、スキル【収納】やアイテムボックスは物語の中では結構な割合で持ってたし、そんなに珍しいとは思っていなかった。
だが、セーラの言葉を聞いた2人の反応は劇的だった。
「うそだろ?」
「ほんとに?」
2人も衝撃を受けているようで、周りに聞こえないようになのか、顔を近づけて小声で聞いてくる。
「えっと、うん。スキル【収納】なら使えるよ」
つられて僕も小声で返す。
「! そういうことなら、俺は大賛成だ」
よく分からないままに、コガネは僕を仲間として認めてくれたようだ。そんなにスキル【収納】ってすごいんだろうか。
「……ねぇ、君、もしかしてセーラに無理矢理連れてこられたんじゃない?」
ヒスイはまたも真実を言い当てる。セーラの性格をよく知っているようだ。当の本人は、そっぽ向いて知らん顔をしている。
「…………まぁ割と無理やりだった気もするけど。でも、仲間を探してるのは本当だから、パーティに入れてくれたら嬉しいんだけど」
僕としては勇気を振り絞った発言だ。今は勢いに任せて行動するべき時に違いない。
「まぁ君が納得してるなら、私も賛成だけど」
ヒスイとしてもスキル【収納】持ちの僕を断る理由はなかったようだ。スキル【収納】ってもしかしてチートスキルなのかな?
てか、セーラはスキル【収納】が欲しくて、僕を連行もとい勧誘したのか。
何にせよ、僕にとっては都合の良すぎる展開だ。ご都合主義万歳!
これでしれっと仲間になって、後に「ただの荷物持ちはいらねぇよ、追放だ」と言われる流れまで見えた! スキル【収納】の有能ぶりを上回る僕の無能っぷりをとくとご覧あれ。
「とりあえず、詳しい話っていうかサネヤの歓迎会? は食べながらにしようぜ。腹減ったよ」
コガネの発言により、そういうことになった。
その後、食事をしながら、事の経緯やセーラの思惑などを共有し、セーラの迷子の話などで盛り上がったりした。
そして、僕はセーラ・コガネ・ヒスイの3人と正式にパーティを組むことになった。そのまま、僕たちは仲良くギルドで冒険者登録を済ませて、晴れて冒険者になった。ついでに、パーティ申請も済ませた。
あまりにも都合が良くて怖いくらいだが、まぁいずれ追放されるのだから良いだろう。 いずれ僕を追放してね! それもなるべく手酷く理不尽に!
とりあえず、これで最低限の準備は整った。
あとは、追放されるだけ!
セーラたちに、追放されることで『僕の物語』が始まるのだ。