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手袋と流れ星

作者: 綸子

ひーろった!


やっぱり、返そ。



なくしものが見つからないとき、いちばん星にかけるおまじない



おねえちゃんに聞いたおまじない



なくしたものがきっと見つかる



でも・・・いったいだれが見つけてくれるんだろう。







寒い寒い冬の土曜日の朝に、ちひろは家から小学校までの道のりを泣きそうになりながら歩いていました。



いつもなら、こんなふうに少しでも雪の積もった朝はもうわくわくして、早く庭に出て雪遊びをしようと張り切っているところです。



でも、今朝はそんな楽しい気持ちにはなれません。




真っ白になった通学路を、下ばかり見ながら歩いていたからか、その男の子が居ることに気がついたのはほんの三歩ぶんくらいの距離まで近づいた時でした。




水色の長靴が見えたので、ちひろは顔を上げました。



と同時に、その男の子はちひろに話しかけてきました。





「なにを さがしてるの?」



知らない男の子に話しかけられたことにももちろん驚きましたが、言われた言葉に、ちひろはもっと驚きました。


だって、お母さんにさえ何も言わずに出かけてきたというのに、どうしてこの男の子は、ちひろが「何かを探している」とわかったのでしょう。



あんまり驚いて、何も言えないで立ちつくしているちひろに、男の子は





「ねぇ 大事なもの さがしてるんでしょ」





と言いました。




ちひろは思わず、




「どうしてわかるの。」





と、聞き返しました。




男の子は何も言いませんでしたが、心配そうにじっとちひろを見ています。





さっきまで驚いて何も言えなかったちひろの口から、ぽつん、ぽつんと言葉がこぼれてきます。




「手袋、さがしてるの」



「おねえちゃんの手袋が、片方だけなくて」



「私、ないしょで借りちゃって、それで…」



言いながら、のどの奥がじんと熱くなって、ちひろはだんだん、本当に泣きそうになってきました。



おねえちゃんの手袋は、この冬に入ってから新しく買ってもらったもので、ちひろのピンク色の毛糸の手袋と違って、ちょっと大人っぽいのです。



こっくりした深い赤色で、触るとすべすべしているし、手首のところには金色の小さな星のチャームまでついています。



その手袋がうらやましくて、つい、おねえちゃんに黙って借りてしまったのでした。




俯いてしまったちひろに、男の子は言いました。



「ぼくが 見つけてあげる」




どうして?とか、あなたはだれ?とか、いろんな質問が頭に浮かんできましたが、一人きりで探すよりも心強いかもしれない、と思う程度には心細くなっていたちひろは、おねえちゃんの手袋の特徴を思い付く限り男の子に伝えました。



男の子は、その場をくるりと見回すと、



「このあたりじゃないみたいだね」




と言って、ちひろの先に立って小学校のほうへと歩き出しました。





ちひろは慌てて後を追いました。

男の子は、きょろきょろするでもなく、特別ゆっくり歩くわけでもなく、どんどん進んでいきます。




(こんなんじゃ、手袋、見過ごしちゃうんじゃないかなぁ)




ちひろはちょっとそう思いましたが、男の子がとても真剣な目をしているように見えたので、黙ってついていきました。




もうすぐ学校に着く、という信号のある交差点へ差し掛かったとき、前を歩いていた男の子がふいに立ち止まりました。

そして、信号のたもとにしゃがみこむと、雪の下に落ちていた手袋をそっと手にとって、丁寧に雪をはらってちひろに差し出してくれました。



「きみのさがしものは これ?」




それは、昨日の夕方からずっと探していたおねえちゃんの手袋でした。



きっと、学校からの帰り道で、一緒に信号待ちをしていた散歩中の犬を撫でるときに、外してポケットに入れたつもりで落としてしまっていたのでしょう。



「おねえちゃんの手袋だ!」




ちひろは男の子から手袋を受けとると、もう絶対に落とさないようにぎゅっと握りしめました。




「ありがとう、ほんとに見つけてくれたんだね!」



と、ちひろが男の子にお礼を言うと、男の子は、



「きみがちゃんと約束を守ってくれたからだよ」



と言いました。



(どういうこと?)



ちひろが聞こうとしましたが、




「お家の人が きっと心配してるよ 早く帰ろう」



と言われて、言われた拍子に朝ごはんも食べずにいることを思い出して、男の子と一緒に元来た道を戻り始めました。




おねえちゃんの手袋が見つかって少し元気が出てきたちひろは、少し歩いてから男の子に尋ねてみました。




「ねぇ、どうしてあそこに手袋があるってわかったの?」




男の子は、事も無げに




「ぼく なくしものをさがすのが うまいんだよ」



と、答えました。




よくわからないなぁ、と思ったちひろは、



「じゃあ、さっき言ってた、私が約束を守ったから、っていうのは?」



と、気になったのに聞きそびれたことを尋ねてみました。




男の子は、ちょっと考えるように上を見上げるような仕草をしたあと、



「昨日の夕方のことだよ でもヒントはここまでね」




と言うと、




「さあ 着いた」




と、立ち止まりました。

いつのまにか、ちひろの家の前まで来ていました。出かける時はあんなに心細くて泣きそうな気持ちだったのに、嘘みたいです。



男の子は、



「みつかって良かったよ これでぼくも帰れるから」

と言うと、きらきら輝くような笑顔でちひろに手を振りました。




ちひろは、まだ聞きたいことがたくさんある気もしましたが、


(この男の子も、早くおうちに帰りたいよね、きっと)


と思ったので、質問をするのはやめて、かわりに



「手袋を見つけてくれて、本当にありがとう!」


と言って、笑って手を振り返すと、家の中に入りました。



家では、お母さんとおねえちゃんがコートを着て、出かける支度をしていました。ちひろの顔を見るなり、


「ちひろ!黙って出かけたら心配するでしょう!」


「今、探しに出かけるところだったのよ!」


と、二人とも大きな声で言いました。




ちひろは、黙って出かけたことを謝って、昨日おねえちゃんの手袋を黙って借りてしまったこと、片方の手袋を落としてしまったために探しに出かけたことを二人に話しました。でも、一緒に手袋を探してくれた男の子のことは、どう説明したらいいのかよくわからなかったので、言わないでおきました。




お母さんは、

「こんな雪の朝に、よく見つかったわねぇ」

と言って、朝ごはんの支度の続きに台所へ戻っていきました。


おねえちゃんは、

「お父さんが起き出して大騒ぎする前に帰ってきてくれて良かった!」

と言って、ちひろの頭にぽんと手を乗せました。


そして、ちひろはおねえちゃんとダイニングテーブルをふいたり、お箸を配ったりと朝ごはんの準備をしながら、ふと、



「おねえちゃんのおまじないが効いたのかなぁ。」とつぶやきました。





「おまじないって?」

おねえちゃんは何のことだかわからないという顔をしています。




ちひろは、

「昨日ね、家の前で、おねえちゃんの手袋がない!ってわかったとき、いちばん星が見えたの。だから、いちばん星に、石ころを拾って、返して、かわりになくしものを見つけてもらえるおまじないをしたんだよ」

と、説明しました。




おねえちゃんは、しぱらく首をかしげて考えていましたが、やがて、

「ああ!わかった!ずーっと前にちひろに教えてあげたやつだ!」

と、すっきりした顔になりました。


でもそのあとで、ちょっと眉を寄せて、こう言いました。

「でもちひろ、それちょっと違うよ。」




「え?どういうこと?」

こんどはちひろが首をかしげます。



おねえちゃんは、こう続けました。

「あのおまじないはね。いちばん星がなくしたものを見つけてあげる代わりに、自分がなくしたものを見つけてもらえるっていう、そういう約束をするって意味があるんだよ。」



なんだかちひろが思っていたのとだいぶ違うようです。

「そうだったの?いちばん星のなくしたものなんて私、知らないよ。」

ちひろはちょっとがっかりしながら言いました。

おまじないが効いたんだったら素敵だなぁ、と思っていたからです。




おねえちゃんは、

「あ、そうか。前はそこも説明しなかったのかな。あのね、いちばん星がなくしたものっていうのは、ながれ星のことなんだって。おまじないでは、ひーろった!って、足元に落ちていた小石を手に取るでしょ?その石がもし流れ星のかけらだったら、なくしたものはその流れ星が見つけてくれるんだって。もしかしたら、ちひろ、ながれ星のかけらを拾って帰してあげたのかもしれないね。」

と、最後のほうはちょっとからかうように言いました。



ちひろは、窓の外を見ました。




当たり前ですが、手袋を探してくれた男の子はもうそこにはいません。



あの男の子は、本当はながれ星だったのでしょうか。



ちひろは、男の子が人間でもながれ星でも、自分のおうちに帰れていたらいいなぁ、と、そんな風に思いました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 流れ星君、無事お家に帰れたんでしょうか? 可愛らしいお話でした。
2021/12/29 16:21 退会済み
管理
[良い点] 書き出しが素敵です! [一言] お気に入り登録させていただきました!
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